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Knight and Mist第八章-9 王都に吹く風

「そこまでだ!」

マンホールのようなところから顔を覗かせた途端、複数の槍がつきつけられた。

イーディスとハルカは肩をすくめて手をあげる。

「だから言ったじゃねーかトンチンカン! せめて城から出るくらいは距離を取ってから地下水道から上がろうって! バカ! マヌケ!」

「どこから地上に出たって一緒でしょ! 門の外に出ちゃったらまた入れなくて困るだけだし! なら一番手前でいいのよ!」

「厳重に警備されてるとこに突っ込んでどうすんだってこのブタ! 豚に真珠!」

「傷つくからその悪口はやめて!」

「イノシシみたいに突っ込むからだ! バカ!」

「小競り合いはそこまでだ」

衛兵と思しき、派手な鎧兜の男に聞かれる。

「不審者ゆえ拘束する。脱獄犯を捕まえよとイスカゼーレから特別に命令がくだっている。どこで地下水道から出ても同じだ。観念しろ」

「言ったでしょ! ブタは取り消して!」

「そんなこと話してる場合か!」

ーーと、そこに、また別の鎧マントを身につけた一団がやってきた。

「なんだあれ?」

二人はマンホールのようなところから頭を出す格好で怪訝そうにその一団を見つめる。

マントがキラキラしていて、やたらと派手だ。

「これはヘンタイーーきっと味方だわ!」

「お前の基準おかしくねえか」

ハルカが叫んで、イーディスが呆れたようにつぶやく。

「貴様ら、アンドレア様の私兵か!」

衛兵の声に応えるように、キラキラマントのなかでひとり派手な羽飾りをつけているやたらとイケメンな男が前に出た。

顎に手を当て、衛兵たちをジロジロ見ながら、キザったらしく衛兵たちの前を行ったり来たりする。

「お前らの命令はイスカゼーレから か・ん・せ・つ・て・き に女王からくだったものだろう」

くどい声で男が言う。

「衛兵諸君らと揉めたくはないがーーなにぶん、我々は ちょ・く・め・い を受けているもんでね」

「間接的だろうがなんだろうが、王都を護るのは我々の仕事だ。文句があるのなら、隊長のキアラ殿下に言ってもらいたい」

至極真っ当な反論をする衛兵。

「おい、この衛兵たちもヘンタイの手下だぞ! 味方じゃねえのか!?」

イーディスが嬉しそうに言った。

衛兵たちのボスーーキアラとは勇者で、スループレイナまで同行してきた普通にひとのいいお兄さんである。格好は変だが。現在おばちゃんたちにもみくちゃにされ行方不明である。

「失礼ね! キアラはヘンタイじゃない! でもたしかに、キアラのもとで働いてるのならーー」

ハルカがブツブツ言ってる最中に、

「アーッハッハッハッ」

キラキラマントの羽飾りの男が高笑いした。

「ずいぶん芝居がかった笑いだ」

ひきつり笑いで衛兵が言う。そんなこと耳に入っていないようで、羽飾りの男が続ける。

「キアラ殿下とて衛兵隊長といえどイスカゼーレの関係者。そしてオレたちはーー」

くるっと一回転。衛兵たちを指差し、流し目で見つめながらにじりより……衛兵たちが後ずさる。

じゅぶんなタメのあと、パッとキラキラマントが全員一回転。その中から現れたのは。

「モンティ!」

「モンド!」

イーディスとハルカが同時に叫ぶ。

なんかすごい羽飾りと花飾りで出てきたは、自称スループレイナの大貴族モンド・デ=ラ=モンロー。

エルフの森から聖獣を盗もうとしてシバかれていた。その後はなんだかんだで助けてくれた仲間である。

「イーディス! お前いい加減名前覚えろよな!!」

「アッハッハ何言ってんだ俺様の炎でミイラ男になってたくせに! なんだお前、奇遇だな!」

「ハハハハハハ。何言ってるのかさっぱり分からん」

笑いながらモンドがイーディスに背を向ける。

「なんだ、貴様は!」

「明らかに不審者です、隊長!」

衛兵たちが取り乱した様子でモンドに槍を向ける。

あらためてモンドは衛兵たちの槍の先を見てーー微笑む。大胆不敵に。

そして、イケメン羽飾り男が傍から衛兵のほうへ出てきて、

「モンロー家もまたイスカゼーレと同じくらいの旧家! 引き下がるんだな!」

「も、モンロー家!」

あとずさる衛兵たち。

イケメン羽飾り男の横に立ち、モンドが笑顔をばらまく。

「ハハハ。そこまで威嚇しなくともよい。衛兵たち、よく仕事をしてくれている。感謝するよ」

「はあ……?」

わかったようなわからないような返事。

そしてすごく高いブーツをカツカツ鳴らせてくるっと一回転して言ったのはーー

「僕はモンド・デ=ラ=モンロー!」

「「「フー!!!!」」」

キラキラマント団が槍を鳴らして声を上げる。

「王家・イスカゼーレ家とならぶふるく偉大なる血筋の嫡男。代々魔道院の院長をしているのはモンロー家。そう、官僚はみんな僕のために働く! 官僚はみんな魔道院を出てるからな!」

「殿下、喋りすぎです!」

キラキラマント団がモンドに忠告する。

「少しミステリアスなほうが格好が良いです!」

「ハハハ、ウィンディ・スター。お前の言うとおりだったな。僕としたことが。魔道院現院長の僕としたことが!」

「でんか!」

呆れた声のウィンディ・スターとやら。

やりとりを見て、イーディスがガッツポーズをとった。

「よし、こいつが都で一番のヘンタイだ! 俺たちの味方だな!」

満面の笑みで訳の分からないことを言うイーディス。それに優雅に微笑みながら頷くモンド。

「ハハハ。一番のヘンタイはあいつーーセシルに譲るがね?」

「何言ってんのよモンド。セシルは滅多に都にいないじゃない」

ハルカが笑って言い、

「それもそうだ! 一番は僕だな!」

「「「ハハハハハハハ!」」」

3人とモンドの手下たちが揃って笑う。

「なんなんだこいつらはーー」

衛兵がキラキラした謎の雰囲気にのまれて呆然と言う。

「隊長、こいつらはーー」

「ん?」

手下が何かを言おうとしたのをモンドが手を素早く出して制する。

そしてモンドが高いブーツでくるっと一回転(再)。ファサッとキラキラマントが空を舞う。

衛兵を真っ向から見据え、カツン、カツンとにじり寄りーー

「アンドレアはモンロー家の跡取りじゃない! 僕が跡取りだ!」

そこでようやく衛兵たちが皆ハッとした顔になった。

「こ、こここれは、モンド様!!!!」

「化粧がキツくて分からなかっーーふがふが」

「申し訳ありません! 大変なご無礼を! 皆のもの、気をつけ!!!!」

隊長がなんか言おうとした部下の口を塞ぎ、敬礼をする。

「ハハハハハハハハ」

キザっぽく笑いながら衛兵たちの前をカツカツ歩くモンド。

「よいよい。それよりだ、衛兵。この二人はモンロー家で預かる。よいな」

「で、ですが……」

まだ狐につままれたみたいな衛兵隊長が言う。それをまた手で制するモンド。

部下の羽飾りのイケメンが、

「文句があるなら、我らがモンロー家の宮殿に来るといい。さ、皆のもの!」

「「「「はっ!!!!」」」」

ザッと音がして。隊列を組んでいる。

身なりはキンキラでヘンテコな一団なのに、やけに号令はキビキビしている。

統率がとれている証だ。たとえ変なカッコでも。

羽飾りのイケメンの肩にモンドが笑顔で肘を載せる。

「やはりクール・シトラスは頼りになるな!」

「いやいや、殿下ほどでは」

「「ハハハハハハハハ!」」

二人して笑う。謎のキラキラオーラが広がる。

「案外やるじゃんモンティ!」

「モンド!」

イーディスが嬉しそうに言い、すかさず訂正するモンドであった。


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