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Knight and Mist第八章-6修行

「らあっ!!」

地下牢を脱出して、ハルカとイーディスは都の下を通る地下水道を歩いていた。

「迷路みたいだわ……」

「あの野郎、こんな複雑な地下水道なら地図ぐらいよこせってんだ! しかもこの魔物の数!」

イーディスが蹴飛ばしたのはスケルトンだ。数メートル吹っ飛んで壁に激突しバラバラになるも、また立ち上がってくる。

あの野郎というのは、脱獄を助けてくれたセシルのことである。

目下の目標はそのセシルの救出、そのために下水道から出て態勢を立て直し、イーディスの剣を取り返すことである。

「王都の地下だってのになんだこの数は!?」

そう、魔物に囲まれながら、イーディスは剣もなしに戦っているのである。

話をしている場合ではなく、やむなしにこの状況である。

「クソッ、現地で練習だ! 俺もそうやって剣を覚えた! 状況は違うがな! やれ、ハルカ!」

「は、はい!」

慌ててハルカがエルフに鍛えられし剣《鷲獅子心の剣グリーヴァ》を構える。

「構えがなってねえ!」

バシーンとお尻を叩かれる。

「いった! セクハラ!」

「そんな構えで敵を倒せるか! 覇気をみせろ、覇気を! ……そういえばお前に覇気ってあったっけ?」

「無いと思います!」

「ならヤケクソでいいから出せ!」

言ってイーディスがハルカの腰あたりを蹴飛ばした。よろけたハルカはそのままスケルトンに突っ込む形となる。

スケルトンがボロボロの棒切れを振り上げる。

「ひっーー」

「目をつぶるな! やれ! そんなのろま! いいから斬れ!」

「いでよ火事場の馬鹿力ー!!」

ヤケクソで剣を振るうハルカ。実はこの《鷲獅子心の剣グリーヴァ》、羽根のように軽い。

棒切れを振り上げて姿勢を崩したスケルトンを見事に叩っ斬った。

「よっしゃあー!! なんか変なかけ声だったが上出来だ!」

「もう少しカッコよくなりたい……」

「なんでもいいから魔物退治は任せたぜ……あれ」

ズドーンという衝撃波の音が反響して鳴り止まない。スケルトンの向こう側の壁には傷がついていた。

「その剣衝撃波を飛ばせるんだ! お前、あのスケルトン狙って剣を振り下ろしてみろ!」

「え、なに?」

「いいから!」

言われた通りにすると、たしかにスケルトンは倒れた。

「接敵したらお前死ぬからな。遠距離攻撃できてよかったな!」

「なんか、言葉にトゲを感じる……?」

ハルカの言葉に、

「違うって! 臆病者にピッタリな得物だなって! ブハッ! アハハ!」

爆笑するイーディス。

「笑うな! くぅぅ……悔しいけど弱いのは事実だし、せこくても遠距離攻撃しまくるわよ! 私は合理的な人間なの!」

「まーその意気だ。戦場に変なプライドは要らん。生き抜いたモン勝ちだ。うんうん」

「うー、屈辱的! ここでスライム狩りまくってレベルアップしてやるんだから!」

「なに、お前なかなか気概あんじゃん! あれとやり合うのか!」

指さした先にあったのはーー名状し難い、腐肉のぐちゃぐちゃになったものだった。おまけにすごい臭い。

「あれが何なのかって顔してるな。スケルトンの相棒! 骨だけの魔物から腐り落ちたにく!」

「あれがスライムだっていうの!? スライムってなんかプニプニで、かわいいのが普通じゃない! てかクサッ!!」

「スケルトンとスライムがいるところにはゾンビもいるから気をつけろよ。普段なら臭いでわかるんだが、スライムがいちゃ鼻がきかねー」

イーディスが鼻をつまんで言っている。

「クッソこの際なんでもいいわ! やってやる!」

「おーその意気その意気(鼻声)」

ーーややあって。

「やってやったわ……」

ぜえはあと肩で息するハルカ。汗だくである。無我夢中で目に見える敵全部を斬りつけていたらいつの間にかまわりから魔物の気配がなくなっていた。

「よっし、休憩だ。ちょうどキャンプ地も見つけられたしな」


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