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腰痛の基礎知識

厚生労働省の調査によると、腰痛を抱えている患者数は約2800万人いるとされ、日本人の4人に1人が腰痛を自覚しているといわれています。

すなわち、痛みの訴えの中で一番多いのが腰痛になります。

国民生活基礎調査の中で腰痛の訴えは、男性は第1位、女性は第2位となっており、今では国民病といっても過言ではありません。

老若男女関係なく発症し、また職業、スポーツ、日常生活など全ての要因において起こりやすい訴えとなります。

さらにコロナ禍もあって、自宅にいる時間が長く運動不足にもなり、腰痛の発症頻度はますます増加傾向となっていると思われます。

今回は、腰痛についての概要を解説していきます。


1.腰痛の部位(医学的)


腰痛を訴える方は、人によってはお尻の部分を「腰」と言ったり、ウエストの脇の部分を「腰」と言ったり、逆に腰の部分を「背中」と言ったりと様々です。

しかし医学的には、「体幹の後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間」と定義されています。

つまり、下記のイラストの〇の部分に痛みを訴えたら、腰痛となるというわけです。

腰痛の部位(医学的)


2.腰痛の期間での分類


発症してからどのくらいの期間で腰痛を起こしているのかという期間的な分類というのがあり、急性腰痛、亜急性腰痛、慢性腰痛の3つに分類されます。

  • 急性腰痛 : 発症してから1ヶ月以内

  • 亜急性腰痛 : 発症してから1~3ヶ月

  • 慢性腰痛 : 発症してから3ヶ月以上 


このように分類されるのは、検査法や治療法、生活指導での対応が変わってくるためだからです。

【 ぎっくり腰 】
急性腰痛の1つで、欧米では「魔女の一撃」ともいわれています。
急に起こった強い腰痛を指すことが一般的ですが、何かを持ち上げようとした時、腰をねじるなどの動作をした時などに起こることが多いですが、朝起きた直後や何もしないでも起こることもあります。
整形外科では「急性腰痛症」といわれています。

ぎっくり腰(日本整形外科学会)


3.腰痛を起こす原因での分類


腰痛は、筋・筋膜、椎間関節、仙腸関節、椎間板、神経根、靭帯などの運動器の原因がほとんどです。

しかし中には、内臓疾患、血管疾患、腎臓疾患、婦人科疾患、脊椎の感染症などの内科的な原因のこともあり、これは危険な腰痛として注意が必要となります。

具体的な腰痛の原因には、脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性、その他に分類されます。

とくに危険な腰痛として注意が必要なものは以下となります。

  • 悪性腫瘍(原発性のがん、転移性脊椎、脊髄腫瘍など)

  • 感染(化膿性椎間板炎・脊椎炎、脊椎カリエスなど)

  • 骨折(椎体骨折など)

  • 重篤な神経症状を伴う腰椎疾患(下肢麻痺、膀胱直腸障害を伴う腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症)


これらはとくに危険な腰痛とされており、これらの腰痛は危険な徴候というものがあり、それを「腰痛のレッドフラッグス」といいます。

腰痛のレッドフラッグスについては、別のnoteで詳しく解説していきます。


4.腰痛の約85%は原因不明なのか❓


テレビ、メディア、ネットでもいわれている有名なことですが、腰痛の約85%が原因のわからない「非特異的腰痛」といわれています。

すなわち、腰痛があってレントゲン検査を受けても何も異常がないのが、約85%ということです。

「それなら、レントゲン検査をしなくてもいいのでは❓」と思うかもしれませんが、これには理由があります。

整形外科の先生が腰痛でレントゲン検査をする理由は、危険な腰痛または重篤な疾患を見逃さないためにするからです。

見逃してからでは遅くなる腰痛もあるため、例え年齢が若くてもレントゲン検査を実施します。

年齢が若いからといって、危険な腰痛がないということは否定はできないということなのです。


山口県腰痛スタディ(2016年)


腰痛の約85%は原因不明の非特異的腰痛といわれていきましたが、2016年に報告された「山口県腰痛スタディ」によれば、約80%の腰痛は原因がわかる特異的腰痛であると発表されました。

調査内容は、山口県内の整形外科を受診した320名(男性160名、女性163名)を対象として、初診時に問診、身体診察、アンケートを実施し、局所麻酔・ブロック注射によって確定診断を行い、再検時に効果を判定したそうです。

その結果は下記になります。


結果をいうと、大きくみれば特異的腰痛が78%、非特異的腰痛が22%ということになり、しっかり評価をすれば、腰痛は確定診断できるといったことがいえます。

ちなみに、私は医師ではないので診断行為はできません!

つまり近年では、「腰痛には必ず原因がある!」と考えられているといっていいでしょう。

一般の方や施術者は参考にして頂ければと思います。


5.画像検査で異常があっても腰痛があるのか❓


腰痛を訴えて整形外科に通院すると、画像検査を行うことが多いと思います。

腰痛での画像検査をする場合、まずはレントゲン検査を行い、必要であればMRI検査をすることがほとんどです。

整形外科の先生から画像検査で、「背骨と背骨の間が狭いですね」、「ヘルニアがありますね」、「腰にすべり症がありますね」、「背骨が変性(変形)してますね」などと言われたことがありませんか❓

腰痛の自覚症状と画像検査が一致した場合は、〇〇という診断になるのが通常なのですが、実は腰痛が軽くても、あるいはなくても画像検査で異常を示すとは限りません。

逆にいえば、腰痛が強くても画像検査で異常を示すとも限りません。

つまり何が言いたいかというと、腰痛と画像検査が一致するとは限らないということです。

これは医学的、経験的にもわかっていることです。

ただし、一般的な運動器での腰痛に関してのことで、内科的な腰痛や危険な腰痛では話しが違ってきます。


6.腰痛の自然経過はどうなのか❓


腰痛の自然経過とは、腰痛があって通常の日常生活のみで過ごし、治療をしていない状態をいいます。

急性腰痛の自然経過は、急性腰痛の状態にもよりますが、痛みが自然軽快することが多く、おおむね良くなります。

ただし、ぎっくり腰の場合は別で、しっかり対処しなければ慢性腰痛に移行することもありますのでご注意ください。

慢性腰痛の自然経過は、急性腰痛に比べて良くならないことが多いです。

身体的・精神的に健康な生活習慣は、腰痛が良くなりやすいといわれてます。

しかしながら、心理社会的ストレスが強い場合は、腰痛が良くならないことが多いです。


7.慢性腰痛の原因は脳❓


近年、慢性腰痛の原因は脳が原因しているといわれています。

一般本やテレビ、メディアでもよく取りだたされているのを耳にすることが多いと思います。

慢性腰痛の場合、腰そのものには原因がないことが多く、痛みを感じる脳に問題があることが知られています。

痛みなどで心理社会的ストレスが強い場合、不快な情動によって脳の痛みを抑制するシステムに異常が起こり、痛みの抑制がかかりにくくなってきます。

その結果、腰痛が慢性化していくことが考えられています。

詳しいメカニズムに関しては、こちらをご覧ください⇩



以上で、腰痛の概要を解説させて頂きました。

当院でもそうなのですが、整(接)骨院、鍼灸院、整体院では腰痛の患者様の来院は非常に多いです。

当院では、遠方からお越しになられる方も多く、そのほとんどが慢性腰痛です。

できれば、急性腰痛のうちに対処できることが理想ですが、慢性腰痛の場合は、施術をして急に結果がでることは少なく、期間がかかってしまうのが現状です。

期間がかかってしまうことは、途中でドロップアウトしてしまう患者様も少なくありません。

それは、施術だけで慢性腰痛が良くなる期待を持っていると思われますが、正直にいうと慢性腰痛の状態にもよりますが、慢性腰痛は施術だけでは良くならないことが多いです。

それについての詳しい内容は、別のnoteで解説させて頂きます。


まとめ

  • 腰痛を訴える部位は、人によって様々である

  • 腰痛は、急性腰痛、亜急性腰痛、慢性腰痛に分類される

  • 腰痛は、運動器の整形外科的なものと内科的なものに分かれる

  • 危険な腰痛には注意をする

  • 腰痛の約80%は原因がわかる(山口県腰痛スタディ)

  • 腰痛と画像検査(レントゲンなど)が一致するとは限らない

  • 急性腰痛は自然軽快することが多いが、慢性腰痛は自然軽快することは少ない

  • 慢性腰痛は、脳の痛み抑制システムの異常である



参考文献

  • 腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版(南江堂)



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