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根気より呑気でたのしむ外国語

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英語をはじめ、外国語のもつ “おかしさ”、“たのしさ”、“おもしろさ” について、のんびり気楽に書き留めていく。雑考。
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#語源

#98. どう考えても矛盾している英単語

#98. どう考えても矛盾している英単語

2020 年を振り返る人、2021 年の抱負を熱く語る人。後ろを見たり、前を向いたり、一月は忙しい時期だ。

ところで一月の January は、ローマ神話で物事の始まりを司る神「ヤヌス」(Janus) にちなんでその名がついた。

ヤヌスは前と後ろに顔が二つあり、一方で過去、他方で未来を見つめているとも言われている。



二つの面を持つことで知られるヤヌスだが、その名が由来となっている言葉は

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#86. 信じることは、愛することか

#86. 信じることは、愛することか

「信じる」の believe と「愛する」の love は、語源の上でつながっている。



現代英語の believe は、むかしの英語(古英語)では belyfan などとつづられており、これをさらに(英語やドイツ語などの祖先である)ゲルマン祖語までさかのぼっていくと、もともとは *ga-laubjan という単語が大元であるとされている。

この *ga-laubjan は、(ユーラシア大

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#83. アボカド弁護士

#83. アボカド弁護士

スペイン語では、「弁護士」のことを abogado(アボガド)という。

なんだかアボカド(avocado)みたいだなあと思っていたら、語源の上でもこの二単語は、奇妙なつながりを見せていた。

(※細かい部分は諸説あるようだが、今回は、膨大なソースをもとに作成されているウェブサイト Online Etymology Dictionary の説明を参照した)



まず、果物としてのアボカド(av

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#78. スマートな痛み

#78. スマートな痛み

和製英語としてずいぶん前から定着し、英語学習の序盤で意味を訂正される言葉の一つに smart がある。

日本語の「スマート」は「シュッとした,細身の」というような意味なのに対し、英語の smart は「賢い」という意味である。

イギリスでは、身なりや外見などに対して「おしゃれな,小ぎれいな」という意味で使われることもあるが、やはり「痩せている」というニュアンスはない。



ここまでは、ある

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#75. ベルはベルでも「口の利けないベル」ってなんだ?

#75. ベルはベルでも「口の利けないベル」ってなんだ?

体型について、「衝撃的な細さだ」などとよく言われる。

今日なんてある女性から、ぼくの太ももが彼女の二の腕くらいではないかと疑われたが、さすがにそれはないだろう。

体重が軽い自覚はある。だが公表すると、男なら「病的」などと言ってくるし、女性であればたいていの場合嫌われる。

いちばん記憶に残っているのは、大学時代にアルバイト先の後輩と交わしたあるやりとり。

23 時ごろ、お店を閉めて、ふたりで

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#70. 「オムレツ」はむかし「オレムツ」だった

#70. 「オムレツ」はむかし「オレムツ」だった

毎日言葉に関わっていると「コミュニケーション」という日本語をよく耳にするのだが、これをよくよく聴いてみると、「コミニュケーション」と言っている人が多いのに気づく。

元となった英単語である communication のつづりを見れば、「コミュニ」の方が正しいのだが、どうも「コミニュ」派の方が優勢であるようにすら感じる。

これと同じことは「シミュレーション」にも言える。simulation のカ

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#69. イックネームはありますか?

#69. イックネームはありますか?

名前は忘れてしまったのだが、むかし「笑っていいとも!」にケータイの誤変換を紹介するコーナーがあり、

「いま髪とかしてるから待ってて!」と打とうとしたのに「いま神と化してるから待ってて!」と変換されたという話に、兄と一緒に爆笑したのを覚えている。

本来なら「かみ/とかしてる」という風に分解されるべきところを、ケータイの変換機能が「かみ/と/かしている」と誤って分析した結果起きた事件だろう。

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#64. 賢いのって、かわいいんだよ

#64. 賢いのって、かわいいんだよ

高校生くらいで覚える単語に、「鋭い」という意味の acute があるが、これとよく似た、日本人ならだれでも知っている英単語 cute は、実はこの acute から派生したものだ。

もともと acute は 14 世紀後半ごろから英語として使われていたものだが、17 世紀に入って英語が北米に渡ると、アメリカで次第に頭の a- が発音されなくなり、ついには消えてしまった。

こうして 18 世紀に

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#44. 「さよなら」の代わりに捧げる祈り

#44. 「さよなら」の代わりに捧げる祈り

きのうからとうとう 3 月に入った。日本においては一つの年度が終わりを告げる、いわば「別れの月」である。

お別れの際の英語のフレーズといえば、言わずと知れた "Goodbye" があるが、この言い回しの成り立ち、つまり語源についてはあまり広く知られてはいない。



その綴りから、goodbye はよく「 good と bye の合わさったものだ」などと言われるが、これは実は誤りである。

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#41. コロナの渦中でぼくがクレープを食べたのは

#41. コロナの渦中でぼくがクレープを食べたのは

来る日も来る日もコロナウィルス。

この新型ウィルスに対する人々の関心があまりに高く、先日書いた「コロナウィルスと闘うビール」という記事の閲覧数が、奇妙な伸びを見せている。

ただこの記事は、端的に言えば「コロナウィルスが話題になったせいで、同じ『コロナ』を名前に含むコロナビールが風評被害を受けているんですよ」という、(言ってしまえば)どうでもいい内容なので、ウィルス対策に深刻な人が読むのにふさわ

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#30. 抱負の前に、まず分解

#30. 抱負の前に、まず分解

「新年の抱負」は、英語では New Year's resolution と言うのが一般的だが、この resolution は動詞の resolve が名詞になったものである。

...... あれ?高校のとき resolve の意味を「分解する」で覚えたぼくは、ここにある差を長年不思議に思っていた。「新年の分解」がどうして「新年の抱負」になるんだろう。

「抱負」というのはある種気持ちが「固まった

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#25. 満たされゆくのは悲しいことか

#25. 満たされゆくのは悲しいことか

語源の世界を辿っていくと、おどろきのネタに事欠かない。

たとえば「悲しい」気持ちを表す英語は、誰にもおなじみ sad だが、この英単語、もとはと言えば、「満たされている;満足している」という意味だった。

「満足」と聞いて真っ先に浮かぶ satisfy とも、語源的にはつながっている。

これがどうやら、「満たされている」→「重い,苦しい」→「うんざりしている」→「幸せでない」という意味の変化を

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#10. あなたの風邪は、どこから?

#10. あなたの風邪は、どこから?

御多分に漏れず、花粉症に悩まされている。目は痒く、鼻水は絶えず溢れ出る(余談だが「鼻水が出る」ことを英語では "My nose is running" というのはどうしてだろう。ぼくの鼻は走ってるわけじゃないのに)。



花粉症といえば、これも前々から疑問に思っていたことなのだが、英語で「花粉症」は hay fever と言ったりするが、これってどうして fever (熱) なのか。いくら辛い

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#3. 夜空の星にあてられて

#3. 夜空の星にあてられて

インフルエンザが猛威をふるう。予防の術こそ心得ていても、通勤ラッシュに混じっていると、ウィルスと無縁でいるというのは、無理難題にも思えてくる。



日本でおなじみ「インフルエンザ」は、英語ではもっぱら flu と言うのが慣用的で、influenza とフルで言うのは医者くらいしかいないという。

この influenza という単語は、その字面から見ても明らかなように、「影響」という意味を表す

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