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#83. アボカド弁護士


スペイン語では、「弁護士」のことを abogado(アボガド)という。

なんだかアボカド(avocado)みたいだなあと思っていたら、語源の上でもこの二単語は、奇妙なつながりを見せていた。

(※細かい部分は諸説あるようだが、今回は、膨大なソースをもとに作成されているウェブサイト Online Etymology Dictionary の説明を参照した)

まず、果物としてのアボカド(avocado)はもともと、アステカ文明で有名なアステカ族のナワトル語 ahuakatl に由来している。

これが後にスペイン語に入ると、はじめは aguacate とつづられていたものの、当時のスペイン語に「弁護士」を表す avocado という単語がすでに存在していたために、これとの混同で「アボカド」を表す単語のつづりも avocado へと変化してしまった。

そしてその(「アボカド」を表す方の)avocado が、スペイン語からの借用語として英語に入ったのが、あのアボカドだ。

ahuakatl
(ナワトル語)

aguacate avocado
(スペイン語)

avocado
(英語)

なお、ラテン語の advocatus にその起源をもつ「弁護士」の方のスペイン語 avocado だが、英語にはフランス語を経由して入り、現代英語の advocate がその兄弟(?)にあたる。

advocatus
(ラテン語)
↙︎       ↘︎
avocado    avocat
(スペイン語) (フランス語)
↓       ↓
  abogado    advocate
     (〃)       (英語)

いま現在、スペイン語での「アボカド」は aguacate というかつてのつづりに戻っており、avocado とつづられていた「弁護士」も、上述のように abogado というスペルに変わってはいるが、事実としてこの二つのものが、同じ発音・同じつづりで存在していた時期があったというのは面白い。

ちなみに、幸い英語とスペイン語では、最終的に二つを表す単語がはっきり区別されるに至ったが、フランス語では、いまでも avocat というひとつの単語が、「アボカド」と「弁護士」の両方の意味を持っている。

「職業は、実はアボカドをやっております」
「あらすごい、アボカドさんだったんですか」
「そうですね、大手企業の顧問アボカドも務めております。なにかありましたら、いつでも伊東アボカド事務所までお越しください(おもむろに名刺を渡す)」

アボカドさ ...... いや弁護士さんとのちょっとした会話が、こんな風にも聞こえてしまうのか。アボカドと同じ響きで呼ばれて、弁護士の方は自分の尊厳を保っていられるのかな。とても気になる。

いつかフランス人の弁護士に会う日が、いまから待ち切れなくなってきた。


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