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#44. 「さよなら」の代わりに捧げる祈り


きのうからとうとう 3 月に入った。日本においては一つの年度が終わりを告げる、いわば「別れの月」である。

お別れの際の英語のフレーズといえば、言わずと知れた "Goodbye" があるが、この言い回しの成り立ち、つまり語源についてはあまり広く知られてはいない。

その綴りから、goodbye はよく「 good と bye の合わさったものだ」などと言われるが、これは実は誤りである。

結論から言うと、goodbye もともと "God be with ye"(神があなたとともにあらんことを)というフレーズが縮まってできたものだと言われている。

この ye というのは you の古い形で、God のあとに be が来るのも不思議に思えるかもしれないが、これは祈願法と言って、なにかを祈るときに固有の言葉づかい。

本来なら May が文頭に来て "May God be with ye" となるところだが、May を省略しても、主語の後ろに続く be 動詞が原形(be)であることから、聞いている人はこれが祈りの言葉だとわかる。

誰かがくしゃみをしたときに言う "Bless you"(あなたに神のご加護がありますように) も、主語は God で "God bless you" が本来の形だが、これも God のあとに来る動詞 bless が blesses にならず原形(bless)なので、頭に May が省略された祈願法であるとわかる。

余談だが、以前アイリッシュバーにいた際に、アイルランド人のバーテンダーがくしゃみをしたので誰かが "Bless you!" と言った。そこでぼくの隣のアメリカ人が "God bless you!" と(わざと)より丁寧な形で続けたので、それに輪をかけるようにぼくがさらに丁寧にして "May God bless you!" と畳み掛けると、案の定 "That's too formal!" とツッコミが入った。

すこし話がそれたけれども、つまり goodbye というのは元来「去っていく相手に神のご加護がこの先もずっと続いていくことを祈る」フレーズだったということである。

日本語の「さようなら」は、文字通りには「それならば」という意味だから、英語にすれば "Then ..." としか言っていないことになる。「みなまで言わない」日本の文化の表れだろうか。

「こんにちは」にしても、これは文字通り読めば「今日は」ということで、英語に直訳するとなったら "Today is ..." などとするしかない。"Then WHAT??" とか "Today is WHAT??" と首をかしげる外国人が眼に浮かぶ。

ちなみに英語の "Good morning" の本来の形は "I wish you a good morning" で、「あなたにとって良い朝でありますように」という意味だ。

みなまで言わない日本語に対し、英語はいつも、祈っている。

どちらがより良いということはない。どちらにもそれぞれの良さがある。良いと思ったら、両者の利点を同時に取り入れるのが、平和的解決というものだろう。


それではみなさんさようなら。この先もずっと、神のご加護があらんことを。

Then, that's all for today. May God be with you. Goodbye!


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