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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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#私の作品紹介

【詩】ぐるぐる吹きこぼれ脳内

【詩】ぐるぐる吹きこぼれ脳内

そもそも空気が読めないのと
読んだ空気に合わせられないのは
全然違うことなんです
空気読めないことしてるけど
空気読めてないわけじゃないんです
今ちょっとした失敗とか話して
なんとなく盛り上げるところだなって
わかっても思い出検索がバグってて
作り話するにはシナプスが鈍くて
あわあわえへへって誤魔化して
絡みづらい奴って空気も読めてて
だから隅っこでへらへらしてるんです

楽しくないなら離れればい

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【詩】裏方は一人サーカス団

【詩】裏方は一人サーカス団

さぁさ見てくれ僕の芸
あちこち漂うこの風船
なんと触れれば即爆発
腕の一本は吹き飛んじまう
そんな野蛮なこの部屋で
僕は愉快に暮らしてるのさ!

さぁ見ててごらん
実演しよう
壁に擬態したこの風船
右手でちょっと突いてみよう
閃光!
爆音!
飛び散る破片!
心配ご無用
右手は義手さ
僕が笑ってさえいれば
痛みも無かったことになる!

今のはあくまでショータイム
いつもは爆発なんてさせないさ
風船が

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物語詩「弱い鹿と強い猫」

物語詩「弱い鹿と強い猫」

気弱な猫と凛々しい鹿は
寄り添いあって生きていた

鹿は樹の形の角を振って
猫を猛禽から守ってやり
猫は体中毛繕いをして
鹿を虫から守っていた

にこにこ暮らしていただけなのだけれど
過激派の山猫に目を付けられ
二匹一緒に捕まった

偶蹄と交わるなど許されないと
猫はあちこち噛みつかれ
血だらけのまま犯された

藪の向こうの鹿の悲鳴が
傷口よりもずっと痛くて

鹿だけでも逃がせるのならば
何にでも

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物語詩「痛む人」

物語詩「痛む人」

昔 人には痛みが無かった
痛みを知らない人々の中に 痛みを感じる人が生まれた
紙に切られた指先の 何とも言えない不快な疼きを どうやらみんなは知らないらしいと
ぼんやり気付いたその人が
その感覚を痛みと名付けた

得体の知れない苦しみに 名前が付いたのが嬉しくて
痛む人はみんなに話した
「僕は『痛み』を感じるんだ
みんなは感じないみたいだけれど
体を切ったりぶつけたりすると すごく嫌な感じがするん

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物語詩「月に満ちる金木犀」

物語詩「月に満ちる金木犀」

たわわな金木犀の枝を手折り
鏡映しの僕が言う

「夜空の月の洞の中には
金木犀が咲くんだよ
月光の流れのせせらぎと 空からこぼれる花の甘さで
天使を魅入らせ閉じ込めるんだって」

沈む望月にかざす朝焼け色の香り
同じ香を持つ月へとつながり
僕らを天使に会わせてくれると
君が抱く儚い希望
僕の胸と通じ合う
そっくりの兄弟
互いのことは何だって知ってる

神様は僕らに試練を与える
神様の愛を知らしめる

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物語詩「裏庭の少女」

物語詩「裏庭の少女」

裏庭の老木が
いつか見たクリスマスツリーみたいに燃えた
女は鬼の顔をして
「一族の仇を討ちなさい」と
娘に告げて事切れた
死を許されなかった少女は
裸足で焼けた土を蹴る

一人きりの少女
持ち物は腹の空しさだけ
焼き立てのパンに伸ばした手
捕らえたのは膨らんだ生地みたいな店主
「隣村の生き残りかい」
白い顔が同情に塗られて
少女の硬い腕に押し込まれたバゲット

仇討ち少女は風に知れ
次々村人に招か

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物語詩「丘の上のビスクドール」

物語詩「丘の上のビスクドール」

おもちゃの街の丘の上
孤独な男と 歪な顔のビスクドールが
仲睦まじく暮らしていた

「あなたに何でもしてあげたいわ
でも赤ちゃんを産むのは嫌なの
お腹が割れて死んでしまうから」

ドールは男の腕の中で
ガムシロップみたいに囁いて
男は微笑み頷いた

満月代わりの電球の下
男が取り寄せた絹のドレスで
ドールは男のために踊った
捻れた爪先でばたばた踊った
男はつまらなそうに笑った

ドールの眠る昼下が

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物語詩「彼女の身体」

物語詩「彼女の身体」

公園の砂場が海だった頃から
僕は何となく知っていた
この身体は僕のものじゃない

ずっとそこにいたような顔で
確信が居座っていた
僕への笑顔の宛先は身体の真の持ち主で
僕は真性の詐欺師だって
そいつのにやけた粘着質の言葉が
耳にもわもわと網を張った

誰も、誰も気付かない
僕が間違ってここにいること
その子はここにはいないってこと

その子の名前
その子の好きな色
その子の着たい服
その子の憧れの

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