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物語詩「裏庭の少女」

裏庭の老木が
いつか見たクリスマスツリーみたいに燃えた
女は鬼の顔をして
「一族の仇を討ちなさい」と
娘に告げて事切れた
死を許されなかった少女は
裸足で焼けた土を蹴る

一人きりの少女
持ち物は腹の空しさだけ
焼き立てのパンに伸ばした手
捕らえたのは膨らんだ生地みたいな店主
「隣村の生き残りかい」
白い顔が同情に塗られて
少女の硬い腕に押し込まれたバゲット

仇討ち少女は風に知れ
次々村人に招かれて
立派に怨敵を討てるようにと
期待と激励を託された
古着屋からは丈夫な上着を
農家からは長靴を
肉屋からは大きなナイフを

誰も彼女を笑わなかった
憐憫の微笑を湛えていた

誰も彼女に命じなかった
温かいスープで力を与えた

誰も彼女を打たなかった
少女を戸惑わせる抱擁があった

あの裏庭の木のうろに
逃げ込まなくても息が吸えた

ひっそりと送り出された少女は
仇の軍人の野営地を窺う
奴らに奪われた
家族の見下ろす顔、薄い寝床、踏みにじられた黄色い菫
本当に惜しいのはあの古木だけ

その後の彼女を知る者はいない
母の言い付けを守ったか
返り討ちにされたのか
それとも過去まで灰にして
新しい名を得たのだろうか

炭になった老木の根元には
淡く蕾が芽吹いている

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