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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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#アダルトチルドレン

閉ざされた王国(子供な神様の話)

閉ざされた王国(子供な神様の話)

 創造神は小さな子供。

 何も知らない無邪気な子。

 遊び相手を生み出して、おもちゃの王国を作る。

 気まぐれな言葉を法律に、気に食わない民は投げ捨てる。

 神様をお慰めするための王国で、人々は神様のご機嫌を占い、祈る。

 どうか神様がほんの少しだけ大人になられますように。

 甘えたい盛りの神様は、優しい親を創造する。

 撫でてもらって、

 抱きしめてもらって、

 わがままを聞い

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あなたは死ぬまで知らなくていい

あなたは死ぬまで知らなくていい

 あなたを好きになりたかった。

 あなたを好きな私でいたかった。

 あなたを愛する見返りに、あなたに愛してほしかった。

 真冬の川に飛び込めともし言われたら、私は飛び込む覚悟があった。

 あなたを喜ばせるためならば、辱めにも耐えられた。

 あなたに命じられたなら、

 それが望ましいことなのだと、当たり前だと言われたなら、

 行間の期待を読み取りさえしたら。

 足を引っ張るわがままを

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【小説】母の日(母への思いを確認する話)

【小説】母の日(母への思いを確認する話)

「いつもありがとう」

 差し出したカーネーションの花束。赤とピンクのフリルをふんだんに使ったドレスを逆さまにしたみたいだ。胴の部分には、母親への愛と感謝の言葉が印刷された包装紙が巻かれている。

「あら、母の日? 立派なお花ね。千鶴が親孝行な良い子に育って嬉しいわ」

 母はいそいそと花瓶を取りに行く。

「嘘吐き。ありがとうなんて思ってないくせに」

 私にだけ聞こえる声で十三歳のわたしが言う

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【小説】生きるお守り(生まれたくなかった僕が生きるために持っている切符の話)

【小説】生きるお守り(生まれたくなかった僕が生きるために持っている切符の話)

 生まれてこないほうが幸せだった。

 絶望でも自己憐憫でもなく、ひたすら冷静に事実としてそう思う。

 みんなと同じことに興味が持てない。

 同じように笑えない。

 嘘の笑顔がバレて嫌われるのはマシなパターン。僕が嫌われるのは当然のことで、自己認識との合致にむしろ安心する。

 一番自分のことが嫌いになるのは、相手が僕に好意を持ってくれたとき。

 こんな僕と友達になろうとしてくれるなんて本

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