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【小説】母の日(母への思いを確認する話)

「いつもありがとう」

 差し出したカーネーションの花束。赤とピンクのフリルをふんだんに使ったドレスを逆さまにしたみたいだ。胴の部分には、母親への愛と感謝の言葉が印刷された包装紙が巻かれている。

「あら、母の日? 立派なお花ね。千鶴が親孝行な良い子に育って嬉しいわ」

 母はいそいそと花瓶を取りに行く。

「嘘吐き。ありがとうなんて思ってないくせに」

 私にだけ聞こえる声で十三歳のわたしが言う。

「思ってるもん。ママ、ちいちゃんのためにいっぱい我慢してがんばってくれてるもん」

 五歳のちいちゃんが言い返す。

「わたしが頼んだわけじゃない。ママが勝手にやったことでしょ。良い母親だって自分が思われたいだけ」

「違うもん。ママが大変なのはちいちゃんのせいだもん」

「大変なことの責任を子供に取らせるくらいなら産まなきゃ良かったじゃん」

 五歳のちいちゃんは泣き出してしまう。大人の私はじっと見守る。

 母はカーネーションを眺めながら、白い花瓶とよく似合うと言って上機嫌だ。そうだねと私はにこやかに相槌を打つ。

「楽しそうなママがいちばん大好き。世界でいちばんかわいい」

「子供に可愛いとか言わせる親って何なの? 不機嫌で威圧してご機嫌取らせるとか最低」

 機嫌を直しかけたちいちゃんを反抗期のわたしが否定して、ちいちゃんは再び涙に暮れる。

 私は自分の部屋に引き上げて、見えない私たちを抱きしめる。

 嫌な子供たち。忘れたい子供たち。弱くて可哀想で強くて、私が隠した真実を知っている子供たち。

 大人になった私は、幼い私たちを自壊から守り、安心させ、本当の意味で愛してやらなければならない。母の代わりに。

 私は一緒にこの家を出る。母を捨てる。小さなちいちゃんを幸せにするために。

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