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感動するホテルデザインの秘密:プールサイドをバーにするリノベーション(KIRO HIROSHIMA by the sharehotels)

依頼は突然に

ホテルのできる前年の2018年はちょうどインバウンドもこれからもっと伸びるぞという時期で、また個人的にはホテルを設計したくて世界のホテルに泊まって採寸を始めていた頃でした。
とはいえ、いくら設計したくてもアイデアはいくつかあれど具体的に依頼がなければ作れるわけもなくただただ空想に耽り、スタッフとはホテルやれたらいいよね、という話をするだけでした。

ところがそんな時、リビタさんから「ホテルの計画があるんだけど、興味ありますか?」と相談。念ずれば花開くということか、私たちの事務所がお手伝いすることが決まった数日後にはすぐ現場をみましょうか、ということになりました。

リハビリプールをどうやってプールサイドバーに変換するか?


現場に初めて行ったのはたしか2018年の11月ごろ。病院だった建物をホテルにしよう、ということで行ったところ、3Fにはリハビリプールとして使われていたという空間がありました。
これは面白そうだね、ということでプールを生かすことが共用部の1番のポイントだということは関係者で一致し、議論はどうやってこれを生かすのかということに移っていきました。他にもレントゲンの台もあったり、結局使わなかったですが面影が残るものがいくつか散見されました。

以下では元リハビリ用プールだったところをどのように読み込んだか、どんなことを考えていたか解説します。

空間構成の手がかりと空間の操作について

ガラスのアトリウムと展示空間


リノベーション、コンバージョンのお手本といえばパリの観光名所になっているオルセー美術館と言えるでしょう。
1900年(パリ万博開催の年)にフランス人建築家ヴィクトール・ラルーによって手掛けられた鉄道駅舎オルセー駅はその後、さまざまな用途で使われながら、保存して美術館にする構想が上がり、1980年フランス政府がコンペを行った結果、イタリア人建築家のガエ・アウレンティが勝利し、19世紀美術を展示する美術館として1986年に開館することになりました。(ガエ・アウレンティは東京にイタリア文化会館も設計してます)
(脱線しますが1900年は万博に合わせてグランパレ、プティパレもこの年に完成してます)

オルセー美術館はかまぼこ状のガラスの大きなアトリウムにステップを作って、そこに彫刻などの立体作品を置き、美術館内をぶらぶら歩きながら作品鑑賞をすることができます。佇んでいてもいいし、台座のようなベンチに座ってもいいし、さらに天候に関係なく明るいアトリウムはいつ行っても居心地がいい空間です。

オルセー美術館は毎月一度だけ日曜日に無料開放にしていて、とても混むのですが、パリに住んでいたころ繰り返し行っていた記憶があります。大空間に身を置いて鑑賞する体験は何度体験しても格別で、1914年の第一次世界大戦が始まるまでの19世紀美術を中心に据えつつ、印象派の作品も豊富にあって見応えがあり何度行っても新しい発見がある美術館でした。

なので、ところどころに駅の面影が残るこの美術館の手法はホテルの一部になるプールサイドをどのように活かして新しい空間に生まれ変わらせるのか、オルセー美術館のことが参考になると直感しました。

「動き」の記憶


記憶をどのように残すかという時に、視覚的にプールを残しました、ということ「だけ」にはしないことが重要だと思っていました。そこでプールを使っていた時にあったであろう身体の動き、身体の使い方の記憶を残すことも考えています。
つまり、プールでは元々、プールに入る傍らで必ずプールサイドに腰掛けていただはずで、その行為をここでも引き継いでゲストには楽しんでもらおうと思いました。
なのであとはそこから逆算して高さ関係の整理をして床レベルを調整して行けばいい、ということになります。
床に段差をつけるときに注意しなければならないのは建築基準法では1mを超えるレベル差には手すりが必要になります。なのでここでは1mを超えることなく成立するように検討をしています。

オルセー美術館と違うのはプールサイドはもう少しヒューマンスケールに近いということがあります。こじんまりした空間あることが鉄道駅舎であった大きなアトリウムと異なるところです。

どう伝えるか

視覚的にプールを残した場合にそれをお客さんやホテルスタッフの誰もが「プールサイドがバー(ラウンジ)になった」という言葉で誰にでも伝えられるデザインになっているかというわかりやすさが必要である一方で、「プールサイドがバー(ラウンジ)になった」という容易に想像できそうなつまらなさがあります。物事を単純化してしまうと誰にでもわかりやすいものになりすぎてしまって退屈な場所になってしまう危険があり、なのでここではその退屈ラインとオルセーのような普遍性を持ち得るラインを狙って全体を調整しています。
設計には誰もが使う手段や型やマナー(性能的な部分など)など設計者特有の手癖がありその匙加減、塩梅というようなものがその設計者、今回ですと私たちの特徴、オリジナリティとして発揮されます。そこからさらに型をあえて外したり、デザイン的なクリシェ(常套句)を逸脱して全体を組み立てて調整していくことでより完成度の高いものになっていきます。

最近であればホテルの集客においてSNSは重要なツールになっていますので、お客さんの誰もが「プールサイドがバー(ラウンジ)になった」と簡潔な言葉で説明できるか、それが写真と一致してコンパクトに説明できるようになっているかということも重要になってきているように思います。ただ一方でその投稿をみて「行った気になる」という危険性もあり、それを「行ってみたい」にするための努力が設計が終わった次の段階でホテルの現場で必要になります。

断面図
平面図


既存平面図、断面図
断面図
彫刻作品と人との境目がなくなるような風景


同じ系列店のKUMU( 金沢)へのアンサー

金沢のKUMUは天井の組んだ格子天井が造形として特徴です。
しかしよく見ると格子に引き戸のためのレール(ガイド)を担わせていたり、天井にたくさん出てくる空調、防災、照明などの設備機器を仕込んでいたり、格子は単なるルールや機能でしかない(デザインとして格子をやりたいんじゃない)という考えに基づいてデザインされています。

当時の(今もかな?)シェアホテルズはゲストルームはコンパクトにして共用部シェアスペースに特徴を出して、できるだけ部屋から出てきてもらうようなことを目指していました。KUMUはシェアホテルズとして確か3か4店舗目で徐々に型ができつつある、と感じていたので、そこに乗っかりながらどうやって KIROらしさを出していくかをずっと考えていました。バンドでも衝撃的なファーストアルバムを出したあと、3枚目まで出せないか、あるいは3枚目のアルバムで完成度の高い一旦のピークになることもあり、シェアホテルズはKUMUで思ったよりも早めにピークが来たように感じられたので別のピークを作る必要があると思っていました。

そういうことを考えながら、さらにオルセー美術館のこともあり、KUMUが天井ならKIROはガラスの天井は活かして床の操作を提案しました。わかりやすくするためにプレゼン時にはKUMUの写真をひっくり返して説明しました

ひっくり返ったKUMUとオルセーを目指したKIRO

オルセーのアトリウムにある彫刻作品に相当するものは何か?


クライアントであるリビタのシェアホテルズには旅人とローカルとの出会いや地域性、その場所の特徴をどのように取り込むかということがホテル計画においても重要な要素の一つになっていて、その地域のキーマンになる人たちを中心にコラボレーションすることが魅力の一つになっています。

今回の広島では叢(くさむら)さんという個性あふれる植物を提案してくれる有名な植物屋さんがいます。
地元ということで叢さんとのコラボーレーションは比較的早く検討されていましたが、ではどのようにコラボレーションをするか、ということが次に重要になってきます。
ここでは先に述べたようなオルセー美術館における彫刻作品的要素を様々な特徴のある植物(彫刻のように作品性がありそして立体なのでいろんな角度から鑑賞できる)に担ってもらうことで、美術館における作品と空間の関係性を作り出すことができると考えました。おまけ的にはここは元々プールでそもそも防水がされている空間なので植物に水をかけても問題ないのでは、ということも計画上はプラス要素として働いています。

彫刻のように立体的な存在感のある植物 photo:Gottingham

またローカルとのコラボレーションでは、マルニ木工(広島)のLightWood(その名の通り軽さが特徴です)というシリーズをプールサイドでは使用しています。軽い家具なので日々のやさまざまなイベントでレイアウトが変わる時にでも移動が楽にできます。

奥から入り口方向を見る


浴槽部分のステンレスの鈍い光がよかったので現場で磨いてもらってそれを仕上げに採用。photo:Gottingham


Rガラス面方向をみる photo:Gottingham


ビフォアアフターのGIF



このテキストと共に思考の痕跡をトレースし、実際の空間を体験してもらえるともっと楽しめますのでぜひ宿泊してみてください。

*オルセー美術館の写真は著者撮影

name: KIRO HIROSHIMA by THE SHARE HOTELS
location: Hiroshima, Japan
PRODUCE: Rebita inc.
Masaru Kitajima, Naoko Nishiyama, Keisuke Kobayashi
INTERIOR DESIGN: HIROYUKI TANAKA ARCHITECTS
Hiroyuki Tanaka , Hiroki Hanazuka, Ayano Hattori
CONSTRUCTION : DesignArc Co.,Ltd.
BUILDING ENGINEER : planning factory KURA
FF&E : seventh-code,maruni wood industry inc. ,maruuni asteria,pocketpark,fabricscape,Pacific House Textile co.,ltd
Art Direction & Graphic Design : Daijiro Ohara, Shinsuke Nakayama
Food and drink produce (3rd floor) : Kinoshita Shoten Co., ltd
Drink stand produce (1st floor) : MurakamiJin(Locals only)
Content planning : MurakamiJin(Locals Only),Stereo Records
art:shunshun
plants:Qusamura
book coordinate: READANDEAT
uniform design : makerhood
photography: Gottingham



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