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独選「大人の必読マンガ」案内

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新潮社フォーサイトで連載中のコラム「独選『大人の必読マンガ』案内」を転載しています。名作・傑作をしつこく推薦し、皆さんがうっかり読む前に死んでしまうリスクを軽減するのが本コラムの…
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#マンガ感想文

愚行と矜持を描き切った叙事詩 宮崎駿『風の谷のナウシカ』

愚行と矜持を描き切った叙事詩 宮崎駿『風の谷のナウシカ』

自然の前で人間の力など小さなものだ。

新型コロナウイルスに翻弄される日々は、我々にこの陳腐な言い回しを再認識させる。
一方でその小さな存在が気候変動を引き起こし、人類は自然と調和したあり方を模索しつつある。

我々は危機を前に賢明な選択ができるのか。

この一大テーマを念頭に最近、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』を精読した。

映画とはまったく別の作品マンガ版『風の谷のナウシカ』は、中断を挟みつつ、

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ルームメイトはイスラムな女の子 『サトコとナダ』

ルームメイトはイスラムな女の子 『サトコとナダ』

最近の米国とイランの関係悪化など騒然とした中東・イスラム圏のニュースは日々、耳に飛び込んでくる。今や世界人口の4分の1がイスラム教徒で、将来には「3人に1人」までその割合は高まるとされる。都内でも最近、ヒジャブを身に着けた女性を見かけることが増えた。

とはいえ、多くの日本人にとってイスラム教やその信者はまだ遠い存在だろう。一方的に流れてくる不穏な国際ニュースの洪水と、不足がちな等身大のイスラム教

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離れ業の人間賛歌「自虐の詩」

離れ業の人間賛歌「自虐の詩」

独選「大人の必読マンガ」案内(9)
業田良家『自虐の詩』お気に入りの小説やマンガが映画化されると聞くと、「やめておけばいいのに……」と思うことは少なくない。原作に対する愛着が深いほど、「汚される」という懸念が強まるからだ。

これまで、「映画化なんてムチャはよせ」と思った筆頭格は、小説ではアゴタ・クリストフの『悪童日記』、マンガでは業田良家(ごうだよしいえ)の『自虐の詩』だ。
前者は劇場に足を運ん

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愛と自由とフロンティア

愛と自由とフロンティア

独選「大人の必読マンガ」案内(12)
幸村誠『プラネテス』史上初のブラックホールの撮影成功やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人探査機「はやぶさ2」の活躍など、宇宙を巡って夢のあるエキサイティングな話題が相次いでいる。
一方、中国が月の裏側へ探査機を送りこみ、ドナルド・トランプ米大統領が宇宙軍創設や月面への有人探査を表明するといった、大国間の宇宙を巡る覇権争いにも拍車がかかりそうな気配だ。

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神話と「平凡」の物語 「SLAM DUNK」

神話と「平凡」の物語 「SLAM DUNK」

独選「大人の必読マンガ」案内(7)
井上雄彦 SLAM DUNK(スラムダンク)1990年秋、『スラムダンク』の連載が『週刊少年ジャンプ』で始まった。最初の数回を読んで、高校3年生だった私はウンザリした気分になった。

「ああ、また、打ち切り必至のバスケマンガが始まったな……」

鬼門だった「バスケマンガ」私は、小学校から大学まで「バスケ小僧」で、小学校に上がる前から『リングにかけろ』に夢中の「ジ

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ユーモアに殉じたリベラリスト 左翼こそ「へうげもの」に学べ!

ユーモアに殉じたリベラリスト 左翼こそ「へうげもの」に学べ!

独選「大人の必読マンガ」案内(6)
山田芳裕『へうげもの』畢生の大作という言葉がある。「代表作」ではまだ足りない、生涯に一度しか書けない、渾身の一作という言葉だ。
まだ50歳とはいえ、山田芳裕にとって、『へうげもの』(講談社、読みは「ひょうげもの」)はまさに畢生の大作だろう。

主人公は美濃の戦国武将、古田佐介(のち古田織部正重然=おりべのかみしげなり、織部助重然)。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と

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理想の上司 vs 悪魔的起業家 「パトレイバー」の魅力

理想の上司 vs 悪魔的起業家 「パトレイバー」の魅力

独選「大人の必読マンガ」案内(5)
ゆうきまさみ『機動警察パトレイバー』「理想の上司像は?」という質問に、私は定番の答えをもっている。
「パトレイバーの後藤さん」というのがそれだ。

ゆうきまさみの『機動警察パトレイバー』(小学館)は、東京を舞台とする近未来SFマンガの傑作だ。多足歩行式ロボット「レイバー」が広く普及し、急増するレイバー犯罪に対処するため、警視庁が本庁警備部内に設置した「パトロール

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「新潮45」休刊を超えて 出版再生と土田世紀「編集王」

「新潮45」休刊を超えて 出版再生と土田世紀「編集王」

本記事は10月3日に新潮社のニュースサイト「Foresight(フォーサイト)」に連載中のコラム、独選「大人の必読マンガ」をもとにしたものです。
このコラムは編集部のご厚意で毎回、noteに転載していますが、今回はコラムと同時期にアップしたnoteの投稿「私の一部は新潮文庫できている」を取り込んでまったく別のコンテンツになっています。
執筆・掲載は独断によるもので、全責任は筆者にあることを明記しま

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