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『イヴのバーにて⑩』
イヴ自身が自主的に散歩に目覚めたのは、犬で言えばしっかりとおばあちゃんの15歳くらいの時から。
椎間板ヘルニアの手術を2回して、筋力も衰えて、
加齢もあいまって後ろ脚が動かなくなってしまった。
それまで外の世界になんか興味ありませんって顔していたくせに、
歩けなくなったら途端に外に興味を持ち始めた。
「ほら、もったいないじゃない。外を楽しまないで死ぬのもさ。
だから急に風や空や草や花や鳥の声や雲や
『イヴのバーにて⑨』
せっかく犬を飼ったのだからと、予防接種を終えてから
散歩を試みるのだが、本人がまったく興味を示さない。
天気の良い日、細いリードで近所に連れ出してみる。
アスファルトと土の道を交互にしばらく歩くと、
見慣れた風景があっという間に目の前にあった。
5分経つと、家の玄関の前だった。
「散歩?大嫌いだったわよ。だって面倒だったんだもの。
足も汚れるし他の犬が寄ってくるし、耳が大きくてネズミみたいとか
『イヴのバーにて⑤』
「あれって、イヴだったの?」
せっかく会えたのだから、その夜のことを直接聞いてみた。
表情を読み取ろうとするけれど、
薄暗いせいなのか犬の表情だからなのか。
どちらとも取れるような目の動きと鼻の艶やかさだった。
もう一度、ちらりとイヴを見てみる。
「もちの、論よ」
イヴは笑う?ように言った。
「近くであんたの娘を見たくて見たくてさ。だから我慢できなくて
天国から見に行ったわけよ」
やっぱりそうだ
『イヴのバーにて④』
左の壁側にある娘のベビーベッドを見ると、
細かい姿は確認できないが、存在はある。
そして、かすかに寝息が聞こえている気がした。
と、次の瞬間ドン!と下腹部に結構な重みを感じた。
丁度5~6キログラムくらいの重み。
その5~6キログラムの塊は、私のお腹をステージにして
まるで躍り上がるように飛び跳ね始めたのだ。
夢とは思えないような痛みで、
思ったよりも長くそのダンスは続いた。
「イヴ?」
久しぶ