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『イヴのバーにて』

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18歳まで生きた、ミニチュアダックスフントのイヴとの 実話とファンタジーを織り交ぜた物語です。 今までは、ただイヴに会いたいと強く思うだけでしたが、 この物語を書き終えた今では、…
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記事一覧

『イヴのバーにて⑰』

『イヴのバーにて⑰』

「でもさ、自分が想像したより長生きしたわよ。もっと若い時から散歩をしておけば良かったとは、後悔しているけどね」
今、目の前のイヴはとても快活で大人で、
もしも人間に生まれ変わってくれるなら、私の友達になってくれないだろうかと考えた。
「そうねえ。そんなことがあったら面白いけど」
イヴには、私の心の声が丸聞こえだ。ずるい。
「私が人間に生まれ変わるとかね。あ、もしくはあんたが、今度犬に生まれ変わると

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『イヴのバーにて⑯』

『イヴのバーにて⑯』

「はあ、飲みすぎたわー。なんだか飲んじゃうわー。あはははは」
イヴとこんなに話していることが不思議なのに、
説明もないまま納得して座っている私がいる。
「説明なんて、いらないのよ。魂と魂がつながっているんだからさ。なんつって」
イヴにだけ心の中が見えているのが悔しいが、そもそも動物と人間なんて
テレパシーで会話しているようなものなのかもしれない。
「そうそう。お互いにほぼわからないけれど、わかった

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『イヴのバーにて⑮』

『イヴのバーにて⑮』

「それにしてもあんた、色んな動物と関わっている人生なのね。
 まるで『なんとか姫』みたいに、しゃべれるんじゃないの?」
あはははははと笑いながら、イヴが新しい飲み物を作った。
メロンソーダみたいな色の飲み物は、不思議に酸っぱくて鼻に抜ける
爽快感もあった。
「ほらまた、来た」
ドアの前に立っていたのは、大きめの白い塊だった。
普段あまり都会では見ない形の鳥で、なんという名前だったかと
天井の方に目

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『イヴのバーにて⑭』

『イヴのバーにて⑭』

「はあ。外が白んできたわね」
と、ペタンペタンペタンという粘着質な足音が近づいてきた。
「まーだ、やってるー?」
ドアをゆっくり開けたのは、でっぷりと太ったトノサマガエルだった。
「どーもどーも、あの時はどーも」
まったく見当がつかなかったが、このカエルに私は会ったことがあるらしい。
「覚えてないよねー。そうだよねー。あのさ、駅の横にあるひょうたん公園の前の交差点でー」

その日、帰宅時間になって

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『イヴのバーにて⑬』

『イヴのバーにて⑬』

「間に合ったかしら?」
キジトラの可愛い子猫が入ってきた。
「来ているって聞いて。きゃー嬉しいわ。よく一緒にお昼寝したわよね。こんなに立派になってー」
エスとは反対側の私の隣に座り、ピンク色の飲み物を頼んだ。
「写真も撮ったし、あなたはよく煮干しをくれたのよね」
ああ、だいぶ大人になってから祖母の家の猫ではないことが発覚し、
じゃあどこの家の猫だったのかと小首をひねったあのミー。
少しショックだっ

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『イヴのバーにて⑫』

『イヴのバーにて⑫』

白さんがいなくなると、またイヴとふたりきりになった。
「ああ、エスって覚えてる?あんたのおばあちゃん家で飼っていた」
家族とはぐれて一匹でいたところを、母方の叔父さんが拾ってきた雑種のオスだ。私は当時まだ4歳くらいだったので詳しい様子はすべて覚えてはいないが、みんなでひどく可愛がっていたことだけは覚えている。
「そのエスダンディーも来るのよ」
エスダンディー?
「そうよ、結構来るの」
と、店のドア

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『イヴのバーにて⑪』

『イヴのバーにて⑪』

「これ食べる?お酒だけ飲むんじゃさ。はいおつまみ、ささみのジャーキー」
ささみはイヴの大好物。
とにかく大食漢で、3キロちょっとだった体重が、あっという間に7キログラムになってしまった。
そして家の中ではオテンバだったため(内弁慶)、階段の上り下りを日に何回も繰り返していた。
多分一連のことが重なって椎間板ヘルニアになってしまったのだと思うけれど、かわいいとついゴハンをあげすぎてしまうので要注意だ

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『イヴのバーにて⑩』

『イヴのバーにて⑩』

イヴ自身が自主的に散歩に目覚めたのは、犬で言えばしっかりとおばあちゃんの15歳くらいの時から。
椎間板ヘルニアの手術を2回して、筋力も衰えて、
加齢もあいまって後ろ脚が動かなくなってしまった。
それまで外の世界になんか興味ありませんって顔していたくせに、
歩けなくなったら途端に外に興味を持ち始めた。
「ほら、もったいないじゃない。外を楽しまないで死ぬのもさ。
だから急に風や空や草や花や鳥の声や雲や

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『イヴのバーにて⑨』

『イヴのバーにて⑨』

せっかく犬を飼ったのだからと、予防接種を終えてから
散歩を試みるのだが、本人がまったく興味を示さない。
天気の良い日、細いリードで近所に連れ出してみる。
アスファルトと土の道を交互にしばらく歩くと、
見慣れた風景があっという間に目の前にあった。
5分経つと、家の玄関の前だった。

「散歩?大嫌いだったわよ。だって面倒だったんだもの。
足も汚れるし他の犬が寄ってくるし、耳が大きくてネズミみたいとか

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『イヴのバーにて⑧』

『イヴのバーにて⑧』

イヴとの出会いは私が中学1年生の時。
父が当時愛犬雑誌で見つけてきた埼玉県にあるブリーダーの元へ
出かけた。
きれいな犬舎に着くと、ラブラドールレトリーバーが迎えてくれた。
「こっちがミニチュアダックスフンドの犬舎です」
案内されたケージをのぞくと、2匹の小さな仔犬が重なって眠っていた。
「この黒いオスはもう売約済みで、こっちの茶色いメスが残っています」
耳が顔より大きいその仔犬は、まだ眠い目をパ

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『イヴのバーにて⑦』

『イヴのバーにて⑦』

「そう言えばあんた、犬飼ったんだよね?毛むくじゃらの。
なんつったっけ?」
シーズー犬。
実は私は犬を再び飼うことには躊躇いがあった。
やっぱりためらう理由は、別れ。
最後の時の喪失感と、自分の後遺症があまりにも辛かったから。
それでも道でたまたま同じ犬種のミニチュアダックスフンドを見ると目で追い、そして目を腫らす。
イヴの方が可愛かったと、心の中で小さくつぶやく。

ただ、犬を飼いたい気持ちはパ

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『イヴのバーにて⑥』

『イヴのバーにて⑥』

「そうそう。そういえば覚えてる?近所にミーっていたじゃない、
サバトラの野良でさ。斜め向かいの蕎麦屋さんで可愛がられていて
たまにウチに来ていた。
棚木猫でさ、アタシやあんたがなんか言っても全然距離縮めてくれなくて。
フーフー言って逃げるばっかりで憎たらしいったらありゃしなかったけど、あの子も息子とたまに来るわよ」
意外だった。
ミーは、我が家がアパートから引っ越した先の一軒家の近所を縄張りとして

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『イヴのバーにて⑤』

『イヴのバーにて⑤』

「あれって、イヴだったの?」
せっかく会えたのだから、その夜のことを直接聞いてみた。
表情を読み取ろうとするけれど、
薄暗いせいなのか犬の表情だからなのか。
どちらとも取れるような目の動きと鼻の艶やかさだった。
もう一度、ちらりとイヴを見てみる。

「もちの、論よ」
イヴは笑う?ように言った。
「近くであんたの娘を見たくて見たくてさ。だから我慢できなくて
天国から見に行ったわけよ」
やっぱりそうだ

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『イヴのバーにて④』

『イヴのバーにて④』

左の壁側にある娘のベビーベッドを見ると、
細かい姿は確認できないが、存在はある。
そして、かすかに寝息が聞こえている気がした。
と、次の瞬間ドン!と下腹部に結構な重みを感じた。
丁度5~6キログラムくらいの重み。
その5~6キログラムの塊は、私のお腹をステージにして
まるで躍り上がるように飛び跳ね始めたのだ。

夢とは思えないような痛みで、
思ったよりも長くそのダンスは続いた。
「イヴ?」
久しぶ

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