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『イヴのバーにて⑤』

「あれって、イヴだったの?」
せっかく会えたのだから、その夜のことを直接聞いてみた。
表情を読み取ろうとするけれど、
薄暗いせいなのか犬の表情だからなのか。
どちらとも取れるような目の動きと鼻の艶やかさだった。
もう一度、ちらりとイヴを見てみる。

「もちの、論よ」
イヴは笑う?ように言った。
「近くであんたの娘を見たくて見たくてさ。だから我慢できなくて
天国から見に行ったわけよ」
やっぱりそうだったんだ。
疲れていたから勘違いしていたのだと自分に言い聞かせていたけれど、
本人(犬)が言うのだから間違いない。
また、イヴの姿が水面の月が揺れるように、
ゆらりゆらりと溶かされていく。
「また泣いてる」

それからは、時間を忘れてイヴと終わらない思い出話をした。
その間、何杯飲んだだろう。
でも不思議と頭はしっかりとしていて、
酔っぱらうようなことは一切なかった。
イヴは時々、実家と我が家を行ったり来たりして
様子を見に来ているのだという。

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