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短編小説・シナリオ集

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短編小説・オートフィクション・シナリオ・詩 etc.. 日常のワンシーンを切り取った世界 音楽からインスパイアされた世界 フィクションとノンフィクションの境にある世界 そんな…
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2022年9月の記事一覧

【短編小説】つぐみ

【短編小説】つぐみ

あの子と親しくしていたのは、いつも肌寒い季節だったような気がする。

捉えどころのないあの子は、俺のすぐ隣で泣いて笑って怒って悲しんで楽しんでいるかと思えば、少ししたらまたすぐにどこかへ行ってしまう。
それでもまたこの季節が近づいてきたら、彼女は俺の元へと帰ってきて、いろんな気持ちを抱えながら笑顔を向けてくる。

毎日全力で生きていて、色んなことに全力でぶつかっていて、真っ直ぐに生きている彼女の世

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【シナリオ】ひとつの覚悟

【シナリオ】ひとつの覚悟

ーーー 会社の喫煙所でのワンシーン

先輩、覚悟ってなんなんですか?
毎日真面目にやってんのに、なんで"お前は覚悟がないんだよ!"なんてみんなの前で怒鳴られなきゃならないんですか
パワハラですよほんと

課長も悪い人じゃないんだけどね

それはわかりますよ?
でもなんなんすか、覚悟って
知らねーよそんなもんって感じです

ハハ、まぁそうだよなぁ
俺も入社したての頃はよくわかんなかった
というか、今

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【短編小説】灰色の水平線を辿って

【短編小説】灰色の水平線を辿って

思い出すのは、いつだってちょっと切なそうな、悲しそうな、寂しそうな、けれどどこか嬉しそうな、私を見るあなたから滲んだ表情。

もしかしたらそれは幻想なのかもしれない。

けれど、ほんの少しだけ醸されたそれを、私はもう何年も忘れることができない。

心に住み着いてしまったそれは、私とあなたを繋ぐ唯一の形ある存在なのかもしれない。

中学1年生の時、入学早々私は大きな一目惚れをして、斜め後ろの席の彼の

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【poem】名前をつけてやる

ずっとずっと、自分の中のものに名前をつけてこなかった

これからは、どんな小さなものでも名前をつけてやる

そうして、愛すべき自分の願いも、思いも、夢も、なんだって叶えてやる

そう決めてからは、それはそれは幸せだった

そんな中、ごつんと重たいものにぶち当たった

途方に暮れた

素直に見ることができない

色々なものが少しずつ積み重なってできてしまったこの巨大な岩のような塊を、すぐに直視するこ

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【短編小説】消えた虹に想いを馳せて

【短編小説】消えた虹に想いを馳せて

吹き飛ばされそうなほど強い風の日
20分以上かけて歩いて保育園に子供をやっとのことで送り届け、ぐでんと横たわっていた白い猫の死骸を避けて帰ろうと大通りを歩いた。

どんより薄黒い雲が空を覆う
こんなに朝早くから結構な距離を歩いているのに、爽快さを感じるなんてことはない。
むしろ、心のざわめきに体がそのまま晒されているような感覚だった。

風は荒ぶっている
目にゴミが入る
髪の毛は乱れ、衣類はまとわ

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