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部下の中にある星座を見つけよう

職場で接する部下について、わかっているようでわからないというのが上司、リーダーである人の感想ではないでしょうか。

部下との関わりは基本的に職場での仕事の中ですから、部下であるその人を構成している「一部の点」を垣間見るに留まります。

リーダーとしては夜空に浮かぶ星という点を眺めるがごとく、部下の「一部の点」を眺めて、自分の知識や経験に照らし合わせて「こういう人間なのだろう」と推測するのが現実だと思います。

ただ、夜空を見上げてみると星座には同じものがないように、人もまた全く同じではありません。

案外、この当たり前のことを忘れてしまい、無意識に部下をカテゴライズしたり、レッテルを貼ってしまうことは少なくありません。

そして、例えばお酒の席で偶然、趣味や家族のこと、前職での仕事の話を聞いてみるとそれまで自分が抱いていたイメージと全く異なることを感じた経験があるのではないでしょうか。

点と点を繋いで星座を見つける

日本の分析心理学の第一人者である河合隼雄先生の考え方によると、人間を理解するためには「コンステレーション」が必要で、これは心理学者のユングが提唱した概念で元々は星座を意味するものだそうです。

一つひとつの星を繋ぎ合わせると星座(コンステレーション)となり、そこにはそれぞれのストーリーがあるというのです。そこで、カウンセリングにおいては相手が持つ価値観、経験や知識、それまで過ごした環境など複数の要素がどのように関係し、その人自身にはどんなストーリーがあるのかを理解するよう努めるそうです。

河合先生の著作の中に登場する不登校児のエピソードがとても印象的で、人を理解することの難しさを示唆しています。

子どもに、「何で学校にいかないのか理由を言いなさい」と言うと、本人には特にこれという理由がない場合がある。本当は行きたくて、時間割を揃えたりして明日こそは学校に行こうと思っていても朝になると動けなくなってしまう。そこでまた親から「学校に行かない理由を言いなさい」と言われるので、仕方なしに通学路に怖い犬がいるからと適当な理由を言ってしまう。それを聞いてほっとした親は犬が原因ならそれをどうにかしようと思うのかもしれませんが、そうされると子どもは次の言い訳を考えないといけないので困ってしまう訳です。次に担任の先生が怖いと言えば学校の問題だということになってしまいます。

「こころの最終講義」

子どもは親に本音は語っていませんし、理由を聞かれれば何かしら答えるけれども、そもそも子ども自身も学校に行けない核心的な理由を理解できていません。

この親は子どもを「点」として見ているので、点と点を繋いで子どもの中にどんなストーリーがあるのかを考えようとしていない訳です。

親は学校に行けないその場しのぎの言い訳となっている原因さえ取り除けば学校に行ってくれるのだろうと考える訳ですが、子どもにとっては学校に行けなくさせている複雑に絡んだ要素を言葉でうまく説明できなくて苦しんでいるのですね。

大人であっても、深い悩みを抱えている場合、いろんなものが重なったり、複雑に絡んでいると本人ですら何が理由なのかがわからなくなってしまうことを考えてみれば納得できるのではないでしょうか。

部下の中にある星座を見つける

ところで、この親子のやり取り、既視感がないでしょうか?職場におけるリーダーである自分と部下とのやり取りも同じようなことが起きているはずです。

例えば、指示していた仕事があった際に、期限を過ぎていた、質の悪い成果物が上がってきたとしましょう。

部下から言い訳に聞こえる言葉を遮って、頭ごなしに「期限を守れ」「もっと考えて仕事しろ」と怒りに任せて叱責し、「仕事のデキない奴」と烙印を押してはいないでしょうか。

もう少し優しい上司であったとしたら、それが仮に「やり方がわからなかったので」という本心ではない部下の弁解を聞いて、マニュアル整備に精を出したりしまったりということもあるでしょう。でも、それでは通学路にいる犬をどうにかしようとする親と同じです。

前述の不登校の子どもと同じように、部下本人も出来なかった原因がわからないのかもしれません。そして咄嗟に出た言葉は本当の原因ではなく、その場から逃げ出したい一心で言った言葉かもしれません。

上司の立場として期限を守らせる、仕事の質を要求することは決して間違った行動ではありません。ただ、あまりに正論を吐きすぎると、部下も人間ですから反発するか、ひどく傷ついてしまう場合もあります。いずれにせよ、信頼関係など築きようもない状態に陥る可能性が高まります。

「相席いいですか」

人には他人に言えない事情、背景というものがありますし、それを言うためには相応の関係性が必要です。

仕事の場面では、上司の命令だから仕方なく仕事を受けてみたものの、あまりに忙しくてできなかったのかもしれませんし、体調が悪かったり、家族のことで悩んでいたり、その他人に言えないような大きな悩みを抱えているなどの事情があって仕事に身が入らなかったのかもしれません。

人によっては初めての仕事で要領がわからず困っていたが誰にも相談できなかったのかもしれません。

「期待していたものと違った。どうしてこういう結果になったのか」を考えるために、リーダーは部下に対して湧き上がる言いたいことを一旦飲み込むのが賢明ではないでしょうか。

そして、他の心当たりを考えてみることです。

・自分の指示の仕方が悪かったのかもしれない
・自分を嫌っていて、指示に従いたくなかったのかもしれない
・部下も忙しいのに仕事を無理に押しつけたのかもしれない
・そういえば心ここにあらずという感じがしたような気がする
・退職をほのめかしているようなことを噂で聞いた

もちろんこれらは自分の憶測に過ぎないので、時間を取って部下と話すことが大切ですが、話してみても部下自身が本音で話してくれない場合もあるでしょう。

本音で話してもらえないのは普段から信頼関係がないためですから、そうであるのであれば普段の関わり方をリーダー自ら変えていくしかありません。

その過程で、部下が持っている「点」を少しでも多く見つけて、部下という人間の全体像である「星座」を少しづつ捉えていく努力が必要なのだと思います。

部下をどう理解したらよいのか

私たちは自分が理解しやすいように、自分の知らない部下の別の顔、能力、事情、過去、思いなどの存在を無視して、ついつい勝手に作り上げたフレームの中に自分が得た数少ない情報で部下を理解したつもりでいますが、一見して浮かび上がる特徴や行動パターンだけで部下を評価するのではなく、多面的な視点で捉えることが大事です。

時には、ある行動の背後には想像もつかないような事情や思いが隠れていることもあります。そのような状況下で、部下とのコミュニケーションを深めることは、信頼関係の構築に不可欠となります。

また、部下をカテゴライズすることで、彼らの持つ多様性や独自性を見失ってしまうことがあります。本来は、部下一人ひとりが独自の星のように輝きを放っており、それぞれが異なる軌道を描いています。いわばこの多様性こそが組織を豊かにし、新たなアイデアや視点を生み出す源泉となるはずです。

まとめ

リーダーは常に自らの見解や予測が正しいとは限らないことを認識することが重要です。カシオペア座だと思っていたら、実はオリオン座だった――というように、常に新しい情報や視点に開かれることが、リーダーシップの質を高める一助となります。

部下との関係を築くうえでは、色眼鏡を外し、一人ひとりの個性や可能性を大切にする姿勢を忘れないようにしたいものです。それが、より良い職場環境を築くことや組織力を高めるための第一歩となると思います。

「世に伯楽あり、然る後に千里の馬あり。千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」 

 韓愈『雑説』

伯楽とは、馬の良し悪しを見分ける名人のこと。日に千里も走る名馬は、数は少なくともいつの時代もいるものですが、その名馬を見出してくれる伯楽がいなければ、馬も力を発揮することができない。「能力のある人材がいても、上に立つ人に見る目がなければその能力が発揮されることはない」ということです。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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