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鹿児島県与論町を踏破 その3<日本全市町村踏破(制覇)>

2018年2月12日。参拝を終え、本日の宿「星砂荘」へ。島の南西部、民俗村に近い場所にある。

夕食では、奄美鶏飯など、郷土色豊かな料理が出た。奄美群島と鹿児島県の最南端で、琉球色の濃い島だが、こうして鶏飯を見ると、沖縄とはまた違うのだなと納得。

こちらはご飯をよそい、鶏飯の具を載せて汁を掛けたところ。

夕食時、宿の主人がリードして「与論献奉(よろんけんぽう)」が行われた。与論献奉とは与論を代表する伝統文化で、中世から存在する島への客人をもてなす儀礼である。

まず、もてなす側の主人が、朱塗りの杯に黒糖焼酎を注ぎ、自己紹介と歓迎の言葉を述べ、最後に「とうとがなし」(与論方言で「ありがとう」の意)と言って盃を飲み干す。盃に残った雫は、手の平に取って髪に付ける。これは髪=神に返す、という意味合いがある。そして、客人も自己紹介と感謝の意を述べて、同じように、順番に繰り返していく。歴史的な変遷もあるようだが、現在行われている与論献奉の次第は大体こんなところだ。

自己紹介の際は、私は日本全市町村踏破中で、月刊ムーにも執筆した事があると述べた。宿泊者は他に二人で、うち一人は、いつ帰るとも知れない四十代男性の島めぐりの旅人、もう一人は健康に関する企業に勤めるドイツ人で、南西諸島の長寿の秘密を探る為、半年ほどかけて島々を巡っているのとのこと。自分で言うのも何だが、変わった客ばかり(笑)

真冬に与論島に来ようなんて人は、変わった人が多いのか。確かに、リゾートとして楽しむなら、百合ヶ浜が見られる季節に来るだろう。ゴールデンウィークあたりか。

この晩には、与論の民俗に関する話もいくらか聞いた。その中で最も印象深かったのが、「ヤーナー(家名)」と呼ばれる、戸籍上の氏名とは異なる名を持つ習慣だ。与論島の島民の間では、氏名ではなく、このヤーナーで呼び合うらしい。

ヤーナーは、その名の通り、屋号のようなものなのだが、一家で同じ名を持つ訳ではないし、受け継ぎ方も違う。長男は父方の祖父から、長女は父方の祖母から継ぎ、次男次女は同様に母方の祖父母から継ぐのだそうだ。あるいは、先祖の偉大な人から取る場合もあるらしい。具体的には、ハニ、ウシ、トゥク、ジャー、マニュ、トゥラなどのヤーナーがあるとのこと。

特別秘密でもなく、また島外者に付けることもあるそうで、この宿に何度が泊まりに来ているリピーターにも付けたりしているのとのこと。呪術的に感じられるところもありながら、オープンで、柔軟でもある、不思議な文化だ。なお、五回ほど泊まりに来て、ヤーナーを貰った女の子は、与論島で結婚して土着したそうである。

オープンだが、「入参儀礼」的でもあって、やはり結社めいているような、どこか呪術的な感じがする。そこらへんも、本土の屋号とは違った感がある。継承の仕方からして、古代の雰囲気がある。男系継承が確立する以前の時代の名残がある。琉球は女性が神官を務め、王朝最高位の神官も聞得大君(きこえおおきみ)という巫女なので、中世、近世にあっても、完全な男系社会ではなかったが。

「神話伝説研究家」の私としては、興味深いことばかりの、与論島の文化。知的興奮も、酔いも醒めやらぬが、22時頃には、床に就いた。

翌朝、窓の外を見れば、海の向こうに沖縄本島が見える。本島までの距離は約20km。与論が琉球文化の影響が濃いのも頷ける。

鹿児島はもちろんの事、奄美大島も見えないが、沖縄は見えるというのが、鹿児島県と奄美群島の最南端たる与論島の地勢である。

朝、宿の奥さんに、ヤーナーの起源神話を教わった。

あるとき、漁師が浜辺で、神々の話をこっそり聴いた。神々は、今度生まれて来る子供の名前をどうするか、話し合っていた。
それを聞いた人々は、先に名前(即ちヤーナー)を付けて、神々にその子の運命を決定させず、災いから身を守るようにした。

こうしてみると、呪術性があることは間違いない。
改めて調べてみると、ヤーナーを得るまで島で仕事が出来ないといった情報もあって、入参儀礼、結社的な側面もあるようだ。

なお、ヤーナーは沖縄にもあるという情報もあれば、ないという情報もあって、はっきりしないが、与論島ほどしっかり受け継がれ、運用されている土地は他になさそうである。

際だって独特の文化が、今も息づく島、与論。この島では、いい意味で「呪術」が今も生きている。宿の奥さんに、与論産の島バナナを貰って食べながら、そんなことを思った。

島産の木の実を食べるというこの行為も、思えば呪術的だ。日本神話にもギリシア神話にも、冥界の食べ物を食べたがゆえに、地上に帰れなくなった話がある。冥界の話を持ちだすのも与論に失礼かもしれないが、かのイザナミやペルセポネーの如く、私の心もいくらか与論に止め置かれたような気もする。

市町村踏破数は前回投稿から変わらず。
鹿児島県全43市町村のうち、42市町村踏破、残り1村、達成率97.7%。
九州・沖縄全274市町村のうち、258市町村踏破、残り16市町村、達成率94.2%。
日本全国1741市町村のうち、1718市町村踏破、残り23市町村、達成率98.7%。

サポート頂けると、全市町村踏破の旅行資金になります!また、旅先のどこかの神社で、サポート頂いた方に幸多からんことをお祈り致します!