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連載小説【正義屋グティ】   第55話・暗然


~ご案内~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第54話・人間を愛したい】
重要参考話→【第5話・意地悪な】(チュイ初登場)
      【第28話・華の所長】(ミラ初登場)
      【第51話・学ぶ人】(現在の世界情勢)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生に進級したグティ達は、同じ中央五大国であるまいまい島の首長が変わったことを受け、カルム国の外務大臣がまいまい島へ挨拶に行く護衛を任された。ようやくまいまい島に到着すると、海辺では500を超える人々がグティ達を歓迎する演奏をしていた。そんなお祭り騒ぎの海辺に各々が散らばる中、一同は12歳のカリオペいう少女に出会うことになる。その際、グティの革靴騒動もあり足元を注意深く見ていたカザマはその少女の足首に銅の錠が巻かれている事に気づき、話を聞いてみることにした。するとカリオペは支離滅裂な文章の最後に「私は人間を愛したいっぺ」とカザマに訴えかけ涙を流す。カザマとグティはまいまい島に何か深い闇があると考え、別行動をとりそれを探り始める……

~カルム国とまいまい島の関係~

正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。

~登場人物~

グティレス・ヒカル
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
10歳の頃は大人しく穏やかな性格だったが、夢の中で出会った狼の話を聞き『正義』について疑問を抱くようになる。そしてその直後のデパートでの事件を経て自分の『正義』を見つけ、祖父の勧めから正義屋養成所に入学することを決意した。しかし、そのデパート事件で怒りを制御できなくなる病を患ってしまい、もしも怒りの感情を覚えたときグティの体は狼に変貌してしまう……。

ゴージーン・パターソン
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
総合分校時代からのグティの大親友。いつもにこやかで優しい性格であるがそれが故に他人の頼みを断れない大のお人よしだ。10歳の頃にグティの父親と交わした『小さな誓い』を守るために正義屋養成所に入所した。グティの謎の病気のことを知っている数少ない人間の一人である。優秀な頭脳を使いグティを支え続けた末にあるものとは...。

マーチ・ソフィア
年齢 16歳(正義屋養成所4年生)
グティとパターソンの総合分校時代からの幼馴染。総合分校の時、ソフィアはその小柄で内気な性格からクラスメイトにいじめをされていた。しかし、なぜ正義屋養成所を目指したのかは明らかになっていない。

ヒュウ・カザマ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
いつも学ランをだらしなく着こなし、水色のショートヘアがかなりマッチしていて結構モテる。話し方は少しばかり棘がありグティは気に食わなそうだが、いざと言う時には行動力があり周りの頼りとなっている。最近はよくグティと喧嘩しているが、根は仲良しである。少し中二病。

チュイ プロストコ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は約150センチ。中性的な見た目で髪を伸ばし後頭部で奇麗に結んでいる。いつも冷静で約束は必ず守るからか友達が非常に多く周りからの信頼も厚い。だがそんなチュイにも苦い総合分校時代の思い出があるとか。

デューン アレグロ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生・ベルヴァ隊員)
性格は暗く、目つきが悪いで有名。怒ると何するか分からないと噂されているためか、あまり人が寄ってこない。そのため基本的にずっと一人で行動をしている謎多き人物。しかし、3015年の正義屋養成所襲撃事件の際に、反カルム国の組織・ベルヴァに所属していることが判明し、託された任務はグティを密かに護衛することだった。

ダグラス ミラ
正義屋養成所新所長(3015〜)
新入生歓迎会で突如として現れた新所長。顔はとても小さいのにも関らず身長は170cmあり、髪型はポニーテールでいつもミニスカートを履いている。そんなミラは正義屋養成所の男子生徒から多大なる支持を集めた。しかし何故社長に抜擢されたのかは皆知らない。

ネビィー ウォーカー先生
正義屋養成所 教官
グティ達の代を担当する先生。一応先生なのだが、しかしメリハリの『メ』の字もないほどいつもだらしなく、ゆるい雰囲気の人だ。悪い人では無さそうなのだが、人の上に立つような人間ではないような気もする。

サンチェス・チェリー
カルム国の外務大臣

ー本編ー 55.暗然

演奏が始まってから早一時間。それにも関わらず島民の顔には一切疲れの表情は見られなかった。楽器の音量も、海の声も、人々の熱量も、グティ達がまいまい島に到着した時とさほど変わりはないが、太陽と人々の距離は唯一例外だった。少し歩を進めるだけで倒れてしまいそうな熱気に、どこを見てもゆらゆらとうねる視界。終いには演奏する者たちの体から絶えず滲み出ていた汗のベトベトも、少し前から感じなくなってきていた。活気ある演奏をバックに会話を楽しんでいたミラはようやくこのことに気づくと、止まらないチェリーの話に合いの手を入れるのを中断し申し訳なさそうに割り込んだ。
「あのー……チェリーさん、これもしかして私たちがこの場を立ち去るまで演奏は終わらないんじゃ」
「あら、私ったらもうそんなに話してたかしら。ごめんねーミラちゃん」
謝る相手は他にもいるのでは。そう言ってやりたい気持ちをぐっと抑えたミラは口角を無理やり上げると、水色のリムジンの扉を丁寧に開け右手をひんやりと冷えた車内に向ける。
「どうぞ」
ミラはその表情を崩さずチェリーを見つめた。
「もーミラちゃんもあんまり気を使わなくていいのよ」
「ありがとうございます。しかし正義屋の関係者という身分ですので、最低限の礼儀はさせてください」
「ありがと。でも私はカルム国の正義屋を下に見る文化好きじゃないの。私はあなた達の幹部やその上の凄さを知ってるから」
チェリーはそう言うと、静かに高級そうな黒のシートに腰を掛けミラを手招きをした。ミラは空の三割ほどを占める巨大な太陽に視線を上げると、こうしている間にも演奏している島民の限界が近づいているのを思い出し、数メートル先にぼーっと立っているウォーカー先生の後頭部を睨みつけた。
「しっかしこんなくそ暑い中、よくやるな」
が、この鈍感男がその気配に気づけるはずもなく、ゆっくりと砂浜の上で胡坐をかき始めた。
「ミラちゃん、まだ乗らないの?」
リムジンの中からはチェリーのせかす声がミラの心をざわつかせる。なぜ気づかないのだ、この男は。いらだちの隠せないミラはポニーテールの尾を掴み持ち上げては下に落とすという謎の動作を繰り返しながら、仕方なくリムジンのシートに腰を掛けた。エアコンによって冷やされた汗と純白なワンピースが背中や素脚にべたべたと貼り付く不快感がいつもの数倍にも増して感じてしまったミラは、ドアノブを握りしめると、
「ん“ん”」
というたくましい咳払いと同時に勢いよく扉を閉めた。
バタン!そんな音にさすがのウォーカー先生も振り返ると、水色のリムジンから溢れ出るただ事ではない負のオーラを肌で感じ、急いでその場に集まっていた生徒を指でおり数え始める。
「いるのが、パターソン、ソフィア、チュイ、アレグロ、スミス、グリル……」
だんだんと数える速度が遅くなり、親指を曲げた状態で数える手が止まったウォーカー先生は恐る恐るパターソンの顔を伺った。
「おい、パターソン。残りの四人はどこだ?」
「あーグティ達なら、後で来るって言ってましたよ」
スミスと話していたパターソンは、邪魔者を見るような目で淡白に答えた。
「後で来る。じゃねえよ!今来い。アホ!……ソフィアは何か知ってるんじゃないのか?」
養成所では中々見ることのないウォーカー先生の表情に、面白い反面困惑しているソフィアは、そっと目を背けると、
「し、知らないです」
と、さらりと答えた。純粋で優しいソフィアという頼りの綱を切られてしまったウォーカー先生は声にならない声を出し、頭を抱えながら演奏隊の中を我武者羅に走っていった。

「この暑さだと、すぐにばてるな」
ウォーカー先生の限界は五分もしないうちにきたらしく、膝に両手をつきカラカラに乾ききった喉に唾を流し込む。頼むから早く出てきてくれ。五百を超える人ごみの中から数人の少年たちを探すことがどれだけ困難なものなのかを実感したウォーカー先生は、天を仰ぎそう願いこむしかできなかった。そんな時、演奏の隙間から小さな、だが確実に聞き覚えのある声がした。
「もしや……グティレスか?!」
先ほどまでイライラの矛先の一人であった男のはずなのに、ウォーカー先生は怒るどころか、その登場を待ち望みにしていた。
「おーい!グティレス!どこだー?」
久々にこんなにも大きな声を出した。せっかくの希望の光を見失うまいとウォーカー先生は必死に辺りを見渡すと、カリオペが持っていたはずの筒状の楽器を手に持ったグティが人ごみの間を通り抜け顔を見せた。
「どうしました?」
「どうしましただと?……まぁいいか。ほかの三人組はどうした?」
ウォーカー先生の頭に問題児三人の顔が浮かんだ。尋ねられたグティは手汗でじとじとした楽器に視線を落とすと、熱い空気を思いっきり吸い込んだ。
「カザマ……達の事なら探さないでやってくだい」
「探すなだと?なに言ってんだ、こっちはただでさえ急かされてるってのに……」
ウォーカー先生は再び不機嫌そうな眼差しをグティに向けた。しかしグティは態度を変えようとしない。グティはウォーカー先生の瞳を覗くと、
「あのバカには、やらなくてはならないことができたんです。先生も気づいてい るでしょ、この島の異常さを」
と言い放った。二人の周りに鳴り続ける楽器の音色が徐々に小さくなっていく。そしてそれがただのノイズにしか聞こえなくなったウォーカー先生は、顔を歪めると背を向け来た道を戻り始めた。
「今回の遠征に連れてきた生徒は七人だ。いいな」
そう呟くウォーカー先生の後ろで首を縦に振ったグティはその背を追っていった。

一方、ウォーカー先生がグティ達を探しに行った直後のリムジン前では不穏な空気が流れていた。
「あっれれー?もしかしてチュイ君じゃね?懐かしいねえ」
その場にいたチュイ達は一斉に声のする方向に顔を向けた。声の主である小太りの少年は足を組み水色のリムジンにもたれかかると、全身を舐めまわすようにじろじろとチュイ達の事を眺める。
「チュイ、あの子のこと知ってるの?」
パターソンの問いかけに返事はない。その少年は楽器を演奏している人々とは違い、小奇麗な水色の服を身に纏い、右手には手持ち扇風機、左手には金色の真剣を持っていた。もちろんその足首には銅の錠などついていない。チュイは一瞬その少年に目を合わせたがすぐに目線を外し、険しい顔をして沖の方に体を向けた。
「気にしないでいいと思う。みんな」
後ろで結んでいた青髪をほどき、その髪を熱風にひらひらとなびかせる。その間にも何も話さないという事は、チュイとあの少年は明らかに良い関係ではない。心なしか震えて聞こえたチュイの言葉からその意図をくみ取ったパターソンは何も言わず、僅かに聞こえる潮の音に耳を傾けた。
「おいおいー無視かよ水くせぇな、どうしちまったんだよ」
再び沈黙が走る。空気を読めなさそうなアレグロとグリルも今はその静かな波に便乗し、少年に冷たい眼差しを送った。すると少年は気味悪く声を出し笑い出すと、ゆっくりとチュイの背後に近づいていき、遂にその小さな肩に手を置いた。
「正義屋の分際で俺を無視するとはいい度胸だな。また可愛がってやろうか、兄弟」
「兄弟だって?!」
グリルは思わず声を出した。ようやく反応してもらった事がよほど嬉しかったのか、少年はグリルに顔を近づけると、
「そうなんだよ。一つ上の兄なんだけどよ、こいつほんっとにダメで12の時にいなくなったと思ったらこんな所で馬鹿みてぇに正義屋やってんだぜ。あぁ、おかしな奴だ」
と嫌みったらしく説明した。グリルはつい乗せられてしまった口を両手で抑え睨みつけると、何を考えたか少年は砂の上に屈みこみ手をお椀の形にしてアツアツの砂をすくう。
「まぁそんな出来損ない、どこに行ってもらっても構わねぇが」
少年はそんな言葉をこぼしながら腰を上げると、両手に抱えた砂をチュイの頭頂部でスタンバイさせた。
「がはははっは、でも所詮それくらいの奴だ。それでは皆さんご一緒に3、2、1……」
少年は実の兄の頭にありったけの砂をぶつける事を想像しては、気色の悪い笑みを作り、カウントダウンをする声は徐々に高揚していった。そんな鬼畜な所業を前に心優しいソフィアが許すはずもなく、ソフィアは覚悟を決め少年の服の裾を掴むと、
「止めなよ、君。チュイ君、嫌がってるじゃない!」
と、そう怒鳴りつけた。しかし、その怒声は少年にとって聴衆がこのショーを盛り上げているようにしか聞こえなかった。少年は
「悪いけど、俺には『君』ではなく、『ヨハネス』っつういい名前があるんだぜ」
と、反省の色も見せずカウントダウンを再開させる。しかし、カウントダウンはその直後、突如として終わりを迎えた。
「お、おい、そんな冗談、つまんねえぞ」
ヨハネスは声を震わせると、顎下につけられた銃を指さし恐ろしい形相のアレグロに顔だけ向けた。
「冗談?」
アレグロはそう口ずさむと、ヨハネスの黒い髪を掴み自分の方へ勢いよく引き寄せ続ける。
「お前らの事なんてどうでもいい。でも腹立つんだよ、ただテメェの胸糞悪い顔を見ているだけで」
今日一番の大きな波の音が聞こえた。あまりの恐怖に眼も合わせれないヨハネスは、足にぶつかった冷たい波に情けない声を出し、
「あああああああ」
と叫びながらどこか遠くに逃げて行ってしまった。それでもここは無数の合唱団の集う浜辺。そんな悲鳴など誰にも聞こえず、演奏はグティ達がようやくリムジンに乗り込み、島の坂を上り見えなくなるまでしばらく続いた。

    To be continued……       第56話・ジェイルボックス
グティ達を乗せたリムジンは海辺を離れ、演奏が終わり、始まった。2024年3月3日(日)投稿予定!⦅テスト期間なので、余裕があればその間も書きます!⦆ようやく下地が終わったので、次回からまいまい島編本格始動です!お楽しみに!!

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