見出し画像

連載小説【正義屋グティ】    第28話・華の所長

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第27話・狼命の交換】
重要関連話→【第18話・紫電】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

28.華の所長

3015年
あの暑い夏の日に焼かれ、破壊しつくされたカルム国の首都・カタルシスでは、手を付けずに放置された大量の瓦礫が半年がたった今でも変わらず残っていた。5階のフロアに残された子供たちは何とか救出されたが、抜け殻となったデパートは壁がえぐられ所々にひび割れた赤レンガの山が積まれていた。正義屋が提案ていた復興案も意味をなさず、白く輝く雪に街が埋もれるような時期になってしまった。誰もが人類の愚かさと無力さを感じた結果、この国の士気は一気に落ちぶれ、国民の怒りの矛先は正義屋に向き始めていた…

正義屋養成所・首都校 大ホール

「みんな、進級おめでとう。これより新入生歓迎会を始める」
高そうな黒のスーツを羽織った正義屋の総裁であるラギ・モンドは、舞台に立つと全校生徒から拍手をかっさらった。1年生15人の椅子を取り囲むように二〜五年生のおよそ50人が椅子に腰かけラギの顔を見つめる。
「グティ、これからあそこに座る奴はみんな俺たちの後輩だろ?手下にしてやろうかな」
「デンたん静かに、恥ずかしいから」
しかし出来損ないの集まりという事もあり、大人の話をじっとと聞くことが堪えられない奴も出てきた。カザマは後ろの席から包帯がぐるぐる巻きに巻かれたデンたんの頭を松葉づえでつつき、ため息を出す。
「デンたん、お前も15なんだからちょっとは成長しろよ。あんまりバカだと俺がその石頭勝ち割ってやるからな」
耳元に届いたその声に縮こまるデンたんは、包帯の頭を大事そうに撫でまわした。半年前に起きた首都襲撃事件でサングラス男により頭に致命傷を負ったデンたんだったが、持ち前の元気でけがを全て吹っ飛ばしてしまったらしい。その戦いでけがを負ったこの男もその様子を見て、腕吊り(アームリーダー)に右腕を支えられながらクスクスと笑っていた。
「おい、チュイまで笑いあがって」
カザマは呆れたような顔でチュイの方を見つめると、チュイは
「ごめんごめん、つい」
と笑いながら謝罪した。そんな明るい雰囲気とは裏腹に舞台上でラギが語っていることは重みがあった。
「そうだ、新入生歓迎会の前に一つ。半年前、君たちの先輩である正義屋の職員が名も顔も割れていないテロリストに屈した。僕らの街は原形をとどめないほどに破壊され、何よりも大切な住民や職員の命が数多く失われた。今日はその日を戦った勇敢な職員の方達を讃えようと数人を呼び出した。諸君らは拍手で迎い入れてくれ」
ラギのスピーチが終わると再び大ホールの中は拍手の渦に飲み込まれ、その中から屈強な正義屋の職員が現れた。
「あ!ラスさん」
グティは20歳になった緑眼のラス・バリトンを見つけ手を振った。ラスはグティ達の方をチラッと目に入れた後、反応もなしに花道を歩き続けた。
「変だね、ラスさん。やっぱりあの時の責任を感じているのかも。相棒も亡くなったらしいし」
パターソンは寂し気に再び拍手を始めたグティの肩をたたきそう慰めた。
「それだけじゃないよ。バリトンはランゲラックって男を退治しようと派手に暴れすぎて今は、謹慎中なんだよ。ひどいよな、自分の正義を信じた結果が誰にも認めてもらえないって」
前を向いていたためよくは見えなかったが、そう話したデンたんの目には涙が溜まっているようにグティは感じた。その後正義屋の表彰が終わると、一年生の歓迎会が始まった。本来ならば15人の入学なのだが、ターボ・グリルがいつも通り遅刻して入ってきたためグリルも新入生と同じように舞台に向かって行進していた。
「おい、グリル。お前は一年か!ったくもう」
通路側に座っていたディア・スミスはグリルの腕を思いっきり引っ張り空いている席に座らせた。
「サンキュー、スミス~」
「サンキューじゃないわよ!」
反省の色を一切見せないグリルにスミスは鬼の形相を浴びせた。
「スミス、落ち着いてよー」
間に挟まれたマーチ・ソフィアは気まずそうな表情を浮かべ、苦笑いをする。新入生歓迎会何てこと関係なしに騒ぎまくっていたせいか、後にグティの代は『問題児の巣窟』などと呼ばれるようになってしまった。


「静粛に!新入生を仲間に出迎えたところで一つ大きな発表がある」
見せ場を3年生に奪われた新入生はしれっと席につき、ホール内が話声でざわつき始めると、ラギはマイクを口元に持っていき場を一喝した。
「以前の首都襲撃事件を機に、この正義屋の組織を一変させる。この養成所の所長を新しくすることにした。出てきてくれ、ダグラス・ミラ新所長よ!」
ブツッと激しい音と共にマイクの電源が切れると、舞台袖から顔の小さい美しい女性が現れた。
「おぉおおおおお」
つまらなそうに座っていた男子生徒は皆一斉に立ち上がり、170cmを超えミニスカートの制服を着たポニーテールの女性に目が集まった。
「ダグラス・ミラです。よろしくお願いします!」
ミラが礼儀正しくお辞儀をすると、生徒たちの顔を見渡した後ニコッと笑顔を贈った。
「めっちゃ可愛い!」
「おい、あいつ何て名前だよ?」
「ミラだよ、ミラ所長だよ!」
ホール内はラギのスピーチの時とは大きく雰囲気が一転し、ミラの祝福ムードに包まれた。
「なぁグリル、俺めっちゃタイプだ。あいつ!」
「…分かるぜ、デンたん。早速口説きに行くか?」
グリルとデンたんが鼻の穴を膨らませ舞台へと走り出そうとすると、カザマが二人の服の裾を引っ張り
「馬鹿かお前ら!早速、退所になるぞ」
と言い放つと頭を軽く殴った。
「ちぇ、むっつりは黙っとけ~」
「何だとてめぇ!」
グリルの煽りにまんまとハマったカザマは怖い顔を作り、逃げるグリルを全力で追い回した。
ホールの中は収拾がつかないようになり、新入生たちのために用意されたご馳走もどさくさに紛れて何者かに食べられてしまっていた。そんな『出来損ない』という言葉が似合う養成所生に先生と新入生は呆れ、ラギでさえその状況を止めようとはしなかった。だがその時スピーカーから甘い声が漏れ出した。
「皆さん、静かに。今は騒ぐ時間じゃありませんよ」
声の主はミラだ。その声に数十秒ほど前まで騒ぎまくっていた男子生徒は、あっという間に席に着き背筋を伸ばしたいい姿勢をしていた。
「単純ね、アホみたい」
スミスはそんな光景をみてついそんな言葉をこぼした。静まり返ったホールに満足したのかミラは再び笑顔を見せマイクに話しかけようとした、その時だった。ホールの奥の重いドアが勢いよく開き半年前にグティの事を庇い、殺され、ガスマスク男に連れ去られたと思われていたデューン・アレグロがあの時のワイシャツに血をたっぷり付けてその場に立っていた。
 「グティレス・ヒカル以外の三年は俺のとこに来い、話がしたい」
 
       To be continued… 第29話・血の正体
生還していたデューン、この半年に何があったのか… 2023年1月29日午後8時ごろ公開予定!お楽しみに!!


この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?