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連載小説【正義屋グティ】   第5話・意地悪な

5.意地悪な

3013年 現代
グティが三年前の父との出来事を思い出していると、静まり返っていた廊下が急に話声でガヤガヤとしてきた。
「でねー、その話なんだけど~」
「ジェニー、その話何回目?もう聞き飽きたよ」
「聞いてあげようよ、スミス」
この会話の流れすらもう何回目だろう、グティはクイズ感覚でドアをの方に視線を移してみると、案の定答えは予想していた通りの女子四人衆だった。ノヴァ・ジェニー。一番騒がしく毎日同じ話を飽きずに続けようとしている張本人だ。容姿は女子の中ではかなりガタイが良くショートヘアが原因なのか男子と間違えられているのをよく見かける。性格はとても明るく近くにいるだけで元気になれると評判であり、そのせいで一部の男子からは密かに『太陽ちゃん』と呼ばれている。
スミス・ディア。ディアは身長がかなり高く自分では165cmと周りに言っているが、どう見ても170cmは優に越しているように感じる。体型はすらっとしていて、ジェニーとは真逆の長い髪の毛をいつも肩の前にかけている。性格はとても真面目そうでリーダーシップに長けている。なんで正義屋養成所にいるのやら...。
マーチ・ソフィア。ソフィアは先ほどまでの女子と大きく違う点として身長がとても低くクラスの中でもダントツで小さい。髪の毛は結ばずに後ろで伸ばしてある。クラスでは密かにマドンナと言われるほどの美女で、とても優しく、おっとりとした性格だ。グティとパターソンと同じ総合分校を卒業している。
ベイカー・ナタリー。この子が喋っているところを見たことがないので特に印象は無いが、スミスと一緒にいることが多い。眼鏡を付けていてロングヘアだ。
「どうしたの?みんな元気ないじゃん!」
先ほどの出来事をまるで知らないジェニーはいつものようにグティ達の脳を揺らすような声量で教室に入ってくる。虫の鳴き声が教室を包み込み人の声が全く聞こえない時間が続き、様子がおかしいと感じ取ったソフィアはとっさに謎のオーラを醸し出しているアレグロの方に目をやった。アレグロは衣替えがまじかに迫っている季節だからか、首元にたまった汗をタオルで拭きダルそうに一回大きな舌打ちをした。
「ジェニー、今はその...なんとなく静かにしとこ」
一瞬にして背筋が凍ったソフィアは本能的に忠告をした。
「何だよ、ソフィア。分かった!皆で私にドッキリしてるでしょ。下手だな~ホントに」
ダメだこりゃ。クラスにいる誰もがそう思ったであろう。いつもはお調子者のデンたんでさえこの時ばかりはあきれ顔で苦笑いしていた。

「みんな、いるかー?」
午前8時半を回り、教室にある15個ある椅子には一つを除き全員が着席をした。担任のネビィー・ウォーカー先生はメリハリの『メ』の字もないほどいつもだらしなく、ゆるい雰囲気の人だ。そんなウォーカー先生は眠そうな目を少し大きめに見開いて空いている席を鋭く指さした。
「おい、またあの遅刻魔か。誰か連絡もらってねぇか?」
グティら14人は一斉に首を横に振ると、廊下が再び慌ただしく振動した。経験をしたことない者は皆口をそろえて「地震だ!」と警戒するが、グティ達は一切そんなそぶりを見せずに、木のドアの方に視線を集める。すると例の『遅刻魔』が遂に姿を現した。
「ごめん!先生、遅れちゃったー。」
「遅い!あと敬語を使え馬鹿野郎!」
なんの悪びれもなくウォーカー先生の肩に手をポンポンとたたき、急いで朝の準備をし始めたのはターボ・グリルだ。こいつはどんな人とも仲良くできていい奴ではあるが、ジェニーと同じくらい空気を読む能力がない厄介者だ。背丈はグティとほぼ変わらなく目が大きくてまつ毛がぱっちりとしている。ウォーカー先生はとうに呆れ切っているのか一言罵倒を放つとすぐさまホームルームを再開させる。
「今日は、一日中射撃訓練場で、ひたすら射撃を行う。それと訓練の最後には射撃試験もあるから、真面目に取り組むように。では移動!」
ウォーカー先生がパチンとシンバルのように両手を合わせ音を立てるとそれを合図にグティ達、首都校の一年生15名は席を立上り各自昼の弁当と筆記用具をもち射撃訓練場に向かった。

「ねぇ、グティ。」
みんなより少し遅れて射撃訓練場に向かう途中、グティが下駄箱のざら板に座り込んで靴紐を結んでいると、イーダンが少し離れた木陰から話しかけてきた。
「ん?どうしたの?」
「いやぁ、なんかまだお互いのことを知れてないからさ話したいなと思って。」
イーダンは少し恥ずかしがっているのか細い目をぱちくりさせながら遠くの山を見つめていた。
「そうだね。よろしく。何か聞きたい事があるの?」
グティの想像以上の塩対応に一瞬ドキッとしたそぶりを見せたイーダンだったが、そのまま会話を続けようと、今度はしっかりグティの方を見て口を開いた。
「...えっと、何でグティって正義屋に入ったの?」
その質問を聞いたグティは3年前の出来事がフラッシュバックされたように頭の中で映像として再生された。母親は連れ去られ、父親は出かけると告げた以来帰ってこない、何もかもを失ったあの悪夢の様な一日を思い出し、頭を抱えた。
「ご、ごめん。聞いちゃだめだよね。気にしないで」
イーダンが足を引きずりその場から逃げようとしたとき
「えっとね…」
と、グティの小さな一言が耳に入りグティに背を向けたまま足を止めた。気温はさっきと同じのはずなのに不思議とイーダンの視界がゆらゆらと揺れ始めた。緊張しながら返事を待っていると、遂にそれらしい答えが出てきた。
「おじいちゃんに憧れたんだ。なんていうか自分の正義を全うするその姿がなんかカッコよくって」
グティは靴を結び終わりイーダンに向けて歯を出してにっこりとした。だがイーダンはグティの顔を見ていないので、怒らせてしまったと思ったのか
「ごめん。」
と言い残し走り出してしまった。
「待ってよ!何で謝るのさ!」
グティがそう発すると突然音が聞こえなくなり、イーダンがいた場所が白く光った。
ドーーーン
音と爆風が遅れてやってくる。あまりにも突然すぎることにグティは尻もちを付きイーダンが消え校舎と校舎の間の細い道一杯に炎が燃え上っている光景を自身の瞳に映し出した。そしてピチャ という音と同時に頬に冷たい感覚を覚えると、目の前に学ランの袖を通した血みどろの腕が空から降ってきのだ。

    【第六話・宝探し】  To be continued…

 2022年4月17日(日)午後8時投稿予定!!!


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