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連載小説【正義屋グティ】   第48話・緑の悪魔

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第47話・寝返り】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
【第43話・世紀大戦 ~侵略~】(世紀大戦・②)
【第44話・クローバーの戦い】(世紀大戦・③)
【第45話・邪魔者】(世紀大戦・④)
【第46話・裏の裏】(世紀大戦・⑤)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していき、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。士気を高めるために五神の一人のホークと共に進軍していったホーク大国軍の勢いは衰えることなく、トレッフ王国の中心にある緑の城までもが制圧された。その晩催された宴では総隊長フロリアーノとヨハンの間に一悶着あるも、トレッフ王国軍は勝ちを確信し盛り上がっている最中、避難民がいる南東を除く全方向から不在と思われた中央大陸連合軍が奇襲を仕掛けてきたのだ。フロリアーノ率いるホーク大国軍は真っ向から戦うも、サイモンが率いる驚異的な敵軍に圧倒され敗北。それをお取りにしてホークとヨハン、そして精鋭部隊が国から脱出しようと試みていた。しかし、寝返ったフロリアーノの協力によりそれを知っていたサイモンはフレディ総裁率いる正義屋を迎え撃たせ、遂にヨハンを追い詰めた……

48.緑の悪魔

グティが生きる時代の正義屋総裁の名はラギ・モンド。この男は的確な判断力で正義屋をまとめ上げ、部下を想う優しい心と周りを第一に考えて行動できる強い心を持ち合わせている。このように正義屋の総裁という立場に就く者は皆、能力は異なれども部下のお手本となるような振る舞いを心掛け、人柄も抜群である事が暗黙の条件であった。だが、今から六十五年ほど前、その条件に当てはまらない総裁がいた。破天荒な性格でとてもではないが部下のお手本になって生きるような人物ではない。それが今、ホーク大国のNO.2であるヨハンを追い詰めたこの男。フレディであった。フレディは見た目こそ老人のように白いひげと髪を無造作に生やししわだらけの顔をしているが、身体はボディービルダーに引きを取らないくらいの磨き上げられた筋肉を持ち、そのくっきりとした目で今まさにヨハンを見下していた。
「そんで、どうするつもりだ」
フレディは不気味な笑みを浮かべながらも目線を変えずにそう問うてみる。
「なんだよ、どうするって」
「降参しておいら達のとこに来るか、ここで死ぬか、だ」
どちらを選んでも逃げ道はない。そう悟ったヨハンはフレディの目を見つめながら生唾を飲み込み、舗装されていない小石だらけの土の上で尻を無意識に引きずりながら後ずさりを試みた。が、この男がみすみす敵幹部の首を逃すわけもなく、自分の拳に息を吹きかけると天に腕を掲げ不敵な笑みを浮かべながらヨハンを睨みつけた。
「や、やめろ!」
ヨハンは殴り殺されると咄嗟に判断し、細い両腕を顔の前で交らわせ目を瞑り地面へと倒れ込んだ。
ドンッ!
ヨハンの予想通りフレディは拳を振り下ろした。しかし、その拳はヨハンの顔の真横を通過し荒野と化した地面へとめり込んだ。突然の衝撃に身構えていなかった地面は思いのほか大きな音を立て、50㎝ほど深くフレディの拳の侵入を許した。
「ひぃ!!」
ヨハンは生きた心地がしなかった。自慢のオールバックの髪型は崩れ去り、涙と鼻水と血で顔がぐちゃぐちゃのヨハンは、子供のように泣き叫び体をじたばたさせた。
「騒がしい野郎だなあ。こいつがホークの側近かよ、おいらの方が幾分ましだな」
フレディの皮肉めいたその言葉がヨハンの胸に刺さったのか、ヨハンは動きを止めほっぺの内側をこれでもかという程噛み弱い自分を見せまいと努力した。そんな様子に、にっと歯を見せ笑ったフレディはヨハンが逃げないよう馬乗りになると、
「ほんなら質問を変えよか。降参するか否かはお前の判断で出来るもんなのか?」
と尋ねた。
「それは……」
なかなか返答しようとしない。フレディは無言でひたすら待っていると、空から小雨がぽつぽつと首筋に当たるのが分かった。強風によって流れてきた雨雲が南東の港の上空を通り過ぎたらしい。ヨハンがそのことに気づいたのは、覆いかぶさっているフレディの白い髪から滴る雨粒が自分の右頬に落ちてきた時だった。紺色の正義屋のジャンバーが雨に濡れ下着とくっつき、海から流れて来る生暖かい風が意地悪くフレディの体にぶつかってくる。こんな小さな一つ一つの事象が気の短いフレディの怒りのパラメーターを上げていたのだ。
「あぁ!もうええわ。お前らの大将は全然降参する気なんてないようだしな!」
フレディはそう言い放つと、2m50㎝の巨体に五つほど風穴を開け血まみれになりながらも、未だに部下を見捨て街へと逃げようとしている五神伝説の一人、ホークを指さした。ヨハンもその姿を遠巻きに確認すると遂に観念し、両手を広げ目を瞑った。
「俺の正義は間違っていたのか?」
小さく呟くヨハンの瞼からは光るものが溢れ出ていた。再び目線を戻したフレディは、太い右手の親指の腹でヨハンの目元を拭った。
「おいらからしたら半分半分だ。お前は背負いすぎなんだよ、この星の未来を。おいらがお前の年の時なんか指示されたことをこなすだけのちっぽけの人間だった」
「そんなの、奴隷みたいじゃないか」
「奴隷か。あいつに出会うまではそうだったかもな。……だからお前は立派だ、もう何も背負うな」
フレディはそう言い残すとヨハンの首元に軽くチョップを入れ気絶させた。
「……さあ。どう出る、ホーク」
フレディはゆっくりと立ち上がり、小雨の中をゆっくりと歩き始めた。
「フレディ総裁!」
すると、ポケットにしまっておいた正義屋の無線が呼んでいることに気づき急いで口元へと持っていく。
「ん。どしたぁ」
「ホークを確認しました。始末しますか?」
「奴は不死身だ。やから始末は無理だろうが、動きは止められるかもしれない。おいらが向かうまでにロボバリエンテで掛かってくれ。くれぐれも奴が人間ではない事を忘れんじゃねえぞ」
フレディが無線機のボタンを離すと、上空でその機を待っていた鉛筆型の細長い戦闘機。つまり現代の正義屋も使用するあのロボバリエンテが一斉にホークに向け飛んで行った。初代のロボバリエンテとは言えども、この時代の戦闘機の強度とスピードで右に出る物は無い。
「待っていろよ!ホーク」
フレディは大きな雄たけびを上げ、今にもホークに突撃しようとしているロボバリエンテを嬉しそうに眺めていた。その時だった。異変に気付いたホークが空に投げた無数の『何か』によって宙を舞っていたロボバリエンテが明後日の方向に飛んでいき地面へと落下してしまったのだ。落下する場所はそれぞれ違うが、どの機体の表面にも緑色の液体がべっとりと付着しており、その液体は緑色の光を帯びながら見る見るうちに頑丈な機体を蝕んで行った。
「ロボバリエンテが、溶けていく……」
フレディは唖然として思わずその場に立ち尽くした。活気に満ち溢れていたその顔から色が消え顔面蒼白という四字熟語がまさに似合っていた。
「うわああああ!誰か助けて」
「腕が、俺の体があああ!」
「フレディ総裁!早く来てくれー!」
上空のロボバリエンテから飛び降り脱出する者や、機体の中で何もできず閉じこもっている者、運よくパラシュートを使用し宙にぷかぷかと浮いている者。性別や歳は違うがフレディにとっては皆、カルム国から派遣された同志だ。その同志たちの体に付着した緑に光る液体は、無情にも足、腰、腕、頭を順番に飲み込んで行き、一分もしないうちにロボバリエンテを含めたその場の全てが緑の灰と化した。そんな悲惨な絵をただ見つめる事しかできなかったフレディは己の無力さに、思わず膝をついた。
「お前さん達……」
それ以上も以下もフレディの口から言葉は出てこなかった。

「いつ見ても壮大だな、この力は」
そんな地獄絵図を背にしてホークは緑色の『何か』が入ったカプセルを左手に抱え、その場から走り去ろうとしていた。そして、何かを思い出したかのようにポケットに仕込んでいたオレンジ色のボタンを取り出し、空いた左手の親指で強く押しこんだ。
「悪いな。この島ごと消えてくれ」
ホークはそう言うと、街の灯りの中へと消えて行ってしまった。

同刻 トレッフ王国 緑の城
戦いが終わり、長い命をつなぎ咲き誇っていた木々や草花はこの一夜にして火の海に飲み込まれ、もう豊かなトレッフ王国は跡形もなく消え去っていた。南東の地とは違い雨は降っていないが、どんよりとした雲が空を覆い隠していた。
「武器を置き、一列に並べ!」
降参したホーク大国軍の屈強な兵士たちは、中央大陸連合軍の指示に従い緑の城の周りに大人しく列を作っていた。軽い切り傷の兵士から爆発などにより火傷を負った兵士まで負傷具合はそれぞれであるが、皆が両手を上げ神妙な顔つきで敗北を受け入れているようだった。
「おうおうおう。やけに真面目な奴らだな!いいこった」
現場に到着したサイモンは満足げに高笑いをする。
「あぁ、でも妙に落ち着いているな。こんな簡単に諦めるような奴らではないと思うのだが……」
隣を歩くフロリアーノは元部下である兵士たちと目を合わせないようにそうぼやいた。丁度、その瞬間だった。敵も味方も関係なく皆が中央に置かれていた緑の城に注目したのだ。
「や、屋根が!!」
フロリアーノは思わず声を上げた。そう、何の前触れもなく緑の城の最上階の三角屋根が大きな音を立てて爆散したのだ。
「おい、フロリアーノ!作戦はあれで全てじゃないのか⁈」
「そのはずなんだが……」
作戦会議時にはなかった予想だにしない出来事に二人は成すすべなく、崩れていく屋根を眺めていた。
ド――――ン
耳を塞ぎたくなるような巨大な音と共に、綺麗なレンガが敷き詰められた道に緑の屋根が落ちると、降参したはずのホーク大国軍の兵士たちが一斉に立ち上がりポケットに隠し持っていた緑色のカプセルを空に掲げた。
「それは!!!」
サイモンとフロリアーノは同じタイミングでそう叫ぶと、城に背を向け無我夢中で逃げようとした。
「ぐああああああ」
が、運悪く兵士たちの投げたカプセルの一つがサイモンの右腕に被弾し、中身が弾けだした。

     To be continued……  第49話・~世紀大戦~ 三千年の恨み
世紀大戦。その全貌は悲惨なものだった……  2023年12月上旬投稿予定!! 次回は世紀大戦編最終話です。是非是非お読み下さい!お楽しみに!!


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