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連載小説【正義屋グティ】   第43話・世紀大戦 ~侵略~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第42話・世紀大戦 ~開戦~】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
約60年前に勃発した世紀大戦。この戦いは現代に生きるグティ達の世界情勢にも大きくかかわる出来事だった。世紀大戦の直前、世界は五神伝説によって築かれていた均衡が崩れ、中でもホーク大国は治安的にも経済的にも最悪と言えるほどだった。そんな中、五神伝説を信じ続けた少年ヨハンはある事件で幻とも言われた五神の一人であるホークと出会い、ホーク大国の政府の仲間入りをした。その五年後、国の幹部となったヨハンは悪化していくばかりの国際社会へ終止符を打とうと勢力を拡大している中央大陸連合軍に宣戦布告し世紀大戦が幕を開けた。「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」そう謳うヨハンの正義はいかに…。


43.世紀大戦 ~侵略~

2950年 パリ―国(中央大陸連合国の一つ)
豊かな田んぼの広がる国、パリー。青々しい木々が心地よい風でなびき、見る者の心を癒してきた。しかし、この日はどこか違った。滅多に降らない雨が田んぼの大地に降り注ぎ、瓦の屋根の上でボツボツと音を立て踊っていた。人々は皆、屋根の下に逃げ込み止む気配のない雨の大群をじっと見つめる。じめじめとした嫌な空気が顔に張りつき、ある少年は濡れたタンクトップで顔を何度もこすり、空に目をやった。
「なんだろ、あれ」
少年は雨に濡れながらも腕を伸ばし、それを指さす。
「どうしたん、空なんか指さして」
家の中から現れた少年の母親は少年の目線に釣られ、不思議に思いながらも空を見上げた。
「え、まさか…」
少年の母は言葉に詰まった。そして少年にそれについて言及するよりも先に、地面に座り込み涙を浮かべた。
「母ちゃん、どうしたん」
「…逃げなさい。できるだけ遠くに」
少年の母は、震えてろくに動かない自分の足を何度もはたきながら少年に逃げるよう促した。
「なんで、あれは何かと関係あるんか?」
少年は強まっていく雨音に負けないように、声を荒げる。が、少年の母は
「…ホーク大国よ」
と静かに呟き少年を黙らせた。そして、この状況を理解した少年は再び遥か上空を見てみることにした。間違いない。雨を降らせる厚い雲の中からは、オレンジ色の塗料に身を包んだ戦闘機が無数に姿を現し始めたのだ。
「行きなさい!」
少年の母は少年の背中を強く押し、そう叫んだ。
「…でも!」
下唇を噛み、目に涙を溜めた少年はなかなか動こうとしなかった。その時、地面に轟いた地響きと、爆風を感じ体が勝手に雨の中の田んぼへと走り出した。田んぼに放たれた炎は瞬く間に広がっていき、次第に国全土を覆っていった。
「母ちゃあああああん!」
少年の叫び声がこの世紀大戦の幕開けを知らせた。ホーク大国はこの数日間で持ち前の軍事力を使い近年に中央大陸連合軍に加盟した国々を次々と降伏させていき、領土を拡大していった。そのことを分かってはいた中央大陸連合軍であったが、あまりにも加盟国が多く軍事の手が届かないことが多々あった。それを知っていたヨハンはホーク大国に近い島国から制圧していったのだ。

ホーク大国 ヨハンの部屋
「ヨハンさん、昨日新たに中央大陸連合国を五つほど制圧しました」
新たに変わったヨハンの世話役は、悪い笑顔をヨハンに見せつける。
「そうか。明日は遂に中央五大国の一角、トレッフ王国だ。手ごわいぞ」
中央五大国とはカルム国を含めた中央大陸の国々の一つで、遠い昔から同盟関係にあり、比較的発展している国々を指す。ヨハンは椅子に深々と腰掛け腕を組むと、頭を下げている世話役の男をじっと見つめ問いかけた。
「なぁ、お前なら、一世一代の大勝負で兵士たちの士気を最大限上げつつ敵の戦意を喪失するならどういう策を立てる?」
男は、急な質問にも微動だにせず、口角を上げると語り始める。
「私でしたら、危険だと承知なうえでもホーク様を戦場にお連れして我らの士気を高めます。そして敵は中央五大国という事もあり大きな軍事力を行使するでしょう。しかし、所詮は小国の寄せ集め。我らの精錬された部隊の全勢力をかけ相手の戦意を喪失させます。いかがでしょうか」
男が語り終えると、ヨハンは小刻みに体を震わし、そして徐々に声たかだかに笑い始めた。
「正解だ。俺はお前のような優秀な人材を求めていたんだよ」
「ありがたきお言葉」
男は自慢げにそう答えると、ヨハンはもう一つ質問を投げかけてみることにした。
「では今日のこの世界の均衡は保たれているかね?」
「いえ」
「なら、どうすればいいのだ?」
今度ばかりは少し間があった。が、その間もヨハンは男の頭上から目を離すことは無かった。強い目線を感じながらも結論が出た男は大きく深呼吸をすると、再び口を開く。
「この戦争でホーク大国の軍事力を示し、それを抑止力として…」
「もういい」
ヨハンは話に割って入ると、腹だたしげに椅子を回転させ男に背を向けた。そしてすぐさま、
「もう君は来なくていい」
と言い放った。
「……それはどういう」
「クビだ」
動揺する様子の男を窓の反射越しにそう突き付けた。
「遂に現れたかと思ったが残念だ。出ていってくれ」
鋭い視線がヨハンの背中に突き刺さる。しかし、まったく気にしない様子のヨハンは何かを思い出したように男の方を振り返る。頭を上げていた男も反射的に床に目をやった。
「トレッフ王国への進軍は我が国の全軍事力を四分割して行う。三日後の夜明けに俺とホーク様を含めた第一陣が出発する。それで事足りると思うが、ダメだったときは連絡要請を入れる。ここからトレッフ王国まで飛ばして五時間ほどで到着する。だから第二陣以降はいつでも出陣できるようにと、ここまでの流れを皆に伝えといてくれ」
先ほどまでの険悪な表情こそ消えたが、男にはそれが逆に気味悪くなり黙り込んでしまった。
「仕方ないな。これを伝えてきたらクビは無しにしてやるよ」
ヨハンは席を立ち男にそう伝えると、男の表情は急に明るくなり、
「ありがとうございます」
と言い残し激しい足音を立て長い廊下を駆けて行った。静まり返る部屋の中ヨハンは愛用している金色のビリヤードキューを手に取り、ボールを弾き飛ばした。色のついたボールが次々にポケット(ビリヤードの穴)に吸い込まれているのをまじまじと見つめながらヨハンは奇妙な笑みを浮かべた。
「クビを取り消すだなんて、まんまと信じやがって」
赤の三のボールだけがコーナーポケットのすれすれで勢いを失い、その場に止まった。混沌と渦巻くアンノーン星の世界情勢。そんな世界にまた新たな戦いが勃発しようとしていた。

三日後 トレッフ王国 北西の港

朝日を浴び、無愛想な海に一つの光輝く道ができる。美しく波打つ海が港のコンクリートにぶつかり大きなしぶきを上げ、トレッフ王国の総司令官であるゴージーン・サイモンの足元を濡らした。
「やはり来たか」
サイモンはそう呟くと、横に立っているまだ小さい息子の頭を撫でた。光の道の先に見えるおびただしい数の航空母艦や軍艦、その後ろからはホーク大国製の羽が生えたオレンジ色の戦闘機が次々とこちらへと向かって来ている。サイモンは後ろで結んだロン毛の髪をほどき、大軍勢を見据えると手の先を空へと掲げると、
「行くぞみんな!俺らはこの国のために、この星の未来のために死んでも勝ち抜くぞ。安心しろ、俺がいる」
と大声で叫び、次の瞬間サイモンは手の先を敵に向け声を荒げた。
「発射!!」
港中に配備された戦車や大砲、緑色の軍艦や戦闘機がサイモンの合図で一斉に火を噴いた。
「おおおおおお!!!」
ドーンと大きな音を上げると落ち着いていた水面は噴水のように水柱が立ち、何発か敵船に命中し穴をあけた。この瞬間ついに、後にクローバーの戦いと呼ばれる出来事の幕が開いた。

    To be continued...   第44話・世紀大戦 ~クローバーの戦い~
正義と正義のぶつかり合い。勝敗はいかに…2023年9月10日くらいに投稿予定!一か月休載頂きました。ここからはギア上げて頑張ります!お楽しみに!


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