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連載小説【正義屋グティ】   第42話・世紀大戦 ~開戦~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第41話・そのふたり】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
ホーク大国による正義屋養成所の襲撃事件が幕を閉じ、カルム国とホーク大国の関係は約60年前の世紀大戦以来最悪となった。その後カルム国が発表した報復宣言に対し、五神伝説の一人であるホークは『あくまでもこの事件は半年前に起きたカルム国首都紛争において大きな損害を負った我が国からの報復措置だ』との声明を出し、戦争などは望んでいないとのことだった。何かと名前が出てくる大事件である『世紀大戦』とは、一体何なのか…?

第四章
42.世紀大戦 ~開戦~

2945年(現在の70年前)  ホーク大国・首都:ヌル州

辺りは白い霧に包まれ、夜でもないのに太陽の光は当たらずどんよりとした空気がこの地にのしかかる。町中に無造作にあふれる家々の玄関にはどこも鉄格子が張られ厳重に囲われており、それがない家の窓ガラスは割れ犯罪者たちの隠れ家となり治安は最悪だ。忘れてはならないのは、ここは一つの大陸を従える大国の中心街だという事だ。
「なぁ、今日の収穫はどうだよ」
「それがよ兄貴、最近ここら辺の住人がろくに外出しなくてよぉ、稼ぎがわりぃもんだぜ」
トレンチコートを羽織った二人組は盗品であろう指輪やネックレスを両手に持ち、荒廃した道路の上をゆっくりと歩いていた。静かな空間にうつろに響く彼らの足音は腐りゆくこの国の様子を風刺しているようだった。が、そんな中活気に満ちたもう一つの足音が二人の元に近づいてくるではないか。
「誰か、近くにいるぞ」
タバコをくわえた男の一人は腰元に巻いていた拳銃を構え、見えない敵を警戒する。生暖かい夕方の空気のせいで増していく緊張感は、汗へと変わり銃を持つ手が滑って仕方がなかった。
ダダダダダ
「来るぞ!」
交差点の曲がり角から強まっていくその足音がすぐそばまで迫っていることを察知したタバコ男は引き金に指を掛け、そして力を込めた。
バンッ
閑静な住宅街に珍しくない銃声が響いた。しかしその弾は明後日の方向に飛んでいき、目標に当たることはなかった。
「ガ、ガキ?!」
子分の眼鏡男は、目を丸くしこちらに向かってくるそれを凝視した。そう、武器を持った大の大人が恐れていたのは、買い物袋にありったけの食糧を詰めて走る一人の少年だったのだ。
「こいつはとんだ拍子抜けだぜ」
「どうします、兄貴」
脱力しきった眼鏡男がそう尋ねると、拳銃を持った手を下におろしていたタバコ男は何を思ったかその手を再び上げ少年に銃口を向け、
「そんなら、もうひと稼ぎするまでだろ!」
と叫び少年の動きを封じ込めた。
「くそっ!見つかったか…すみません、通ってもいいですか?」
細くてか弱い少年は小さくそう投げかける。銃を突き付けているのにも関わらず淡々と質問をされたことに苛立ちを感じたタバコ男は少年を睨みつけ口を開ける。
「てめぇ、この状況分かっているのかよ?持っているもんすべて置いて行かないと命はないと思え」
「命はないってどういうことですか?」
少年はとぼけたような顔でそう訊き返す。こいつは何を考えているのだ。お互いの頭の中にそんな疑問が浮かび上がり、首を傾げたタバコ男は高笑いを始めた。
「おめぇ、冗談はやめてくれよ。そんなに今ここで殺されたいのかよ?いくつのガキか知らねぇが命は大切にするもんだぜ」
「えーっと、でもそんなことをしたら『五神伝説』の言い伝えに背くことになりますよ。『いかなる生物も傷つけてはならない』それがこの言い伝えの一番重要な部分なんですよ。それと、年は15歳です」
「聞いてねぇよ、バカ!あのな、この国で『五神伝説』を信じているのはお前くらいだぞ!その神話が廃れたから今この国はこんな状況になってるんだろうが!」
タバコ男の突然の怒号に、隅で鳴いていたカラスまでもが声を止ませた。少年は確実に近づいてきている銃口に怯え、なんで声を荒げられたのかもわからないまま尻餅をつき身を震わせた。しかし、このタバコ男が言っていることは決して誤りではない。アンノーン星を造った人間を超越した不死の生物。五つの大陸に一人ずつ存在し、世界の均衡はその神々に逆らえないという恐怖と敬意、そして様々な言い伝えによって保たれていたのだ。だが、国に匿われ公に姿を現さない五神を空想上の存在と考える人が増え、その考え方は瞬く間に世界に広がっていった。その影響はホーク大国も大きく受けており、五神の一人のホークが国にいるというだけで不平等な条約を結ばせていた周辺の島国が次々と条約を破棄し、中央大陸連合国に加盟していったのだ。そのせいで、ホーク国内の政治は信用を得られず悪化、さらには不平等条約により安く手に入っていた資源や食料の輸入時の値段が高騰し経済的にも大打撃を負っていたのだ。しかしながら、貧乏で情報を得られないこの少年はそんな事など知る由もなく今の状況に至ったのだ。
「『五神伝説』を信じてないなんて…恐ろしい人だ」
「なんだと…!」
少年は別の意味で怯えていると、その反応が気に食わなかったのかタバコ男は今度こそ少年に銃口を向けたまま引き金を引いた。
バンッバンッバンッ
「どうだ!思い知ったかクソガキが!」
発砲の瞬間、眼鏡男はタバコ男の隣で威勢よくそう言い放ち笑い転げた。
「おい、嘘だろ…。おい、おめぇもよく見やがれ!」
タバコ男は目を丸くしながら眼鏡男の背中を叩くと、二人は思わず腰を抜かした。それも当然だ。二人の前には2.5mほどの大きさのオレンジ色の髪をした老人が、上半身に風穴を三つ開け血を流している状態でその場に立っていたのだ。
「痛いじゃないか、若造め」
オレンジ色の老人は傷口を優しくさすると、弾丸にも勝るほどの鋭い目つきで二人を見下ろした。
「体は人間の二回りも大きく、不死。そして、オレンジ色の髪…間違いねぇこいつはこの大陸の王で『五神伝説』の一人ホークだ!」
タバコ男は咥えていたタバコが自分の身体の上で燃えている事にも気が付かない程、気が動転していたのだろう。二人が金縛りにあったかのように固まっていると、ホークは背を向け、
「捕らえろ」
と一言。すると陰に隠れていた護衛隊が一斉に二人の身柄を確保した。
「あなたは、ホーク…様?」
少年は唖然とし、ホークの優しい笑顔を見つめた。
「そうだよ。少年、名前は?」
「…ヨハンです。15歳です」
「家族は?」
「小さい頃に捨てられてそれきりです」
ヨハンはポツリと言うと、ホークはいきなりその弱った体を抱きしめ、目に涙を浮かべた。
「ごめん。本当に申し訳ない。私の責任だ」
「え?」
思いもよらないそんな言葉にヨハンはハッとした。そしてすぐにホークは続けた。
「もしよければ私と共に来ないか?この時代に私たちの存在を否定しない、小さな君を放っておけないからね」
「来ないかって…どこに?」
「この国の政府にだ」
これが、この二人の出会いだ。15歳だったヨハンの成長は目まぐるしく、身体的にも精神的にも成長していった。そして彼が20歳になった頃、その功績からヨハンはホーク大国の幹部にまで上り詰めるのであった。

2950年
「ヨハン様、夕飯の用意が出来ました」
偉そうに腰かけているヨハンの椅子の前に世話役の男が首を垂れ報告した。すっかり肉付きもよくなり、髪型をオールバックに決めたヨハンは五年前とは別人のようだった。いつもならすぐに飯に食いつくヨハンもこの時は無言を貫いていた。
「いかがなさいましたか?」
「君は、今のこの世界の均衡は保たれていると感じるか?」
「はい?」
突然すぎる問いに考える猶予を与えられなかった男は、
「比較的保たれているのかと…」
と自信なさげに答えた。するとヨハンはすっと立ち上がり部屋の角へと向かうと、ポケットからダーツバレルを取り出し、ボードに向けて勢いよく投げつけた。
ダンッ
的の中心に吸い込まれていったダーツバレルが音を立てると、ヨハンは背を向けたまま
「じゃあ君はクビだ」
と突き付けた。
「…クビ?」
「そうだ、『五神伝説』によって保たれていた均衡は崩れ去ろうとしている。私もホーク様に救われた身だ、だから五神を批判し弾圧しようだなんて考えない。ただ、この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ。そうでもしなければこれからこの星の上で殺し合いが絶えないことになるだろう。それくらい私の部下なら理解して当然だと思ったのだが、残念だ」
横顔で語るヨハンを複雑な感情で男は睨みつける。が、ヨハンに逆らうすべはなくただ受け入れることしかできない自分の無力さに黙り込んだ。ヨハンはそんな男にゆっくりと近づくと肩を叩き耳元で叫んだ。
「最後の仕事だ、中央大陸連合国に伝えておけ。これから大陸を上げた巨大な戦いが起きる。この星の未来のために。この星始まって以来の世紀の大戦がな!!」

   To be continued…   第43話・世紀大戦 ~侵略~  
後にアンノーン星に語り継がれる大戦が幕を開ける。2023年8月中旬ごろ投稿予定!あまりにも多忙な夏であるため投稿頻度が下がってしまうかもしれません。ご理解お願い致します。お楽しみに!!




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