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連載小説【正義屋グティ】   第44話・クローバーの戦い

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第43話・世紀大戦 ~侵略~】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していった。そして、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。ヨハンは軍の士気を上げるためにホークを戦場へと連れて行き、遂にトレッフ王国へと攻撃を仕掛けた。しかし、先制攻撃をトレッフ王国軍に許してしまう.…。

44.クローバーの戦い

「フロリア―ヌ隊長!船体穴が」
「見たらわかる!いいから早く塞げ」
トレッフ王国の北西の海では、港から一斉攻撃を受けていたホーク大国の航空母艦に次々と被害が出始めていた。この戦いの総隊長であるフロリア―ノもその被害を受けていた内の一人だった。沖まではまだ距離があり、すぐに乗り込むことはできない。フロリアーノ率いる航空母艦が先陣を切り、その後ろにホークとヨハンを乗せた軍艦が続いていた。
「隊長!敵の集中砲火で間もなくこの船は落ちます!」
航空母艦の先端で港を見据えていたフロリアーノの背後から慌ただしい声が聞こえる。望遠鏡を覗き無防備に港に腰かけているトレッフ王国の総司令官・サイモンの姿を見つけたフロリアーノは眉間にしわを寄せ拳を固く結んだ。
「サイモンの野郎…」
サイモンは以前までホーク大国の司令官として数々の敵国を落としていた、まさに伝説の存在だった。しかし、その本当の姿はカルム国から派遣されたスパイであった。派遣されたと言ってもカルム国はそのことには関与していないようで、あくまでも己の目的のために行動していた二人組のスパイだったという事が判明している。フロリアーノは怒りのあまり、手に持った望遠鏡を半分にへし折り海の中へと放り投げってしまった。
「死にたくない奴は今すぐ戦闘機に乗り換えて敵の領土へと進軍を始めろ」
フロリアーノは頭の前で敬礼を行った兵士に指示すると、ポケットに入っていた無線機のボタンを強く押し込んだ。
「ホーク大国の勇敢な戦士たちよ、見ての通り今我々は敵軍から攻撃を受け実際に船を何隻か失いそうになっている。その為、予定より早いが我々も反撃を行うことにする。それと、敵にはあの憎き裏切り者、ゴージーン・サイモンがいる。奴が敵の核であることは間違いない。見つけ次第、殺し報告をするように」
無線機のランプが消えると、すぐさま航空母艦からオレンジ色の戦闘機が次々に飛び出し、青い空を飛行機雲と騒音で埋め尽くした。
「始まったか……では私達も作戦を開始するぞ」
サイモンは拡声器を使いそう言い残すと、迷彩柄の車に乗り込み森の中を進んで行った。

オレンジの戦闘機が港に弾丸を打ち込み始めたのは、それから数分後の事。いとも簡単に本土に侵入できたホーク大国側だったが、それもそのはず。港にはピクリとも動かない戦車や戦闘機が列を連ねてその場に乗り捨てられていたのだ。
「誰もいねぇのか?」
不気味の感じた戦士は戦闘機の高度を下げ、乗り捨てられている戦車に恐る恐る近づいてみる。先ほどまで自分たちが撃っていた弾丸がそこら中に埋め込まれ、何とも殺伐とした雰囲気が漂っていた。男は一番大きい緑の戦車によじ登りハッチに手をかけた。ギーと嫌な音を立てハッチが開き、男は銃を構えながら中を覗いた。『にげろー byサイモン』そう雑に書かれた紙の下には、カウントダウン付きの銀色の巨大な箱が戦車いっぱいに敷き詰められていた。
「十、九、八……まさか」
ようやくその正体に気づいた男は、手に持っていた銃を放り投げ全体の無線機のボタンを押し込んだ。
「港の戦車の中に爆弾あり!あと十秒ほどで爆発します!」
男はそのまま堤防から海に飛び込み、真上の戦闘機も猛スピードで沖の方へと舵を切った。
ドーーーン
すると男の予想通りの音が水中の中まで聞こえてきた。しかし、それは一発ではなく、何回も何回も非規則的に鳴り響いた。
もう、息が持たない。
限界まで潜っていた男だったが遂に海面から顔を出した。
「あ、あれ?」
男の視界に真っ先に入って来たのはきれいに並んだ無傷の戦車たちだった。混乱した男は辺りを見回すと、沖へと向かっていくオレンジ色の戦闘機同士がぶつかり、次々と火花を散らしていた。あまりにも猛スピードを出したからか、制御が付かなかったのだろう。青空に浮かぶ、無数の花火と化した戦闘機は皮肉にも美しい演出に見えてしまった。
「……ジ、ジジ」
男の耳元には海に浸かった無線機が何か話している。
「……こちらフロリアーノ!さっきの情報はデマだ!戻ってきている戦闘機も、航空母艦に残っている戦闘機も急いで出陣しろ!」
フロリアーノは目と鼻の先まで迫った港を睨みつけ、その感情をあらわにした。そしてすぐさま先ほどの数倍の量の戦闘機が港へと猛スピードで進んでくる中、森の中で潜むサイモンの部下は目を光らせていた。
ド―――――――ン
すると突然、港に並ぶ戦車に積まれた爆弾が一斉に爆発した。
「うあああああ」
海から顔を出した男も、体験したこともない凄まじい爆風と熱気に吹き飛ばされた。大人しかった海も押し出されるようにうねりだし、近くまで来ていた航空母艦までもが一たまりもなく崩壊していった。フロリアーノの指示で港付近にいた戦闘機も諸共、火の玉となって消えて行った。
「サイモンの野郎!」
少し距離があったためサイモンの戦闘機は左の翼が消えて程度で済み、すぐさまパラシュートで脱出を試みた。火の海となった港からの上陸は不可能だと判断したサイモンは仕方なく別の港から上陸することを指示した。トレッフ王国は綺麗な四葉のクローバーをした島国で、四つの陸地が合体した中心に王の住む城とその城下町がある。今回の進軍の目標地点はそこの制圧であった。

「こちらの港の守りは崩しました」
「うん。ご苦労」
およそ三十分後、フロリアーノたちを乗せる航空母艦が次々と港に到着した。森が険しいこの道から進軍するとは考えていなかったのか、警備はほとんどゼロに等しかった。軍艦を一隻ずつ港につけていくと、遂に戦車の本土侵入を許してしまった。心配材料であった森を次々に撃ち崩し、合計五千両がトレッフ王国になだれ込んだ。

「抜けたか」
先頭の戦車に乗り込んだフロリアーノは長きにわたった森を抜け大草原に少し安堵した。しかしその気持ちはすぐさま緊張へと変化した。一見、何もない草原だったが辺りを見回すとまばらに緑色の戦車が銃口でこちらを覗いていた。やはりか。一筋縄ではいかないと踏んでいたフロリアーノの予感は的中した。一瞬、考え込んだフロリアーノだったが、すぐに無線機を手に取ると、
「敵がいるが、臆することはない。落ち着いて一両一両破壊していけ」
と指示をしハンドルを力強く握った。結果は、ホーク大国の圧勝だった。圧倒的な数と質になすすべなく進軍を許してしまった。そして、その進軍はとどまることを知らず、とうとうトレッフ王国の王の住む城にまで行ってしまった。
「これで終いか」
初めは押されていたカルム国だったが、何ともあっけない勝利に拍子抜けした。残りは城の護衛だけだろう。フロリアーノは銃を手に取り、ハッチから顔を出した。
ゴゴゴゴゴ
美しい緑色の城とその町の背後には、草花を踏みつけタイヤの跡で荒廃した大草原に、その原因である無数の戦車があちらこちらから、城へと向かって来ていた。
「まぁ、これに勝つ方が無理な話か」
フロリアーノは鼻であざ笑うと、部下を連れ城下町へと足を踏み入れた。が、そこには現地の人間が一人もおらず、まさにもぬけの殻となっていた。
「気味が悪いっすね」
「あぁ」
あまりにも奇妙な様子に、フロリアーノの頭には港で座っていたサイモンの顔が浮かんだ。
「気を付けろ、これもサイモンの策略に違いない。ホーク様はまだここには来させるな」
「えぇと、そのことなのですが」
丸刈りの部下はそっぽを向きはぐらかそうとする。
「なんだ、早く言えよ」
「……もう既に、ヨハン様と城の中へと」
「なんだと!」
バンッ。フロリアーノは聞き捨てならないその状況に思わず引き金を引いてしまった。弾丸は果物屋に置いてある新鮮なリンゴを貫き、地面に落ちた。
「ヨハンのガキめ!勝手な真似を」
「どうしますか?隊長」
「急いで護衛するぞ!」
フロリアーノは急いで城の玄関に向かおうと走り出すと、乾いた銃声と共に城の最上階の大きな窓が割れ、破片が地上へと降り注いだ。そこにいた誰もが口を開き目を丸くして、日光に反射した美しいガラスの破片が落ちていくのをただただ見つめることしかできなかった。
     To be continued….      第45話・邪魔者
ホーク達の身に何が?!そして策士サイモンのもくろみとは 2023年9月24日(日)公開予定!世紀大戦もあと二話くらい!驚きの展開をお楽しみに!!

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