見出し画像

連載小説【正義屋グティ】   第46話・裏の裏

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第45話・邪魔者】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
                     【第43話・世紀大戦 ~侵略~】(世紀大戦・②)
                     【第44話・クローバーの戦い】(世紀大戦・③)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していった。そして、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。ヨハンは軍の士気を上げるためにホークを戦場へと連れて行き、遂にトレッフ王国へと攻撃を仕掛けた。その結果、ホーク大国軍はあっけなくトレッフ王国の城を占拠しその夜、城下町で宴が行われた。宴の最中に起きた事件により、フロリアーノとヨハンの関係は悪化するも、盛り上がりの熱が一向に下がることのないホーク大国軍に、中央大陸連合軍の大群が徐々に近づいてきていた……。

46.裏の裏

「ふっ、奴らしい作戦だな」
フロリアーノの右手にはヨハンの指示の声が途切れた無線機。左手には湯気を上げる飲みかけのホットコーヒーと、それを受け止める愛用のマグカップ。戦車の外に鳴り響く敵機のキャタピラー音が確実にフロリアーノの心を高ぶらせていく中、口を付けた跡が残っているマグカップに目を注いだ。黒に近い茶色の液体がゆっくりとマグカップの外側を伝いフロリアーノの手に到達する。
「ボズ……悪かったな」
ついそんな言葉が飛び出た。ボズが自分の代わりに射抜かれる瞬間まで、ずっとポンコツで、どうしようもない部下としか見ていなかった。フロリアーノはそんな自分を悔やみ、改めてサイモンとの差を思い知らされたような気がして、力任せにマグカップを投げつけた。パリン。短く悲しいその音にフロリアーノは自我を取り戻し、無意識に流れていた涙を腕で拭う。
「行くか」
そう一言こぼすと、フロリアーノは空いた左手で無線機のボタンを押し込み大きく深呼吸をする。戦車内に漂うコーヒーの苦い香りがフロリアーノの鼻を刺し、すぐに抜けていく。
「準備はいいか、お前ら」
返事はない。当然だ。今その無線機のボタンを支配しているのはフロリアーノ本人だからだ。が、フロリアーノはそのことに気づいていないのか、今度は先ほどにも増して大きな声で問うてみる。
「準備はいいかって聞いてるんだ!お前ら!!」
すると微かにだが緑の城を囲むホーク大国軍の戦車の中から、いかつい男たちの声が溢れ出てきた。それだけではない、一部の者たちは迫ってくる敵の戦車に目掛けて砲撃を行った。砲弾はド―――ンという音を立て先頭に待機するフロリアーノの戦車の前で爆発した。その様子をペリスコープから眺めているフロリアーノは満足そうな笑みを零すと、声たかだかに笑いだし、
「行くぞー!進めーーー!!」
と雄たけびを上げた。フロリアーノの乗った戦車は先陣を切り、先ほどの爆発により次々に燃え広がっていく大草原の中を突っ切り進みだした。するとそれに続く様に、オレンジ色に染まったホーク大国軍の戦車が一機、また一機とその背中を追いかけていく。ホーク大国軍は中央のオレンジの軍用車を守るようにその周りを戦車で囲み、この国から脱出するためか北西の港を目指していった。

「やっと動いたか。フロリアーノの野郎」
全身緑の巨大な戦車の上に胡坐をかいて座るサイモンの目と鼻の先には、ホーク大国軍の大群が押し寄せて来ていた。サイモンは鮮やかな紫色に染まるワインを飲み干すと、空になった瓶を空へと放り投げ捨てる。
「あっはっはっは。やっぱ戦場で飲み干す酒はうめぇなあ」
「サイモンさん!何やってんですか、早くご指示を!」
サイモンの直属の部下であるメグの声が戦場を駆け巡る。
「うるせぇな、メグ。もう少し待たんか」
が、サイモンは酒で顔を赤くしているだけで何もしようとはしなかった。そんなサイモンに対しても我慢して曇った眼鏡の奥からじっと見つめ続けていると遂に、
「指示をだしゃええんやろ!うるせえ奴だな」
と不機嫌そうに胸ポケットから緑色の無線機を取り出し口へと持っていく。真面目な部下だと評判高いメグはサイモンが言葉を発するその時まで目を離すことはなかった。

作戦が発表されると、中央大陸連合軍に激震が走った。そして、戦車の中へと戻っていたメグがいち早くこの案に文句をつけるべくハッチを開ける。
「……ちょ、何故そのような回りくどい作戦を!その間に奴は逃げてしまいますよ」
「まぁ見ておれ」
しかし、サイモンはこれを一掃すると中央大陸連合軍は扇形に広がる陣形でフロリアーノたちに迫っていった。

「発射!」
ホーク大国軍は固まった陣形を保ったまま、次々に砲撃を行っていた。それは総司令官であるフロリアーノも同様であり、目の前の戦車に狙いを定めると、勢いよく射撃レバーを手前に引いた。それと時を同じくしてフロリアーノの乗る戦車の銃口から勢いよく砲弾が飛び出し、先のとがった巨大なそれは狙い通り敵の戦車に命中した。
ド―――――ン 緑の戦車は巨大な音を上げすぐに赤い炎がその場に広がると、その後を追うように黒煙も空高く昇っていく。
「七機目」
そう呟いたフロリアーノは動かなくなった戦車を華麗に避け、前へ前へと突き進んだ。戦況はホーク大国軍の優勢が続いており、横に長い中央大陸連合軍の部隊を一点で崩していく。この作戦が功を奏したのだろうか。未だに先頭を走っていたフロリアーノは再び別の敵機に標準を合わせ、射撃レバーを固く握った。今だ。フロリアーノは標準が完全にあったその一瞬を見逃さなかった。次の瞬間、フロリアーノが放った砲弾は大爆発を起こした。それも、敵機ではなく空中でだ。
「何⁈不発か!」
フロリアーノはあらゆる事象を予想し、周りを見渡すとその原因が即座に分かった。フロリアーノの戦車より東側にある緑色の戦車の銃口がこちらを向いていたのだ。それだけではない、燃え滾る大草原の上を走り回る一つの人影までもがフロリアーノの目にはっきりと映った。
「久しいな、フロリアーノ」
その数十秒後、フロリアーノは負けを確信し両手を上げた。
「やっぱりすげえな、てめぇはよ」
空に写る美しい満月の月灯りがフロリアーノの戦車に漏れ入ってくる。ハッチが開いたのだ。それも、先ほど火の中を駆け回ったせいで服が黒く焦げ付いているサイモンによって。
「どうやって入って来た」
「どうやってって、飛び乗ったんだわ。まさか忘れたのではあるまいな、俺の運動神経」
サイモンは拳銃をフロリアーノの背に突きつけ、もう片方の手で中央大陸連合軍用の無線機を手に取る。
「今だ、囲み込み匿われている中央の軍用車を捕らえろ。恐らくそこにホークとヨハンがいる」
「疑り深いんだな」
「そりゃそうだろ」
サイモンが呆れた顔でフロリアーノの背を見つめていると、後方で次々とホーク大国軍の戦車が破壊されていく音が鳴り響いていた。先頭を突き進む道しるべが動きを止めた今、ホーク大国軍の統制は崩れていき、横に広がっていた中央大陸連合軍に囲まれた事により、なすすべなくやられていったのだ。それだけではない、この状況を打破するために必要なコミュニケーションも、何者かが無線機のボタンを押し続けているため出来なかったのだ。万策尽きた。先ほどまで優勢だったあの勢いは一瞬にして落ちぶれ、戦場にあったオレンジ色の戦車はほとんど瓦礫と化した。

「サイモン総司令官!報告よろしいでしょうか」
ホーク大国軍の敗北が目に見えてきた頃、一本の報告が中央大陸連合軍の無線機に流れた。
「よい。続けろ」
サイモンは未だにフロリアーノの背に拳銃を突き付けており、膠着した状況が続いていた。無線機の奥の男は雑音交じりの声で話し始めた。
「先ほど、サイモンさんが目星をつけたオレンジの軍用車ですが、中には一人の運転手だけでホークやヨハンと言った人物は一人も見当たりませんでした」
「くまなく探したのか?」
「はい!十人がかりで探していますが、一向に見つかりません」
「……そうか」
サイモンはそう言い残すと無線機を床に落とし、大声で笑いだした。
「おい、何がおかしい」
フロリアーノは不満げに問いただす。
「お取り作戦なんて古臭い物を本当に行うとはな。……あとは任せるとするか」
「任せる?誰にだ」
サイモンの余裕な風格にフロリアーノは思わず振り向き、拳銃を向けられていることを思い出した。大草原の泣き声のように聞こえる炎の音にサイモンは耳を傾けながら、拳銃を床に投げ捨てると、満月の月夜を見つめ
「俺の相棒にな」
と、言った。

同刻 トレッフ王国南東
凄まじい戦いが行われいる反対方向のこの地には『戦争』の『せ』の字も見当たらない程、平和な街並みが広がっており、人のにぎわう声で溢れかえっている。南東の地以外に住んでいた、いわば避難民が多くこの狭い範囲に集まっているというのに、彼らの表情からは恐怖や不安と言った感情が見て取れなかった。むしろその表情は、危険な存在であったホーク大国が排除される事への喜びや希望を持っているようにすら思えた。
「このアホどもは、何呑気に出歩いてんだよ。まったく」
そんな景色が、目立たない黒の乗用車に乗るヨハンには気に食わない物だった。ヨハンはホークと運転手を乗せた車の他に、精鋭部隊達を敷き詰めた車約十台を連れこの危機から脱しようとしていた。そう、ヨハンはトレッフ王国に攻めてきた同志たちのほとんどをお取りに使い、自分と、ホーク、そして最小限の部隊のみで敵が少ないであろう南東の港へと向かっていた。
「あと、どれくらいだ?」
「恐らく20分ほどです」
「そうか。やはり避難民のいるこちら側を焼け野原にするのは敵も避けたいようだな。だが敵もバカではない、多少の部隊は港で待ち構えているだろうがあれだけの兵を陸での戦いに費やしたのだ。たかが知れている」
ヨハンは騒がしい窓の外から目を背け、無線機をポケットから取り出す。
「唯一気がかりなのは、この無線機のボタンが何者かによって押され続けていることによって、味方との通信ができないという事だ」
一向にランプが消えない無線機をじっと睨みつけると、ヨハンはトランクへとそれを投げ捨てた。
「畜生」
ヨハンが腹立たしげに再び窓の外を覗くと、先ほどまでの灯りや人が減っていき段々と港へと向かっていることを実感した。ドアに付いたレバーを回し窓を開けると、一日ぶりの、でもどこか懐かしい潮の香りが身を包んだ。
「ヨハン様、窓を開けるのは少し危険な気が……」
気を利かせた運転手はルームミラーでヨハンの顔を伺いながら、そう呟く。が、ヨハンはミラー越しに厳しい目線を贈り運転手を黙らせた。するとそこに今まで長く口を開かなかったホークが口を開いた。
「ヨハン、今回ばかりは彼の言うとおりだ。窓を閉めなさい。胸騒ぎがする」
「……はい」
ヨハンも突然の介入に、おどおどした仕草でレバーを回す。そうしている間に、辺りには暗がりが広がり港のすぐそばまで到着した。一時的に沈んだ気持ちをパイプを吹くことによって紛らわしていたヨハンにも笑みがこぼれた。何人死のうが、自分だけは生き残る。自分にはまだ全うしなければいけない正義があるのだから。ヨハンは心の中で自らに何度も言い聞かせ罪悪感を打ち消そうとしていた。そしてその感情がヨハンの身体から消えそうになった、その時だった。海の向こうの空に浮かぶ複数のライトと共に細長い鉛筆のような見た事のない機体がヨハン達を見つめていたのだ。
「なんだよあれ。俺らを待ち構える門番は、あのふざけた形の……ふざけた形の……」
ヨハンの口が突然向かい風に吹かれたみたいに動かなくなった。ヨハンは思い出したのだ。中央五大国の一国であるカルム国が新型の戦闘機を開発しその性能が恐るべきことを。運転手は本能的にUターンし、今来た道を急いで戻っていった。
「とりあえず我々は身を引き、ここは精鋭部隊に任せましょう。……しかし、何者なのでしょうか彼らは」
ヨハンは落ちてしましそうになるほど目を見開き、バックミラーに写る『それ』から目を離さずこう言葉を残した
「正義屋だ……!」
と。

   To be continued...     第47話・寝返り
約六十年前の正義屋登場。そして歴史が動く……2023年11月5日投稿予定!
世紀大戦も遂にクライマックス!話がややこしくなってきたので、世紀大戦編をもう一度お読みになるのもいいですね!お楽しみに!!

この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?