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連載小説【正義屋グティ】   第45話・邪魔者

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第44話・クローバーの戦い】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀大戦・①)
                     【第43話・世紀大戦 ~侵略~】(世紀大戦・②)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
時はさかのぼり約六十年前の2950年。グティ達の時代の世界情勢にも大きくかかわる事態が起こった。カルム国の宿敵、ホーク大国では五神伝説の一人であるホークによって命を救われたヨハンという少年がいた。少年は数年後政府の幹部にまで上り詰め、「この平和ボケした星には絶対的な主が必要だ」という正義を元に中央大陸連合軍へ宣戦布告し、世紀大戦がはじまった。ホーク大国は持ち前の軍事力によって次々と小国を撃破していった。そして、遂には中央五大国の一つであるトレッフ王国に目を付けた。ヨハンは軍の士気を上げるためにホークを戦場へと連れて行き、遂にトレッフ王国へと攻撃を仕掛けた。先制攻撃をサイモン率いるトレッフ王国軍に許したが、順調に進軍していき遂には王の住む城にまで迫っていた。しかし、軍よりも先に城に到着したヨハンとホークは報告なしに最上階へと上っていき、そこから一発の銃声と共にガラスの破片が地面へと降って来ていた……。

45.邪魔者

パリン
遥か上空から降って来たガラスの破片は、規律正しく敷かれた石畳の上で細い音を立て砕けた。
「……冗談だろ」
国のトップ達の身に何があったのか。フロリアーノの顔はたちまち青ざめ、足を止めた。急いで状況を確認しなくてはと頭では考えていながらも、目の前に立ちそびえる緑の城を前に気迫負けしてしまう。
「隊長。ヨハン様たち、無事ですかね」
部下の坊主男がフロリアーノの顔を見上げる。伸ばしに伸ばしていた生まれつきの赤髪を掻きむしると、ギロッとした目つきで質問主を睨みつけ、
「知ってたら、こんな焦ってねぇよ!バカ坊主!」
と怒鳴りつけた。すると坊主男は腰を抜かし、新鮮な芝生に尻もちをつく。風一つない乾いた空気が辺り一面に漂う中、フロリアーノの胸ポケットに入ってった無線機から何者かの笑い声が聞こえてきた。
「ふはははははは。やっぱりフロリアーノを見てるのは飽きないな」
「誰だ!」
笑い声が似合わない若々しい声に、フロリアーノはさらに怒りを覚え無線機を握りつぶしそうになる。
「おいおい、上司に向かってその言葉遣いはないだろう」
「……そのお声はヨハン様」
「そうだ、さっきは俺のことをガキだとか散々言ってくれたな」
「え!」
フロリアーノは息を飲み、真っ先に芝生に腰かけている坊主男を睨み、小声で尋ねてみた。
「お前、無線機さっきまでどうしてた?」
「そりゃ勿論!落とさないようにしっかり持っていましたよ」
坊主男の無線機には至る所に傷がつき、マーカーペンで『ボズ』と自身の名前が大きく書かれている。
「お前、その赤いボタンを押してねぇだろうな」
フロリアーノは顔をしかめると、ボズは顔を赤らめ
「恥ずかしい話、隊長とお話しする際に緊張してしまい、もしかしたら強く握りすぎてボタン押していたかもです」
と悪びれなくフロリアーノの目を見つめた。フロリアーノは言葉を交わすことさえ面倒に思えたのか、げんこつをボズに食らわすとすぐさま無線機に視線を移した。
「いや、それは。何と言いますかね。ホークリアンジョークと言いますか」
「もういい、俺は優しいからな。一年間無賃労働で許してやる」
どこが優しいんだよ。喉までつかえたその言葉を何とか抑えてフロリアーノは会話を続ける。
「ご容赦ありがとうございます。それで、先ほどの窓ガラスの件なのですが……」
「あぁ、だからそれはお前の言葉にムカついたからやっただけ。こっちは兵隊が十人ほどいたが、全てホーク様がなぎ倒して下さった。それ以外は護衛はいない。みんなよく聞け!中央五大国の筆頭をいとも簡単に打ち負かした我らホーク大国は、今度は中央五大国の要であるカルム国を制圧する。そうすれば奴らは降伏するだろうよ。今日はその前祝いだ。皆城に入って宴にするぞ!!」
ヨハンはそう言い放ち窓の外に鉛玉を撃ちこんだ。五つの銃声がはっきりとホーク大国軍の耳に届くと、各地で一斉に雄叫びが上がり城に向かって皆が走り出した。
これが今後世に語り継がれるトレッフ王国での戦いの全貌だ。その場にいた兵士一人一人がそう確信し、盗んできた新鮮な果実や酒を口の中に流し込んだ。そんなお祭り騒ぎは辺りが暗くなり王宮回りが美しいオレンジ色の照明で埋め尽くされるまで続いた。

「フロリアーノ、お前も飲まんかい!」
「いや、私は」
頬を赤くし完全に酔っぱらっているヨハンは王座に座るホークの足元の緑のカーペットに座り込んでいた。ろれつが回らず、絵にかくような『酔っぱらい』はポケットに入れていた新聞紙の束をフロリアーノに投げつけると、
「お前はまだ心配してるのだろう。これを見ろ」
と、言う。新聞の内容は
【トレッフ王国新聞 中央大陸にて、中央大陸連合軍の合同の訓練を行うため今日から二週間ほど軍と王が国を不在となる。その間はトレッフ王国総司令官のゴージーン・サイモン率いる厳選された兵だけが残り、町の治安維持などの活動を行う模様。なお、人手不足により、その期間は軍が運営によって可能だった海外との通信が切れるとのこと。】
というものだった。疑り深い表情で新聞を見つめるフロリアーノにヨハンが口を開く。
「俺も最初は疑ったが、この新聞を見つけていとも簡単にこの国を制圧したことや、ホーク大国に連絡が通じない理由が分かった。サイモンとかいう奴らはここの城下町に住んでいた町民を避難させていたんだろうな。さっき南東の方に偵察に行った奴が、避難民で溢れていると報告してきたよ。それに、国外に連絡が通じず困るのは相手も同様だろう」
「ですが、相手はあのサイモンです。何か裏があるはず」
フロリアーノは必死に訴えかけたが、ヨハンは手に持った酒の入った盃をフロリアーノに投げつけた。
「くっ」
戦闘用のオレンジ色の服がアルコール度数の高い酒に浸された。フロリアーノは目を大きく開けヨハンを睨んだが、ヨハンは立ち上がり酒の瓶をホークの盃に注ぐと、
「酒がまずくなる。どっか行け」
と一言。その憎悪に満ちた後ろ姿を見ているとフロリアーノはたまらず立ち上がり無言でその場で立ち尽くした。
「お前の警戒するそのサイモンという男が同僚だったのか知らないけどよ、それにお前の髪型さ、あいつと一緒じゃん。なに敵に憧れ抱いてんだよ。老害」
静かにそう口にしたヨハンの口角は上がり、肩を震わし笑いをこらえているように見えた。
「クソガキが」
フロリアーノは小さく呟くとゆっくりとヨハンの小さな背中へと近づいていく。そして遂にその真後ろまで来ると、フロリアーノは大きく拳を上げ振りかかろうとした。その時、
「消せ」
という合図で部下の一人がフロリアーノに目掛けて引き金を引いたのだ。バンッ。その銃声と共に一人の男は血を流しカーペットに倒れ込んだ。
「ボズ!」
フロリアーノは咄嗟に自分を庇い、銃弾を受けたボズの元に駆け寄った。
「おい、ボズ、大丈夫か!何やってんだよ、俺なんか庇いやがって」
返事のないボズの胸からは留めなく血が流れていく。手が赤く染まったフロリアーノは、その体を優しくカーペットに置くとヨハンを先ほどに増して睨みつけた。
「やめとけよ。今ここにいるすべての人間は俺の味方だぞ。お前はこの戦場にいないと困るからな、今ここから立ち去ったら殺さずに見逃してやる」
ヨハンは振り返り、不敵な笑みを浮かべるとフロリアーノの目をじっと見つめる。
「……無視か」
ヨハンは手を大きく天に掲げると、周りの兵士たちは一斉に拳銃を手に取り密かにフロリアーノを狙った。するとフロリアーノは何を思ったか、ヨハンに深く頭を下げゆっくりとその場を去っていった。
「ぷぷ、ははははははは。いくら優秀な司令官でも、命は惜しいか」
ヨハンはそう高笑いをするとその場にいた皆が声を上げて笑い転げた。フロリアーノは段々と大ききくなっていくその嘲笑から逃れるように階段を下って行った。
「しかし、港への偵察班の報告はまだか。おい、誰でもいいからちょっと周辺を見に行ってくれ」
ふと思い出した事にヨハンは少し苛立ちを覚えたが、そんなことなど酒と一緒に流し去ってしまった。

そして時は3時間ほどが経ち、夜が更けた。祭りは疲れを知らず未だに盛り上がっている中、先ほどヨハンが向かわせた偵察班から一本の報告が無線によってなされた。
「こちら偵察班。報告します!今現在南東以外の全ての方角から大軍が押し寄せてきます!恐らく……中央大陸連合軍です!!」
「何だと?!」
耳を疑うような報告に、ヨハンは手に持った酒の瓶を滑らせ窓の外に目をやった。
「嘘だろ……」
そこには、闇に包まれた大草原の上を中央大陸のそれぞれの国の戦車が大きな音を立てて、こちらへと向かって来ていたのだ。戦車のキャタピラーによって踏みつけられていく草花と、慌ただしさに満ちた城内。それを今宵の満月が穏やかに見つめていた。
「おい、望遠鏡を持ってこい!」
ヨハンは声を荒げ望遠鏡を手に入れると、一機異様に明るい戦車を見つめた。緑の塗料に覆われたひと際大きい戦車の上には、あのサイモンが長い髪をたなびかせながらヨハンをじっと見つめていた。
「ひぃ!新聞は奴らのデマか。お前らも何ぼおっとしておる、今すぐ出陣だ!フロリアーノに指揮をさせろ!」
無線機越しにそれを聞いていたフロリアーノは既に戦車に乗り込んでいた。フロリアーノが指揮を促そうと無線機を手に取ると、再び赤のランプが点灯した。
「いやまて!俺に良い作戦がある」
その声の主であったヨハンは続けてそう言い放つと、低い声でその内容を軍全体に伝えた。時は来た。どちらが勝っても、この先のアンノーン星の行方に大きく関わることは間違いない。ヨハンとサイモンが心の中で睨み合ったその時、遂に戦いが再開した。

      To be continued… 第46話・裏の裏
世紀大戦のクライマックス。戦いの行方は…… 2023年10月22日(日)投稿予定。想像よりも長くなってしまった世紀大戦も後恐らく二話!お楽しみに!!


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