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心理的安全性マネジメント:組織の力を最大限に引き出す重要なカギ

現代のビジネス環境において、企業や組織が持続的に成長し、最大の成果を上げるために重要なもとは何でしょうか。それは、単に技術力や業績だけでなく、「職場環境」も重要な要素となります。そのなかでも「心理的安全性」は、とくに注目されるべきものでしょう。

※本稿は、野口雄志・著『最大の成果をあげる心理的安全性マネジメント 信頼関係で創り上げる絶対法則』(ごきげんビジネス出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

1.「いい環境」とは何か?

「心理的安全性」という言葉、よく耳にするようになってきましたよね。

多くの人がこの概念を難しく感じていることでしょう。この概念は決して難しいものではなく、実は常日頃仕事をしている私たちに密接なつながりがあるのです。

心理的安全性(Psychological Safety)は、1965年に米国のマサチューセッツ工科大学の教授エドガー・シャイン氏とウォレン・ベニス氏によって初めて出された概念です。

「人々が安心感を得て、変化する組織の課題に対応して自分の行動を変えられるようにするために必須の概念である」

組織改革には、この環境が必須です。

1990年には、ボストン大学のウィリアム・カーン氏が心理的安全性と職場のエンゲージメントや従業員のモチベーションとの関連を示しました。

「自己イメージやキャリアにマイナスの影響を心配せずに自分らしく振る舞えること」と定義しています。

世界の企業で検討・採用するようになったきっかけは、2012年に実施されたGoogleの「プロジェクトアリストテレス」でした。心理的安全性がチームの効果的なカギであることを示したのです。Googleは、何よりも心理的安全性がチームを機能させるために重要であることを結論として導き、プロジェクトの成功は心理的安全性なくしてはできないとの結論に達しました。

同プロジェクトに携わる研究者についての詳細は、The New York Times の記事「What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team」をご覧ください。

■参考

身近な例として、部内で定期的に行われる会議の席上、新入社員であるあなたは部長の方針に対して疑問があったシーンを思い浮かべてください。

「これは目標から少しずれていませんか? この方法でいかがでしょうか」

「ちょっとわからないので、もう少し説明をいただけますか?」などと素直に聞けるでしょうか?

それに対して、会議に出ていたほかの人たちも批判をせず、誠実に議論を進められますか?

このような会議で全員が敬意をもって雰囲気も悪くない状況が「心理的安全性が高い状況」といえます。この状況をつくることにより、その仕事に対する個人の参加意識が高まり、エンゲージメント力も高まるのです。

ここで注意すべきは、会議のときだけその場の雰囲気を考えていたのでは決してうまくいかないこと。自分が組織を率いることになったら、よい雰囲気づくりからはじめなければいけないのです。常日頃から安心・安全に自由になんでも発言できる雰囲気をつくる、そのことを考えなければなりません。

2.日米のビジネス文化と心理的安全性

日本のビジネス文化では「和を以て貴しとなす」という考え方が根強く、自分の意見を自由に表現することが難しく感じる場面も多いですよね。そのため、心理的安全性の低い環境では、社員が自分の能力を十分に発揮できず、組織全体のパフォーマンスも低下するリスクがあります。

誰もが日常生活や業務でミス・失敗を経験しますが、重要なのはその対応方法です。失敗したときに対応をどのようにするかで、その失敗が次の成功に結びつく可能性があるのです。

ここでいう日米の違いは、失敗をしてしまったときの個人や組織の在り方についてお伝えします。決して難しいことではなく、失敗だけを捉えるか、少し上空から失敗の前後を俯瞰して見られるかの違いで、大きく変わってきます。日米とも組織や個人の多様性がありますので、ここでお伝えするのは一般的な流れや対応と認識ください。

少し具体的に日米での違いを説明します。まずは日本社会における失敗時の対応についてです。

【日本の場合】

①謝罪と謙虚さ
たとえこちらに落ち度がなかったとしても、日本では提供する側がまず謝罪、あるいは謙虚な態度で対応することが強く求められます。とくに社会的に問題になるような失敗は、失敗を犯した個人や組織は社会的責任を取り戻すために対応が求められます。ここで個人を全面に出すかどうかも大きな判断になるでしょう。

②個人の責任か組織での連帯責任か
失敗が個人や特定の人物によることが確定しても、その責任は組織全体に帰されることがあります。組織は、その失敗がなぜ発生したのか、そこに問題はなかったのかを説明します。今後同様の失敗を防ぐための対策や改善策をいかにはやく表明するかも、組織としての責任になるでしょう。

日本では組織における対応が謙虚であるか、誠実であるかが、社会がどう評価するかを意識しています。失敗が社会的に大きな影響を与えるものである場合、個人や組織は社会的信頼を取り戻すための努力をします。

【アメリカの場合】

①個人の責任を追及し裁判へ
アメリカ社会では、個人の責任が重要視されます。法的な手続きを含む裁判文化が存在していますので、失敗が個人の行動や判断に起因する場合には、すぐに訴訟などの法的手続きが行われることが多いです。アメリカの訴訟文化、裁判文化といわれる所以です。
アメリカの弁護士の数は、日本弁護士連合会の調査(2021年)によると133万人もいて、日本の43,000人、ドイツの165,000人と比較しても一桁多い数が存在します。その理由は、アメリカに訴訟文化が根付いているのは間違いありません。個人の権利と法的保護を重視する社会であり、憲法や法律に基づいて市民の権利を保護することが重要視されているのです。これに伴い、法的アドバイスや代理業務を提供する弁護士の需要が高まります。 

②反省と教訓の共有
アメリカ社会では、失敗をした個人や企業がしばしば公にその反省と教訓を共有することが求められます。ほかの人たちが同じ過ちをくりかえさないようにする意図があるのです。会社内でも失敗に対する経過・原因・対応策など事実を明確にし、隠し事はせず必ず公にします。これにより他人も同じ過ちを起こさないよう予防できます。

③再出発とリカバリー
アメリカの文化では、失敗からの立ち直りと再出発が重要視されます。失敗を乗り越えて成功をおさめる例は多く、個人や企業が新たなチャンスをつかむことが尊重されます。


失敗を組織の恥として、できれば隠したい日本と失敗したことを次につなげようとするアメリカとでは、新しいことをはじめようとしたときに、気持ちのうえで大きな影響を及ぼすことになります。日本における、できれば新しいことに取り組まない、「挑戦」を好まない組織文化は、このような理由でできてしまっているのです。

心理的安全性が高い環境とは、常に構成者が新しいことに挑戦できる環境になります。日米の比較に見る失敗時の対応の違い、失敗の捉え方などは大いに参考になる点です。

3.心理的安全性を高める「コミュニケーションのオープン化」

組織に属し仕事をする場には、他者とのコミュニケーションが必須です。

「コミュニケーションのオープン化」とは、情報や意見の自由な共有を促進し意思疎通を円滑にすること、と定義します。開かれたコミュニケーションスタイルが信頼性や協力関係の構築に必須になるからです。組織が心理的安全性を高めるためには、開かれたコミュニケーションが必要になります。

コミュニケーションですから、一方だけが改善すればうまくいくものではありません。

とくにオープン化の環境は「開かれたコミュニケーション」ですから、その場にいるすべての人が対象となり、意識を共有して取り組むことで素晴らしい環境を手に入れられます。

心理的安全性が高くてもコミュニケーションがうまくいっていなくては、相手の気持ちの確認に時間がかかってしまい、双方の意識にギャップが生まれてきてしまいます。不信感はそのようなギャップから生じてくるのです。必要以上にコミュニケーションに気をつかうことは、後々必ずよい関係性に生きてくるでしょう。

開かれたコニュニケーションを促進するためのポイントは、次の5つになります。

①拝聴力
さまざまな場面で相手の意見や感情に注意を払い、真剣に聴くことが大切です。決して相手の発言を遮らずに聴くことで、相手との距離感や信頼感は見違えるほど近くなり、相手がさらに話しやすくなります。
「聴く」とは、相手の話していることを集中して自分のなかに取り入れることです。
話を聴いているときは、自分の意見やアイデアは一旦脇に置き、話している人の話に集中することです。自分の考えを消し去る必要はなく、必要であれば話を聴いたあとに意見としてテーブルに並べることにします。

②非言語力
相手が意見や発言をしているとき、顔の表情や相槌、時には手や体の動きもコミュニケーションのひとつになります。非言語のコミュニケーションです。
あなたが話しているとき、こわい顔でずっと見られていたら、どのように思いますか?
自分の話を真剣に聴いてくれている、同意したり、時には違う考えだったりと顔の表情も物語るのです。非言語の行動は、実はコミュニケーションや信頼感において想像以上にとても重要な能力。ぜひ気をつけていただきたいものです。

③共感力
コミュニケーションにおける共感力は、他人の感情や視点を理解し、共感し、適切に対応する能力です。
相手の立場に立ち、状況や感情を自分の経験に関連付けて考えることで、より共感力が出てきます。また、他人の感情に対する理解を高め、感情がどのようにつくられ影響を受けるかを理解するのです。
それらを深めていくことにより、その人の求めていることは何かや、気分の浮き沈みはどのような状況かを理解する力もついてきます。

⑤寛容力
心理的安全性でのコミュニケーションのオープン化、そのなかでも寛容力は、他人と円滑に意見交換し、協力し合うために非常に重要な要素です。寛容力を高めることで、異なる意見・文化・価値観に対してオープンな態度を示すことであり、効果的なコミュニケーションを促進し、対人関係を強化できます。
他人に対する理解と尊重がある関係を全員がもつことで、そこにいるすべての人が安心・安全に協力や協調することになり、対立を減少する助けになるのです。

関連書籍・雑誌

『最大の成果をあげる心理的安全性マネジメント 信頼関係で創り上げる絶対法則』
著・野口雄志/ごきげんビジネス出版/発売:2024年06月13日

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