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(連載119)フルタイムのアーティストは安価なキャンバスを使うか?:ロサンゼルス在住アーティストの回顧録:2022年


ここんとこ、アートディーラーが、40年もかかって、やっと見つかったというお話でした。(注意:4年じゃないくて、40年ですよー!念の為)

そして、展覧会の日程は来年(つまり今年2023年)の5月だと決定し、
もうこれだけで、十分に満足している自分であった。

ついに自分も、「何やってるの?」と聞かれたら、正々堂々と「画家です」と言えるのだ。


 しかし、、、、そんな幸福感にひたってる場合じゃないのである。

アーティストというものは、展覧会の日程が決まれば、あとはまっしぐらに、作品制作に集中しなければならない。

だが。。。。

ここにきて「キャンバスは、それでいいのか?案件」というのが、いきなり浮上したのであった。

今回はこれに関して、です。


では、早速、まいりましょう。

自分は、それまでは、絵を描く時、キャンバスは「ブリック」という大手の画材屋で、サイズと値段だけチェックして、てきとーに、買っておりました。

その中でも、マスター・シリーズというのがあって。
自分は、これがお気に入り!
その商品名が、なんと!

モネ! 

ただのモネ!ではないです。あとにプロ!がつきますよ。

モネ・プロ!です。


そして

ヴィンセント・プロ!!


〜最初、この名前に爆笑したが、、、、
ネタになるネーミング!(こうやって。ね?)

こんな名前のキャンバスのクォリティが悪い訳がありません!

しばらくはこれを買っていて、モネやゴッホの恩恵をもらったつもりで描いておりました。

が、そのうちに、

私の絵は「額縁をつけない」という前提で描いているので、側面と裏面が気になり出し、同じ会社のキャンバスの切れ端を巻き込んだものを買うようになった。こういうふうになってるものです。

布との付き合いが長い私としては、布の上に、ホッチキスがバチバチ打っていて、布の切りっぱなしがみえるより、この方がエレガントに見えたので、こちらを使うようになった。

このキャンバスは、3種類の段階があり、

  1. スタジオ・シリーズ

  2. ミュージアム・シリーズ

  3. アーカイブ・シリーズ


この中から一つを選ぶとすると?

もちろん:ミュージアム・シリーズ!!!!


そして、いつもこれを買うようになった。

もう、皆様、ここで、おわかりでしょ?

こういう商品の名前で、キャンバスを選んでいるというところからして、なんか、間違っていると、思いませんか?

今だから、わかる事


いつか自分の作品もミュージアムに収まるのを夢見て。。。

こんなマーケティングにまんまと乗ってしまう体質




ところが。

ある日、この会社が何を勘違いしたのか?
最初はキャンバスの裏に遠慮がちについていた、会社のロゴが、

大きさが二倍!
しかも、木の部分に堂々と焼き印が押してあった!!


同じ品番なのに、アップグレード(のつもり)していたのだ!


別に裏側なので、展示する時は見えませんが、
それにしても、、、、ですよ?

ちょっと想像してみてください。
表はミケランジェロなレベルの絵画の裏面に
「東急ハンズ」 とか 「世界堂」 とか、のロゴが
でっかく焼き印されてる絵って? 

これを、洋服にたとえると、ユニクロ、でしょうか?
品質は保証付きで、自分もかなり気に入ってるわけです。

しかし、

そのロゴのついたTシャツを着ますか? 

って事ですよ。もしくは

腕に、ユニクロのタトゥーを入れますか?

って事です。

(いえ、これは、別にハンズや世界堂をディスっているわけではありませんよ。ここは単に「量産のイメージ」の例えですので、ご了承くださいね。)


おそらく、以前だったらそんな事、気にもしなかったのに、
この、タイミング的に、ニューヨークの個展が決まった後で、

アート・ディーラーのついた、アーティスト様は、

そもそも、そういうキャンバスを使うのだろうか?

と考えた。

ふむ。どうしよう。

それで、これは、ひとりで考えても答えが出ないと思い、自分の周辺にいる、すでにアートディーラーのいるアーティスト達、数人に、この件について、どう思うか、片っ端から相談してみたのです。

〜その反応は、まとめると。

1。チープなので、やめた方がいい。返品する。

2。ただ単に、そのロゴを、削るか、塗って隠す。

3。それを逆に利用して作品のテーマにする。

4。そんな事を気にするよりも、表の作品にエネルギーを集中するべき。

という、さまざまな意見。

では、実際に彼らに「自分のキャンバスはどんなものを使っているのか?」と訊いてみると、ほとんど人が、「自分でキャンバスを貼っている」か、「オーダーメードで、専門の人に作ってもらっている」という答えであった。

ひぇ〜。知らんかったわ!

とほほ。

来年、「ニューヨークで個展をやります」という画家様が、こういう状態でいいのか?と焦りました。

そして、「だったら、自分もやらねば!!」と、奮い立った。

早速キャンバスを貼る材料を揃えて、YouTube を見ながら、いろいろはじめたのはいいが、これが、そう簡単ではない、、、。
小さいとすぐできるのだが、1メートル四方以上だと、なかなか力もいるし、一人で貼るのは、結構難しい。

とくに、ガンタッカーというホチキスのデカいものは、手が小さい私には、微妙に大きくて、しかも結構重いので、腕の力もいる。

夫に手伝ってもらおうと思っても、詩人でお坊ちゃん気質の夫は、そういう事は大の苦手であった。

思ったよりもかなりの肉体労働。。。。
見かけは若い(と自分だけ思っている)が、自分はとっくに高齢者!!

こんな肉体労働をイチから、みんなやっているのか?と驚き、
再度、女性アーティストの人々に聞いたら、全員が、キャンバスはオーダーして他人に作ってもらっているということだった。

そうだったのか〜〜!

しかし。。。。それだと、、、、、$$$$がかかるわけですよ。

フルタイム(それで生活ができている人)のアーティストであれば、それでもいいでしょう。
しかし、私のような新参者が、いきなり売れるかどうかもわからない絵に、そんなにお金をかけて、絵の値段よりも、キャンバスの値段の方が高い!なんてことになりかねません。

わーん。
いったいどうすればいいのか?

引き続き、自分の仕事部屋で、ああしてみたり、こうしてみたり。。。。
工具を変えたり、素材を変えたり、右にしたり、左に持ったり、最後には
アーティストの友人に頼んで、家にまできてもらい、文字通り、手取り足取りで、教えてもらったり。。。。
しかし、それでも、ひとりでいくつもやるのは、かなり大変であった。

そんなこんなで、いろいろ試す日々が、かれこれ数ヶ月(も)続きました。

で。


「解決策」というのは、いつも意外なところから現れる。

ルンナ語録より


そんな悶々としていたある日、ある展覧会に行った時に、そこに飾ってあった絵が、壁から少し離れていて、キャンバスの裏側が見えたのですよ!

おお!!!これは!!!

まさに私が今まで使っていた、
あの会社の、あの量産・安物キャンバスだったのだ!


え?
こんな立派なギャラリー立派なアーティスト様なのに、
私が選んだのと同じキャンバスのシリーズに描いていたのだった!
(さすがにロゴがあるかどうかまでは、見れませんでしたが)

この瞬間、びっくりしたと同時に、

な〜んか、すっきり、、、したのです。

もう気にするな! 

なんでも、いいのだ!!!

そうか!そうなのだ!!
もう十分に悩んだし、いろいろと手と尽くしたではないか。

〜そんな意味不明な自信!

が、ムクムクとこみあげてきた。


そして、その瞬間に、詰まっていた排水溝に、スルスルと汚水が流れていくように、悶々としていたキャンバス問題がどこかへ消えてなくなったのだ。

え? いきなりの問題解決?

どういう事???
今までの悩みはなんだったんだろ?


考えてみたら、この謎の自信の正体は、このキャンバスの事で右往左往した事で得られた自分の中で右往左往して得られた情報量のおかげに違いありません。

この間、いろいろなキャンバスを見た、そしていろいろやってみた事によって、自分が学び、いろいろと受け取ってきて、自分の立ち位置がはっきりわかるようになったのでしょう。

そうか。

解決策は自分の内側にあったのだ!


結局、今は、このプロセスの中で、別の量産キャンバスの存在も教えてもらって、そちらを使うようになりました。

量産、そして安物ですが、まったく問題なく、今は、この決断に何の迷いもありません!!!

そして、それからは、やっと絵に集中できるようになりました、、、

とさ。。。。。。。

めでたし、めでたし。。。。おしまい。


なんか、今回は、ありがちな、ただの悩み打ち明け話になってしまいましたが、最後までお読みくださり有難うございました!

L*


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