吉川浩満『哲学の門前』について
こんな言い方をすると奇妙なことだが、もし吉川浩満という人が昔ながらの哲学科にすすみ研究者であったのなら彼は、今日のような哲学者にはならなかっただろう。カントをただひたすら繰り返し読み解釈を突き詰めるような学者になっていたと思う。その彼のひたむきさは本書を読む者なら容易に想像がつくはずである。
遠くて近いところに長年いた私が本書を読むとそこにはまるでいくつかの私の分身がいるような気持ちになる。もちろん私は、彼ほど真摯でもなく優しくも聡明でもないけれど、少なくとも彼の社交性と多