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小さな書評帳

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吉川浩満『哲学の門前』について

こんな言い方をすると奇妙なことだが、もし吉川浩満という人が昔ながらの哲学科にすすみ研究者であったのなら彼は、今日のような哲学者にはならなかっただろう。カントをただひたすら繰り返し読み解釈を突き詰めるような学者になっていたと思う。その彼のひたむきさは本書を読む者なら容易に想像がつくはずである。

遠くて近いところに長年いた私が本書を読むとそこにはまるでいくつかの私の分身がいるような気持ちになる。もち

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山本貴光『マルジナリアでつかまえて』シリーズについて

山本貴光氏のマルジナリア(本の余白への書き込み)シリーズを見ていると本と読者との新たな関係を提案しているように思えてくる。近年ますます情報編集力とユーモアを織り交ぜた山本の文体は研ぎ澄まされ、その巧みな読みやすさで一つの提案は意識されないまま、知らずに読者はその古くて新しい書物との関係に誘われているのである。

印刷された文字と私達の脳の間に「手書き文字」がおかれる。マルジナリア(余白への書き込み

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