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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

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ぼくが僕になるまでの物語です。ありったけの魂を込めましたので、ぜひお読み下さい。
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#彼女

デリカシーのないぼくが僕になるまで

デリカシーのないぼくが僕になるまで

★少しの間、これでしのいでおいてくれ

 ミユが目を醒ましたようだったので、僕は椅子の背凭れから胸を剥がしキッチンへと向かった。ツマミに手をやり、テフロン製のフライパンと小ぶりの鍋を火にかける。火が付くと、僕は背中越しに、役割を果たし終えた弾道ミサイルのようにソファに身体を横たえているミユに向かって、「よく眠れたかい?」と声をかけた。両雄の調理器具に熱が行き渡るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ

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デリカシーのないぼくが僕になるまで

デリカシーのないぼくが僕になるまで

★少しの間、これでしのいでおいてくれ

 ミユが目を醒ましたようだったので、僕は椅子の背凭れから胸を剥がしキッチンへと向かった。ツマミに手をやり、テフロン製のフライパンと小ぶりの鍋を火にかける。
 火が付くと、僕は背中越しに、役割を果たし終えた弾道ミサイルのようにソファに身体を横たえているミユに向かって、「よく眠れたかい?」と声をかけた。両雄の調理器具に熱が行き渡るまでには、まだまだ時間がかかりそ

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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

★君のために覚えたんだ。

「あなたって、どうしてそんなに一つのことに夢中になれるの」ミユは寝そべっていた身体を起こし、ソファから起き上がった。膝の上にはかけてきた茶色い縁の丸眼鏡。度は入ってなさそうだ。昔から彼女は遠くに強い。
 僕は視線を読んでいた本へと戻し、「人より一つに夢中になっているっていう自覚は、僕にはないな」
「現に今がそうじゃない。わたしが寝ている間にそうやって本を読んでいたわけじ

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