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ギー 【ベラゴアルドクロニクル】
2019年6月23日 13:03
レムグレイド王国から、ガンガァクスの魔窟への道のりは遠い。 まず、本土の北東から船に乗り、竜の尾と呼ばれる岩山だらけの列島を渡る。荒れた道を東へと進むと、王国の管理下にあるナガラルという小さな町の港へと着き、そこから船に乗るとようやくガンガァクス大陸へと続く。さらには、荒涼とした大地を幾日も幾季節も進み、丁度大陸を真東に横断しなければ、魔窟へ辿り着けはしない。 しかし、だからこその安寧と
2019年6月24日 16:58
穴の中から物音がする。次第に、鎧や剣の擦れる金属音が反響して近づいてくる。 「それで、ピークスというのは?」マールは未だに赤くなった顔のままに訊いてみる。 するとバジムとクリクが神妙な顔つきになる。 「おまえ、ピークス知らねえって、本当かよ?」二人は顔を見合わせ、肩をすくめると、それから急に大人しくなる。 なんなのだ!この者たちの態度は。わたしが新参でここの事情に疎いことは認めよ
2019年6月25日 12:54
次の朝、マール・ラフラン隊長は、長旅で疲れ切った体を休ませるために隊全体を休暇とした。 陽が真上に来た頃にドミトレスがやってきて、ガンガァクスに慣れるまでは魔窟に潜らないようにとの通達を伝えに来た。 「まあ、ゆっくり休んでいてください。東に商業区があるので、楽しんではいかがでしょうか?」 彼はそう言うが、マールは風紀の乱れを気にして、兵たちに商業区への出入りを禁止した。休めと言われても隊
2019年6月26日 17:16
翌朝、白鳳隊は魔窟の入り口に揃っている。 マールは完全武装で部下の前に立つ。怖じ気づいた者は一人も見当たらない。「白鳳二番隊、八十二名。ご命令あらばいつでも出兵できます。」カイデラ副隊長が意気揚々と報告する。 しばらくすると、ドミトレスがやって来る。隣にはバジムとクリクの姿も見られる。後ろからは数百名の男達がついてくる。人間とドワーフの混合部隊のようだ。皆装備もばらばらで、隊列すらも成し
2019年6月27日 12:53
魔物は鎮圧され、マールたちは残党処理をはじめる。他の戦士たちと共に、手足をもがれてもなお憎悪の眼を向け続ける魔物どもにとどめを刺していく。 通路が静かになると、カイデラに促されてマールは剣を掲げる。 部下たちが勝ち鬨をあげる中、彼女は初めての戦いに高揚する身体を鎮めるように、深く息を吸い込み、静かに深呼吸をする。 「負傷した戦士たちもいますが、我ら白鳳隊に負傷者はいない模様です」カイ
2019年6月28日 12:53
似たような石像のそびえ立つ巨大な扉を抜けると、第二聖堂に辿り着く。そこは第一聖堂とは違い、目の前には巨大な石橋が広がり、その先の空間から三つの扉に別れている。 石橋の手前で、伝令の犬牙族が本部からの連絡を伝えにくる。第二聖堂奥への探索は中止。ただし、できれば扉を開け先の様子だけは確認するようにとの、ピークス司令の著名入りの文書を渡される。 「まあ、そんなところだろうな」ドミトレスからの了
2019年7月1日 12:32
「隊長を守れ!」 カイデラの叫び声に白鳳隊が引き返す。その場に留まり矢を放つ者もいる。矢は大きな一つ目を狙うが、その両腕に阻まれる。キュークラプスは手首と足首に鉄の防具を巻いている。 マールを踏み潰さんと、巨人が片足を大きく持ち上げる。カイデラが腕を伸ばすがとても間に合いそうにない。 巨大な足の裏が迫る。「姫っ!」カイデラが叫ぶ。 すんでの所でマールの身体は弾き飛ばされる。
2019年7月2日 12:46
橋桁を渡り、マールが振り向くと、もうすぐそこまでグイシオンの群れが押し寄せている。 「橋桁を上げるんだ!急げ!」最後の戦士が戻ったことを確認したピークスが叫び、近くの者たちが必死で橋桁の滑車を回す。 それから、そこにいる戦士たちのほとんどが、防衛柵の外側に残ったドワーフたちを見守る。 魔物がドワーフたちの前に津波のように押し寄せる。群れに向かってドワーフたちが一斉に矢を射る。バジムの
2019年7月3日 12:34
老人は優しい笑顔を向け、彼女の手紙を受け取る。 「ちょうど、大鴉が戻った所じゃ」 なんでもストライダにはそれぞれ飼いならした大鴉がいて、どこにいても主人のもとに戻ってくるのだという。近年、伝令鳩として広く利用されていた六つ羽鳩がうまく飛ばない今、実質的には、遠方への通信は、ストライダを頼ることが多くなっているそうだ。 とはいえ、これほどの手紙の量を、大鴉が運べるわけでもなく、大きな荷
2019年7月4日 12:50
その日からガンガァクスは慌ただしくなる。来たるべき決戦に備えて鍛冶屋も道具屋も忙しくなり、合わせて酒場なども客で溢れる夜が続く。 それは奇妙な光景だった。戦いのなかでこそ回る商業区の景気も妙だが、なによりも、それぞれの種族たちがそれぞれの習慣に沿った戦いの準備をし、最終的には纏まりあるひとつの軍隊が形成されようとしている事実こそが、ガンガァクスを置いて他、有り得ない光景だった。 マールは