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『涙の加齢臭まくら』

皆さんの家では、子供の乳歯が抜けるとどうしていますか?

僕が子供の頃、下の歯が抜けると強い歯がしっかり伸びてくるようにと高い屋根の上へと投げる、上の歯はその逆で床下に、なんてことをしていた記憶があります。

長女が誕生して数年経ち、初めて乳歯がグラグラしだした時に、先述した子供の頃の風習を思い出しましたが、現在我が家はマンション暮らしで屋根はありません。目指すとすれば屋上か?ですが、どんな強肩の才能を秘めた神童でも乳歯がマンション屋上まで届くはずもありません。

そこで妻が何処からか購入してきたのが歯の妖精のコインのセット。

抜けた歯を小物入れに入れて、枕元に置き子供は眠ります。すると次の日の朝、乳歯の入った小物入れの横にはゴールドに輝くコインが妖精からプレゼントされるというシステム。

おもちゃのプレゼントこそありませんが、サンタクロースが訪れた時のような不思議とワクワクの朝がそこにあるのです。

子供は乳歯が抜けることに抵抗を示します。そりゃそれなりに痛みも伴う瞬間もありますし、血も出てしまいます。

ところがこの妖精からのコインプレゼントシステムを知った長女は次の歯が抜ける日を楽しみにし始めました。

『また歯がぬけるとき、ようせいさん来てくれるかな!??!?パパどう思う?』

『きっと来てくれるやろなぁ〜』

このような会話を何度もしております。

それ以来、歯が少しでもグラグラしだすと嬉しそうに鏡の前で何度もチェックするようになりました。

この素敵で優しい世界観のシステムを見つけて来た妻に感謝です。

現在、7歳の長女。

先日、8本目の歯がグラグラしはじめました。

『パパ、見て、ここグラグラしてるんだよ、また妖精さんにコインもらえるよね?』

『そやな、抜けたら小物入れに入れて寝んとな〜』

そんな会話をして数日後の夕食どき。

『あっ!抜けた!!!みてみてー!!』

『ホンマや!おめでとう!!』

『また妖精さんくるよね?』

『そやな!』

『あ!今日は妖精さんにお手紙書く!!!』

『お、ええやんか〜』

そう返答しながら妻と、どちらが妖精さんとして返事を書くんだ?という意味を含んだアイコンタクトを交わす。

食事を終えて、せっせと手紙を書く準備をする長女。

目を輝かせ、バランスが悪さが絶妙に可愛い平仮名を、一生懸命したためるその姿がたまらなく純真で胸が熱くなる。

『できた!!パパ読んでみて!!へんじゃない!?』

気持ちの籠った、愛らしい手紙をトップバッターで読ませていただく喜びたるや。



ようせいさんへ

どうやってまちじゅうの

こともたちのいえに

いってるの?

つかれないの?

◯◯より


1年生になった長女。

考える能力も想像力もついて来たんだろう、妖精とは何なのか?どんな存在なのか?文章からそういったことが気になり出しているのが分かる。

成長が嬉しい。

その後、ひょんな事から大事な歯を無くしてしまった長女。

必死で妻と3人で探したが何故か見つからない。

仕方ないと諦め、お風呂に入って就寝の準備をする、枕元には手紙といつもの小物入れ、入っている歯は7本だけど一応置いておく。

『ねぇ、パパ、今日ぬけた歯はないけど妖精さん来てくれる?』

『パパは妖精さんちゃうからわからんけど、歯が抜けるとこは何処かで見てくれてると思うし、何より手紙書いたんやから絶対読みに来てくれるよ』

『うん、わかった。楽しみ』

『おやすみ』

いつも通り薄手の掛け物を胸元まで引き上げてやり、部屋を出る。

リビングでは妻が紙を広げている。

サンタクロースとして返事を書く事が多い僕。

妖精は妻が担当するようだ。

『歯、何処行っちゃったんだろうね?』

そんな事を言いながらペンを走らせる妻。

待つ事、数分『ちょっと読んでみて』

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