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デザイン・論文まとめ

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記事一覧

【全文訳】 公共イノベーションラボ(公共組織内デザインチーム)はいかに正統性を確立するか?―ダイナミクス、アプローチ、知識創造

IASDR(国際デザイン学会連合)カンファレンスで2023年10月に発表した森一貴および岩嵜博論による共著論文「How do PSI Labs establish legitimacy?: Dynamics, approaches, and knowledge creation(PSIラボはいかに正統性を確立するか?―ダイナミクス、アプローチ、知識創造)」がオンライン上のプラットフォームに掲載され

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コモニング Commoning とはなにか?

本記事は、コモニング commoning とはなにか?という問いに答えつつ、その議論の全体像を可視化することを目的とした記事です。

コモニング commoning は、2008年にPeter Linebaugh「The Magna Carta Manifesto」によって社会に広まった、新しい概念です。しかしコモニングを考えるためには、「共有地の悲劇 the Tragedy of the Com

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産業集積論/地域イノベーションシステム論における学習地域、ローカル・ミリュー、集合的学習過程

'90頃から、経済地理学とかそのあたりで、いわゆる「産業集積がどう」という話から、「知識とイノベーション」の話へと議論が変化。そのあたりで生まれてきたのが地域イノベーションシステム論。名詞群が魅力的なのでざっと論文をチェックして流れや語などをまとめました。

主なワードと論者主な言葉や論者として

・Learning Region 学習地域:Richard Florida 1995, Asheim

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欧州往復書簡4 脱植民地のためのデザインの限界と、多元論的地方

欧州往復書簡4 脱植民地のためのデザインの限界と、多元論的地方

*このマガジンは、欧州の大学院に修士留学をしている3人が、いま感じていること、考えていることを伝えあう往復書簡です。

*執筆
森一貴(Kazuki Mori):フィンランド・アアルト大学修士課程Collaborative and Industrial Design
牛丸維人(Masato Ushimaru):デンマーク・オーフス大学修士課程Visual Anthropology
田房夏波(Nat

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E.F.シューマッハ「スモールイズビューティフル」(1986)



ドイツ生まれのイギリスの経済学者・E.F.シューマッハによる名著をやっと読了。インドをはじめとした途上国の開発にも携わり、「人間の顔をもった」技術を世界的に展開しながら、仏教にも接近しながら「仏教経済学」などの概念を展開させたシューマッハ。その圧倒的な実践をベースにした切実な警鐘は、世界中に影響を与えました。

シューマッハの指摘は非常に簡潔。
・石炭や石油は再生不能財であり、根本的に他の財と

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イヴァン・イリイチ「コンヴィヴィアリティのための道具」読了直後のまとめ

イヴァン・イリイチ「コンヴィヴィアリティのための道具」読了。やっと読めた。

イヴァン・イリイチは脱産業/脱官僚主義論として認識されることの多い著者だと思うけれど(もちろんそれは正しいのだけど)、Convivialityという思想は、極めて人々に対する希望の詰まった提案だと思った。

イリイチは思想家であると同時に、すごく実務的な人だ。そこにシビれる憧れる。

「私が提供したいのは行動のための指針

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禅、ここまでの理解

鈴木大拙「禅と日本文化」を読んでいる。

ここまでの理解をまとめる。

*

著のなかには、

言葉は代表するものであって、実体そのものではない、実体こそ、禅において最も高く評価されるものなのである

禅のモットーは「言葉に頼るな」(不立文字)

と戒めがある。

けれども、僕の個人的な確信でいえば、むしろ禅において本質的なのは「言葉で分かった気になってはいけない」ということ(→「禅は行動すること

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「未来の知覚」を考える

文化は、存在しない物を人に見させてしまうほど、知覚に影響を与えることができるだろうか。(p.108)

地理学の大著「トポフィリア 人間と環境」(イーフー・トゥアン著、小野有五・阿部一共訳)を読んでいる。

「トポフィリア」という言葉と、人間の環境に対する情緒的な捉え方が本書では重要な論旨である。けれど、この著全体が大きな「人間たちの環世界」を記した文化の冒険譚のような、わくわくする驚きと喜びに貫

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存在論的デザイン・存在論・人類学の存在論的転回ってなんやねん

存在論的デザイン・存在論・人類学の存在論的転回ってなんやねん

※2021/10/2追記:その後、存在論的転回を提唱した?エスコバルによる「Designs for the Pluriverse」を読み、記事を書きました。こちらも御覧ください

「存在論的デザイン(ontological design)」ってなんなんだと思っていたが、2年前に自分で書いていたようだ。「are we human?」に何度となく出てきたコンセプトが「存在論的デザイン」であったのだなあ

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「デザインの正義 Design Justice」を考えるために

「デザインの正義 Design Justice」を考えるために

Sashaが2020年に発刊した「Design Justice」は、デザインのなかに、権力がどのように埋め込まれているかに気づき、考えるため、そしてそれをどう覆していけばよいのかを考えるための、非常に重要な一冊です。

本記事では、その内容を簡単に整理し、Design Justice デザインの正義について考えるための足場をつくりたいと思います。

「デザインの正義」は、フェミニズムや障害者の当事

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半径50kmのデザイン、Lo-fab、Design Repair −アフリカデザインセンターによるルワンダ・ルヘヘ小学校の実践

半径50kmのデザイン、Lo-fab、Design Repair −アフリカデザインセンターによるルワンダ・ルヘヘ小学校の実践

この記事では、Christian Benimanaが創始したアフリカデザインセンター / MASS Design Groupによる、ルワンダにある「ルヘヘ小学校」の事例を紹介したい。

ルヘヘ小学校の事例は、人口が激増するアフリカで均質化した開発が次々と進行するなか、地域の人々の手によってバナキュラー(土着)な建築が生み出されたという、見た目の側面においてまずもって印象的だ。しかしながらそれ以上に

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「そうではない」ことのデザイン - Anti-Progressive Design

デザインとは破壊であるCameron Tonkinwiseは、デザインとは端的に言って、「破壊」なのだと述べている。

どういう意味か?

なにか新しいものを生み出すということは、本来そこで使われていたものを「捨てさせる」ということである。それは単にモノだけを指す場合もあるが、それは実はモノだけではなくて、モノを含む「ネットワーク」全体を含んでいることもある。

例えば、トースターについて考えてみ

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ファシリテーターの役割は、フライトアテンダントで、スポーツキャスターで、科学者だ?

最近、デザイン(CoDesign/Participatory Design、あるいはDesign Anthropology)や地域づくりの分野で、ワークショップって大事だよね、ファシリテーターとかコーディネーターって大事だよね、という認識はどんどん広まってきている。気がする。

僕は特に重要なのが、場における「心理的安全性」の確保だと思っている。つまり、イベントに参加するのがはじめてであろうと、そ

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多元的世界のためのデザイン / Designs for the pluriverse

Escobar, Arturo. 2018. "Designs for the Pluriverse: Radical Interdependence, Autonomy, and the Making of Worlds." Duke University Press. を読みました。

人類学者の視点からデザインを見つめ、ラテンアメリカにおけるローカルな民族運動を議論の下敷きとしながら、(1)

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