《オープン》 であること。
こんにちは。
今日はバリスタとしての活動のひとつである《バリスタとめぐる「コーヒーショップ 分解」ツアー》について書きます。
(フリーのバリスタ、調理師、コーチとして活動をしています。)
抱える課題をオープンに。
始めてから1年ほどになるこのツアーは、ひとことで言うと
【参加者さんといっしょにカフェに行き、それぞれの疑問にその場で答える】ツアーです。
参加募集は1回につき3名まで。
それぞれが違った疑問と目的を持っているという前提に立っているので、あまりたくさんの人を一度に相手にできないのと、お店で待たずに着席できるギリギリの人数であるというところが理由です。
自分を入れて4名でお店に出向き、メニューの難解用語やバリスタの動きを見ながら、参加者さんが普段感じているコーヒーの疑問にお答えします。
参加のみなさんがこのツアーで得たいことはさまざまで、ピンポイントに技術や知識を得たいというよりは、もっと自由な発想で疑問を扱い、自分なりに昇華させたい、という方が多い気がします。
主催の私が叶えたいことも、
「必要としている人に、必要な情報を届けたうえで、本人がたのしいと感じられるやりかたで発展させてもらいたい」
ということなので、ここはお互いに良い着地になっていると感じます。
店舗で働いていた頃にもっていた課題に対し、フリーになった自分ができるひとつのアクションとしてこのツアーを始めました。
(その頃の課題と仮説についてはこちらの記事たちに詳しく書いています)
コーヒーを扱う側が伝えたいことが、受け取り手に伝わっていないことと、伝えにくさを含んだシステムを変えることができないもどかしさを感じていたんですよね。
バリスタとめぐる意味
コーヒーショップにはいろんな要素があります。
豆の特徴やメニューといったコーヒーそのものの部分、生産・流通の背景といった社会的な事情の部分、
エスプレッソやドリップコーヒーの抽出に関する技術的なこと、対お客さんの要素、個別化や結びつきといった非常に個人的な、属人的な要素まで。無数のグラデーションがあり、そのどこに興味を持つのかは人それぞれです。
たくさんある要素のなかの、どれかに絞ってシャープにやるのもいいのですが、その先の目的として「できれば長くコーヒーに関わってほしい」というところが自分にはあって、このツアーではあえて広く浅く範囲を設定しています。
一時的に盛り上がってすぐに飽きるという流れを避けたく、流行りに呼応して「みんなが知っていること(あるいはみんなが知らないこと)を知っている(というだけの)優越感」を得て満足するような関わりではなくて、
「みんなはスルーしてるけど、自分はスルーできない気になるポイント」を尊重してほしいなとおもっています。
広げて広げて、その広い海から自由にピンときたところを掘り下げて、そのピントが合ったところを起点に、その分野、その部分の深度10メートルくらいの《今もっているものより少しだけ詳しい情報》をお渡しする。
さらにそれにピンときたら、もう20メートル分深度を下げた情報を渡す。
自分でもこれ以上は(自分がわかっていることのなかに)言えることがないな、という深度にきたら、より専門性の高いことを知ることができる手段を提案する。(その代表的なものに街のコーヒー屋さんに足を運んでもらう、というのがあります)
そういうことをやっています。
バリスタとしての自分をみたときに、これは他のバリスタと比べて、という視点ですが、私自身は豆の特徴や精製方法や抽出についての最新の知識がむちゃくちゃあるというわけではないので、それ以上はこういう本やYouTubeがありますよ、とか、東京だとこのお店がそういう発信をしていますよ、とか「その先にお繋ぎする」というやりかたをとっています。
私自身が今は店舗に立っていないというのもあるし、そもそもコーヒーという《モノ》が大好きでそこに焦点を当てて追求するのが幸せ!というよりは、知識や技術を前提として「それを使ってどう楽しみ、楽しんでもらうか」という視点が強めなんですね。
深める対象としてのコーヒーを選び、突き詰めていくおもしろさと、
深めた結果を生活にいかしていくことの楽しさ。
どちらもあっていいはずだし、そういうバランスをそれぞれが見つけてほしいなと考えているので、参加者さんそれぞれの「なぜ?」をスタートにして、気になった要素をいろんな角度から分解していきましょうという意味を込めて分解ツアーとしました。
バリスタといっしょにめぐることで普段の疑問に対し「その場での解決」が可能になります。目の前の参加者さんがいま何を見ているかを共有し、
「いま」何を知りたいのか、というliveのニーズに応えることができるからで、いっきょに解決するというより「そこからどっちにいけばいいか見当がつく」という感じです。
教えるコンテンツは世にたくさんあるので、自分だからやる意味があることは何かと考えた結果、とてもコーチングっぽいアプローチになったのですが、これはこれでおもしろいかな、とおもっています。
interactive(双方向性)で、on going(現在進行形)で、taylormade(個別対応)これが醍醐味となるツアーは、あまりないような気がしています。
本当は、そのショップのバリスタがお店側の意図も含めて目の前のお客さんに伝えることができればいちばんいいとおもいます。
私も店舗勤務時代は、可能な限りそうしていましたが、業態の特性上ワンオペ勤務であり、ひとりのお客さんに割ける時間が十分にないことが主な理由で、もどかしさを感じていました。
フリーのバリスタになって真っ先にこのツアーをやりたいと考えたのはそんな背景がありました。
実際にやってみると、こちらも毎回新たな視点をもらえて店舗時代とはまたちがう楽しさがあります。
始める前は、みんなが疑問におもうポイントってだいたいこういうところだよな、という予測もありましたが、どっこい、着眼点が全然違って、それがすごく興味深いし、その人ならではの視点というのは、誰よりその人にとってのおおきな財産になるんだよな、と確認できることが毎回本当にうれしいです。
合うひとに、出会おう。
そういう《体感》を得ることで、他のバリスタにもやってもらいたいな、と考えるようになった経緯は、こちらの記事でも少し書きました。
引用します。
美容師さんやセラピストさんと同じように、単にマッチングの話で、自分に合うバリスタを見つけることができれば、そのお客さんのコーヒー体験、生活の中のコーヒーの質はググッと上がります。
お店に行く、行かないに関わらず、コーヒーで困ったときのアクセス先が増えるからだと考えていて、このツアーを、他のバリスタもやるようになれば、私にはマッチしないお客さんの選択肢を広げることができます。
このツアーを市場に出して、実際に予約が入ってひとがくる、という結果に距離があるのは自覚していますが、
それ以上に「もしやってみたいひとがいるなら、応援したいです」という自分の意思表示になるとおもったんです。
実際に予約を受けたことはまだないのですが、
「コーヒーショップ分解ツアー」には、
「コーヒーショップ分解ツアーのやり方伝授ツアー」というバリスタ向けの裏番組みたいなものがあります。笑
これは、分解ツアーをやってみてすごく喜ばれることがわかったので、主催を担ってくれる人が(いっしょにやるわけではないけど、世の中に)増えたらいいなという意図で始めました。
参加者さんの疑問や、知りたいことが多岐にわたるため、多様な参加者(疑問)と多様なバリスタ(それぞれの得意分野)を掛け合わせたらおもしろいだろうな、とおもうようになったんです。
私にも得意分野というか、特にここは興味があって深堀りをしてきた、というポイントがいくつかありますが、それはそれぞれのバリスタで必ずちがうものなので、「参加者さんがどのバリスタとめぐるか選べる」ようになったら、すごくおもしろいなと。
そして、バリスタもここまでしっかりお客さんとコミュニケーションをとることって、お店ではあまりない状況だとおもうんです。
毎日お会いして2分か3分話す、そういう常連さんは多いでしょうが、1回で2時間話すということはそうそうないはず。
1回の接触時間が長いことで「疑問を掘り下げる」ことが可能になります。
それは何を意味するかというと「もっと興味をもってもらうこと」に繋がるんですよね。
そしてバリスタにとっては「(お客さんは)何がわからなくて、それは自分達やお店にどう影響しているのか」を知ったり考えるきっかけになります。
コーヒーショップには様々な要素があると書きましたが、
生産から精製、流通、焙煎、抽出、フードペアリングなど、お店、家庭問わず世界中で親しまれているコーヒーには、それ自体に関われるポイントと、掘り下げられる懐の深さがあって、
もっとコーヒーを楽しみたい参加者さん、もっと面白さを伝えたいバリスタ、それぞれの《スルーできないポイント》を交換するようなコミュニケーションをする場として成立するんじゃないか。
(というか自分の場合は成立している。)
それがわかって、
お客さんには自分に合うバリスタに、バリスタには自分に合うお客さんに出会ってほしい。そうおもいました。
これは特にバリスタ側にとって価値がおおきいことで、そういうお客さんに出会えれば、間違いなくそのバリスタの可能性を伸ばしてもらえます。
これは体験による実感で、私自身が店舗のお客さんに
「君の独特さは確かに万人受けはしないだろうけど私には最高」
と伝え続けてもらってきたんですね。
その結果「それやって何になるの?」と言われそうなこと(たとえばこういうツアー)を実際にやってみる勇気や自己基盤を育ててもらったとおもうんです。
バリスタが店舗の外で、そういうお客さんに出会い、より自分が伸ばしたい可能性を伸ばすことができたら、それは店舗での勤務にも活かせる。
フリーのバリスタというのがどのくらいいるのかわかりませんが、店舗で働きながら、《自分として》ちがう活動もしてみよう、という人がもしいたら、これは実際にやってみた者として、自信をもっておすすめできる選択肢だとおもいました。
リスクはちいさく、可能性がおおきい
以前、こちらの記事でも書きましたが
私は誰かと何かやるときの考えかたとして、ほとんどこれ1枚、この9マスのバランスで企画を考えています。
自分が真ん中に立ったとき、サービスを受けるひとと、いっしょにサービスを提供してくれるひとの双方にいい提案でないと出すことができません。
この場合は参加者さんの受け取る報酬と、同じ課題に取り組む相手(と勝手におもっている)=自分以外のバリスタの受け取る報酬を作り出せるなら、自分にGOを出すことができます。
ツアー参加者は、より自分に合った提案をしてくれる人に出会える可能性があがり、バリスタにとっては、より自分に合った働きかたや、活動の場を求めることなど、やっぱり可能性を広げ、選択肢を増やす試みになる。
さらに、バリスタの提供するものは、技術や知識、それ以上にそのひとが深めてきた視点そのものであり、これらは「既にもっているもの」なんですね。提供する《相手と場所を変えるだけ》のスライド式で、新たに必要になることがないので、ハードルが低いんです。
(あるとすれば最初は反応がないのでそこで落ち込んだり傷つくことですかね)
しかし、ここがポイントなのですが、《ただのコピーツアー》ではやはり厳しいとおもうので、そのひとが、自分としてどう昇華させるのか、という部分をサポートしたい、というのがこの《伝授ツアー》の本意になります。
私は自分自身がこのツアーをはじめるきっかけとなった体験や考察を伝えることはできますが、それは自分の中から出てきた動機だからであって、自分ではない人が同じようにやってもうまくいかないだろうと感じる部分は、やはりあります。
それは、当たり前のことではありますが、見ていることや、良しとすることが違い、感じる喜びも、難しさも同じではないから。
そしてここでも、重宝するのは《コーチとしての視点をもった自分》だったりします。
本人が当たり前に思っていることでも、他人から見たら価値になることというのはたくさんあって、話を聴き、フィードバックをし、ときには考えかたを伝えてアプローチするなど、本人が自分で気が付く助けをするのはコーチの本分だからです。
「つまんなくない?」
私はもともと、自分というひとつの素材をどう使うのがいちばんパフォーマンスが高いのかを考えるのが好きみたいで、
違う役割や仕事を何かの共通項で繋いでちがう価値にするみたいなことを気づくとやってしまっています。算数は苦手なのに最大公約数を求めるみたいなところがあって、バリスタをやっているのにコーチングの考えかたを適用しているし、料理をつくっているのに、味やフレーバーの分析を変に細かくみてしまったりするんですね。
(狙った味にするという目的はいっしょなのでいいんですけど)
というのは、ひとりの人間の内面にある多様性を堂々と出せるような場がもっと必要なんじゃないか、とずっと感じているからで、そういう多様性を同時に活かすことで最大化する価値ってなんだろう、と考えてしまうんです。
「あなたはどうしたいのか」という話題を(コーチングで)取り扱うことが多いのもあって、すこし話がズレましたが、
バリスタとして、どんなことにより興味をもってきて、それはなぜで、そのなかのどんなことを伝えていきたいのか。何が伝わって、参加者さんがどんなふうにコーヒーと関わってくれたらあなたはうれしいのか。
自覚はなくても、それぞれのバリスタがこれはもっているはずです。おもしろいのは、意外とコーヒーと関係ないところにそれがあったりするところ。
お店では自分の動機を話す機会がなかったり、マネージャーや先輩の思想が先にあったりするから、口に出したことはないかもしれないけれど、はじめたきっかけは誰しもあるはずだからです。
そこを掘り下げて、自分のバリスタとしての独自性や他のバリスタに対しての優位性をみていくこと。
ビジネスっぽくいうと LEAN CANVAS に近い考えかたです。
さらに、「それができるとどうなるのか」という未来志向をいれていくことで、将来につなげていく視点をもつことができます。また、当初の希望を突き詰めていくと、本当の希望は違うところにあった、というパターンもコーチングのあるあるです。
バリスタとしてどうしたいかを突き詰めていくことで、それ以外の自分の可能性が発見されることもあるかもしれません。
自分が出す企画について考えごとをするときにいちばん気をつけているのは「つまんなくない?」という視点をもつことで、とことん意地悪になる部分というか、「それってなんかコピーっぽくない?」という視点を持ちつづけること。
「平均点をあげる方向にいったな」とバレるというか、おかしなところがない企画は(そりゃそうしているから)突っ込まれない安心感はあるのだけれど、とって替わられることと、競争に参加させられるという意味で危険です。
自分の答えをつくる。
「正解コンプリート時代から脱却して、自分なりの答えをつくる。」
最近、コーヒーショップ分解ツアーについて書いた instagramの投稿から引用します。
「正解コンプリート時代から脱却して、自分なりの答えをつくる。」
そういうことが求められていることは、きっとみんな肌感覚としてわかっているけど、自分なりの答えをつくるためには、自分なりの学びを育てる必要があるとおもうんです。
その素になるのは自分自身の違和感や疑問やわがままであって、それを自由に掘り下げる時間を持ってみませんか、という提案です。
だからツアーでは、どんなに小さな疑問でも馬鹿にしたり否定したり決めつけたりしません。
それまで少しずつ変化してきていた生活や仕事の様式が、COVID-19の影響で一気に加速した側面もあり、以前に比べて個人も組織も、柔軟であることが標準装備として求められている、同時に自分のスタンスを示すことの必要性も増したように感じます。この2の要素が切り離せないからなのだとおもいますが、その際に肝となるのは、ひとに与えられた正解ではなく、自ら悩んで紡ぎ出したような類の答えではないでしょうか。情報ではなく実感。
考える作業に耐えて出した結論をもち、その過程を踏んだ自分を知っているから、その答えを捨てない自分を選ぶことができるし、だからこそ状況に対して柔軟になれるのではないか。
こういう理屈でこうなる、という情報は手に入れられますが、自分の感覚でどう感じるのかというのは(自分の外には)どこにも情報がありません。
だから自分を掘ってみるしかない。
その掘る場所のあたりをつけるのに役立つのが体験であると考えています。
コーヒーだったら、飲んでみる、行ってみる、挽いてみる、淹れてみる、話してみる、交換してみる。試してみることで自分についての情報が増えるから、より自分に合うものを選択することができる。
そんな気がしています。
今日は主催している《バリスタとめぐる「コーヒーショップ分解」ツアー》について書きました。
読んでいただきありがとうございます。
余談ですが、ツアーでは、コーヒーの話以上に仕事のしかたや「選ぶということ」に話が及ぶことも多いです。
バリスタ以外の活動でも共通するテーマである、「自分で決める、選ぶ」という話をコーヒーを通して楽しんでもらっているように感じるときがあって、自分にとってもすごく満足度の高い時間になっています。
興味をもってくれた方がいたら、ぜひページをご覧になってみてください。
これまでのイベント(ツアー以外も)の参加者さんのレビューはこちらからツアーの記録動画はこちらからご覧になれます。
同業の方もどうぞ気軽にご参加ご検討ください。
何をどのくらい知っているという軸ではなく、たとえば、どのようにコーヒーと関わって、どんな多様な価値をつくっていくか。
そんな意見交換もできたら幸いです。それぞれの視点をシェアできるようなオープンさをもって、みなさんと関わっていけたら嬉しくおもいます☺︎
お仕事に関するお問い合わせはこちらに。
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