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2022年4月の記事一覧
最後まで読者を揺さぶり迷わせる名作ーミニ読書感想「八月の母」(早見和真さん)
早見和真さんの最新長編「八月の母」(角川書店)が面白かった。これは名作なのか。最後の最後まで不安定に迷い、揺れ続け、最終的に「間違いなく名作だ」と快哉を上げた。そのスペクタルも含め、素晴らしい小説。
著者の早見和真さんは広角打法の小説家。ベストセラー「イノセント・デイズ」がシリアスな事件ミステリーだった一方、近刊の「店長がバカすぎて」は書店を舞台にしたコミカルなお仕事喜劇と振れ幅が大きい。今回は
永続戦争の中にあるのかーミニ読書感想「現代ロシアの軍事戦略」(小泉悠さん)
小泉悠さん「現代ロシアの軍事戦略」(ちくま新書)が勉強になった。ロシアの戦争観や、基本的戦略を理解するキーワードを学ぶことが出来た。特に印象深いのは、権威主義的体制のロシアとNATOの対立が続く「永続戦争」と言う言葉。プーチン大統領はこの永続戦争の中で、頑なな姿勢を貫いているのか。
本書を読まなくては出会うことのなかったキーワードがたくさんある。たとえば「戦略縦深」。これは、敵の侵略に対して時間
湧水や神社に注目すると自分の住む街がもっと好きになるーミニ読書感想「中央線がなかったら」(陣内秀信さん、三浦展さん)
陣内秀信さん・三浦展さんによる「中央線がなかったら 見えてくる東京の古層」(ちくま文庫)が面白く、発見の多い一冊だった。タイトル通り、新宿以西の中野区や杉並区、そして多摩地域について、メジャーな中央線各駅の周辺「ではないところ」に目を向ける一冊。でも、中央線住民のみならず楽しめること請け合いだ。本書は、自分の住む街を楽しむ方法を教えてくれるから。
なぜ、本書のタイトルは「中央線がなかったら」なの
インドに行けない私たちに溢れ出るインド愛を届けてくれる本ーミニ読書感想「食べ歩くインド南・西編」(小林真樹さん)
小林真樹さん「食べ歩くインド 南・西編」(旅行人)がインドへの偏愛MAXで最高だった。小林さんはインド国内の食べ歩きを1990年代から20年以上継続。本書では、おすすめの食堂をひたすら紹介してくれる。インドになかなか行けない私たち読者に、笑っちゃうくらいのインド愛を届けてくれる一冊だ。
本書の特徴は、ひたすら具体的な情報が書かれている点。情緒的な文章が削ぎ落とされ、ある地域の食堂が次々と紹介され
埋もれた言葉、英雄譚にならない言葉ーミニ読書感想「戦争は女の顔をしていない」(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさん)
ウクライナとベラルーシにルーツがあるジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんの「戦争は女の顔をしていない」(岩波現代文庫)は胸を打つ。第二次対戦を兵士やパルチザンとして戦ったソ連域内の女性数百人にインタビューした記録。ここにある言葉は、男の戦争の歴史に埋もれた言葉だ。時に脈絡なく、断片的で、整った英雄譚にはならない言葉。だからこそ、鋭く荒々しく、胸に刺さる。
自分が行く本屋でウクラ
戦争責任を引き受けるための思考法ーミニ読書感想「われわれの戦争責任について」(カール・ヤスパース氏)
ドイツの哲学者カール・ヤスパース氏著「われわれの戦争責任について」(ちくま学芸文庫)が勉強になった。1945年頃の講義録をまとめ直した小論文。第二次対戦後の戦争責任を、ドイツ人としてどう考えるべきかを説いている。書店でウクライナ情勢の特集コーナーに収容されていた。たしかに、目下の戦争を考える視点になる。これは、人が戦争責任を「引き受ける」ための思考法をまとめてくれている。
解説によると、ヤスパー
ウクライナ情勢を理解したくて3月に読んだ本4冊
2月末、ロシアによるウクライナ侵攻に目を疑い、大きな衝撃を受けた。自分が生きている時代に侵略戦争が発生したことに呆然とし、何を考え、どう行動すれば良いのか分からなくて途方に暮れた。そんな中で、知ることから始めようと本を手に取った。読むことで少しずつ、考える足場が出来たように思う。もちろん完成していない。これからも読み続ける。
ひとまず3月に読んだ4冊を記録する。
①「NATOの教訓」ウクライナ
砂ぼこりを感じる小説ーミニ読書感想「ベルリンは晴れているか」(深緑野分さん)
深緑野分さんの長編小説「ベルリンは晴れているか」(ちくま文庫)が面白かった。傑作「戦場のコックたち」に続く、深緑さんの戦争小説。相変わらずの凄まじい臨場感にうなる。第二次世界大戦後、米国やソ連、英国、フランスが入り乱れるベルリンの、砂ぼこりが目に見えて感じられる作品だ。
臨場感を生む秘訣はディティール。街の名前、通りの名前。どこをどう歩くとどんな建物があるのか、読者の頭に明確に浮かぶ。巻末の謝辞