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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2021年2月の記事一覧

いまさらでも噛み締めるー読書感想「昭和史1926-1945」(半藤一利さん)

いまさらでも噛み締めるー読書感想「昭和史1926-1945」(半藤一利さん)

半藤一利さんの訃報に接して「昭和史1926-1945」を読みました。こんなにも面白い本をなぜ今まで読まなかったのだろう。本当であれば生前に拝読し、出版社や著者ご本人に「素晴らしい本をありがとうございます」と伝えたかったし、伝えるべきだった。それでも、いまさらでも残された言葉を噛み締めたいと思う。「歴史は決して学ばなければ教えてくれない」(p507)のだから。(平凡社ライブラリー、2009年6月11

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水面下を育てるー読書感想「英語独習法」(今井むつみさん)

水面下を育てるー読書感想「英語独習法」(今井むつみさん)

本書にはあらゆる学びにつながる本質が書かれていました。今井むつみさん「英語独習法」。聞くだけとか、大量に英語に触れるとか、巷に溢れる英語学習テクニックで「結局は英語が身につかないのはなぜか?」を認知心理学から明らかにする。では、言葉を身につけるためにはなにが必要か。それが知識の水面下に広がる「スキーマ」。読み進めるたびになるほど!とうなりました。(岩波新書、2020年12月18日初版)

スキーマ

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償いは今も可能なのかー読書感想「夜の谷を行く」(桐野夏生さん)

償いは今も可能なのかー読書感想「夜の谷を行く」(桐野夏生さん)

罪を償うことは可能なのか。現代においても可能なのか。桐野夏生さん「夜の谷を行く」を読んで問いがぐるぐる頭を回っている。1970年代の「連合赤軍事件」で凄惨なリンチに加担し、服役を終えた主人公の女性。なるべくひっそりと暮らそうとしていた2011年、さまざまな転機が訪れる。過去が追いかけるようにやってくる物語は、読んでいるこちらが苦しくなる。でも目が離せなかった。(文春文庫、2020年3月10日初版)

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「損なわれること」の見えにくさー読書感想「デフ・ヴォイス」(丸山正樹さん)

「損なわれること」の見えにくさー読書感想「デフ・ヴォイス」(丸山正樹さん)

差別される人の気持ちを「分かる」ことは、どうしてこうも難しいのか?丸山正樹さんの小説「デフ・ヴォイス」はこの問いを考えるための手掛かりになってくれた。テーマは聴覚障害者の世界。さらに「耳が聴こえない家族に育つ、耳の聴こえる主人公」という、極めて珍しい設定が目を引く。しかし、連れ出されるストーリーは骨太で、決して気をてらったものではない。そして始終あたまを巡るのは、普遍的な差別の問題。「損なわれるこ

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差別される側を襲う二重の暴力ー読書感想「ニッケル・ボーイズ」(コルソン・ホワイトヘッドさん)

差別される側を襲う二重の暴力ー読書感想「ニッケル・ボーイズ」(コルソン・ホワイトヘッドさん)

差別の理不尽は「二重」である。そのことを教えてくれる小説でした。コルソン・ホワイトヘッドさん「ニッケル・ボーイズ」。1960年代米国、キング牧師のレコードを擦り切れるまで聞いて、公民権運動に希望を抱いていた黒人の高校生が、冤罪で少年院に送られる。そこは白人による暴力が支配する地獄だった。文体はあくまでクールなのに、描かれる暴力はどこまでも痛々しい。いま現実に起きる差別を考える手掛かりにもなりました

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コーヒーの香りがする小説ー読書感想「シカゴ・ブルース」(フレドリック・ブラウンさん)

コーヒーの香りがする小説ー読書感想「シカゴ・ブルース」(フレドリック・ブラウンさん)

人はタフでいるためにコーヒーを必要とする。長い夜を越えるために、大切な話を心の中で整理するために。フレドリック・ブラウンさん「シカゴ・ブルース」は、コーヒーの香りがかぐわしく漂う。シカゴの路地裏で強盗に父親を奪われた18歳のエド。自由人アンブローズおじさんと共に素人捜査で犯人を追う中で、エドは少しずつ大人になる。クールで、骨太な物語。ピアノジャズのように静かに胸に迫ってくる、素敵な読書体験ができま

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