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#小説
天の燃ゆる火の戸 #むつぎ大賞2024
蘭領は、ていうい島を経って翌朝のこと。白煙に包まれた『あぎとの入り江』をこの目にした。京都から千五百里を越える南の果て。都人からすればあの世にも等しかろう。
入り江の海面から絶えず湯けむりが立ち昇っている。周囲には山はおろか岡と呼べるほどの起伏も無い。全き平ら。白砂は途絶えることなく内地まで続いており、地平の果ての方にようやく山々が見えるほどだ。
あの蒸気の下にいかなる火山があるのか。そ
[パンとソーセージ、絵本] #パルプアドベントカレンダー2023
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火に呑まれていく凧を捨て、冬空へと飛び出した。燃料に引火した凧はあっという間に火だるまになって落ちていく。
明日からどう生きて行くんだ。偵察兵が凧を失って、どうすればいい?
白銀の冬山の間へと落ちていく最中、真っ先に思ったのはそんなこと。いま助かるかも、まだわからないというのに。
山の中腹で炎がいくつも光る。温泉旅館組合の建物上にずらりと並んだ石弓が次々に火矢を放ち、周囲の空気
疾駆天救 雷鳥騎士団
トナカイが陽光を蹴って降りていく。光は頭上に広がる大地のひび割れから無数に差し込んでくるが、広大な地下世界を照らすにはまるで足りない。虚無と黒雲と、遠くから聞こえてくる波音が全ての生き物の心を苛む。
乗騎の背で男は目を凝らした。その目にはそびえ立つ世界亀の足が映っている。どんな大木も比較にならない巨大な足。そのにび色の岩肌に生気は無い。だがその色を背景にひらひらと舞う白い花びらがあった。
異能俯瞰演義-ヤタガラス、人魂を狩る-
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小島花菜実は、鬼の顔をしていた。
夜空を炎が赤く染めている。アスファルト道路に改造バイクだったものが散乱し、熱と煙をふりまいていた。白いジャージ姿の男たちはまだ生きている。舗装の上に横たわり、震えながら呻いている。そのうちの一人が炎を睨んで悪態をつくのが聞こえた。
炎がその男を踏みしめた。軽く、どこかいたわる様に恐る恐る。しかし、なにかで目にしたような仕草でしっかりと、呻く男の背
ファーザークリスマス・アンド・レッドドラゴン #パルプアドベントカレンダー2020
■1 季節外れの黒雲が夕日を押し退けて広がり、荒く波立つ海を星々から隠しつつある。しかし、闇が島へ達するにはいま少しの時間があった。
カリブ海でも特に小さいその島は起伏が少なく、傾いた夕日でも島の全てに届く。島の南に固まっているイスパニア人の港や原住民の村、ヤシやパインの林だけが斜陽を受け、濃い闇を伴っていた。
闇の中から炎が放たれた。ヌエバ・グラナダ副王麾下の黒服達が、松明を手にぞろぞろ
ザ・メガロシティ・ザット・キング・オブ・ポップ #ヘッズ一次創作SFアンソロ #小説
□これはなんですか?これはヘッズ一次創作SFアンソロジーに掲載いただいた短編小説です。
同アンソロジーのテーマは『メガロシティ』。
お楽しみいただければ幸いです。
■ 手足を振り回し、ベッドの上に身を起こす。ダンスホールほどもある寝室は夜だと言うのに明るい。分厚いカーテンとアルミホイルで覆った窓から外の光が侵入している。
ベッドを踏みしだいて飛び降り、床に折り重なる雑誌を蹴飛ばした。
『ヌ
#同じテーマで小説を書こう お菓子の家
シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムの休日は盗品をもてあそんで悦に入ることから始まる。バウハウスの酔狂者が乗る一輪車から抜いたネジを指先で転がし、その感触を楽しむのだ。
シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムはバウハウスへ留学してきたイギリス人である。くるくると渦巻く鮮やかな栗毛と、雨粒の一つ一つを見分けられそうなほどよく動く大きな瞳が特徴の美女だった。フランス人の叔母がいると
期末試験範囲と、あの子のメッセージ
■第一回かぐやSFコンテスト応募作 夕暮れ時、テルヒコは家路を駆けていた。人気のない農地沿いの道を蹴って走ると、彼の前にハードルが現れる。リズムをつけてそれを飛び越した途端、障害物は股下で光の塵になって消え、視界の隅の得点欄が上昇した。
『OK、今日の体育ノルマ達成です』
少年は勢いを緩めずに障害物走を続ける。バイザー隅の数字は動かない一方で、AR障害物は花火のように弾けて行く。行く手に人影
そのあぎとが見えるか
はじめに骨組みが歪んだ。
赤いさび止め塗料がぼろぼろと剥がれ落ち、クレーンの骨組みが歪んでいく。曇り空がまた一段、薄暗さを増した気がした。僕も、周りの連中も、強風に煽られて立っていることができず床に這いつくばる。
錆び付いたドアを開くような音が鼓膜に殴り掛かってきた。クレーンの金属があげるその悲鳴が辺りを打ち据え、誰もが耳をふさぐ。
クレーンは泣き、暴れ、歪められていく。いつだかテレ
僕、蜘蛛の糸電話、彼女
『ハイ、トビオ』
「や、ビスズ」
通信が入ってすぐに天の川銀河を見る。海王星軌道上から見える超銀河団は瞬きも身じろぎもしない。その向こうに彼女たちがいると、知識の上でわかっていても目に見えるものなんてありはしない。
「早いな。今日は天気が良いのか」
『”ぼちぼちでんな”』
思わず口笛がついて出た。
『作業日和とは言えないわね。赤銅星の親子は今日も馬鹿騒ぎの真っ最中』
「そりゃ”触覚に障