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ハネネズミと死――ミステリとしての石黒達昌

「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士.並びに,」は、石黒達昌の短篇です。正確に言えば短篇そのものは無題で、「平成3年……」は、その冒頭の…

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3か月前
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下手人小話――犯罪者を意味する言葉

1.必ず下手人を見つけてやる!  江戸の夜に蝋燭が揺らめき、切れ者の十手持ちが呟きます。 「くそっ、必ず下手人を見つけてやる」  捕物帳でありそうな場面です。  …

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3か月前
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踏み込みが語る来し方――殺陣と人物描写

 去年の12月に怪我を負って、しばらく療養していたのですが、その怪我の原因を記録しておきます。  人に、説明をしていたのです。  映像作品の基本は脚本だと思ってい…

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6か月前
7

文学としてのマリオ――ゲームは「死」をどう描いたか

1.穴に落ちたマリオ  マリオが穴に落ちて軽快に1ミスの音楽が流れ、暗転した画面に「WORLD 1-1」と再表示され、次のマリオが再びスタートラインに立った時、穴に落ち…

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7か月前
7

花も花なれと詠んだのは――ガラシャの「辞世」

 何の折りだったのかは忘れたのですが、ガラシャの辞世が小説でどう書かれているか知りたくなって、手近にあったので山田風太郎を開いたことがあります。「忍法ガラシャの…

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7か月前
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可能性のない若者、ある若者、そして警官――『21ブリッジ』

『21ブリッジ』(2021アメリカ ブライアン・カーク監督)、緊張感に満ちて美点の多い映画だった。これは三人の映画だ。  可能性のない若者。  可能性のある若者。  そ…

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7か月前
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とどろけ我が心、と頼政は言った(か?)

 事の始まりは塚本邦雄の『王朝百首』で、ほうほうと思いながら読んでいたら、  という歌がありまして、これがまあ、すごくいい。  どこがいいかと言いますとですね、…

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7か月前
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ハネネズミと死――ミステリとしての石黒達昌

ハネネズミと死――ミステリとしての石黒達昌

「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士.並びに,」は、石黒達昌の短篇です。正確に言えば短篇そのものは無題で、「平成3年……」は、その冒頭の文章となります。
 以下の文章は「平成3年……」のネタバレを含む……というか、ネタバレそのものです。

「平成3年……」は、第110回芥川賞候補に挙げられたことでも知られています。
 長らく手に入れにくい短篇でしたが、2021年、伴名

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下手人小話――犯罪者を意味する言葉

下手人小話――犯罪者を意味する言葉


1.必ず下手人を見つけてやる!
 江戸の夜に蝋燭が揺らめき、切れ者の十手持ちが呟きます。
「くそっ、必ず下手人を見つけてやる」
 捕物帳でありそうな場面です。
 ここで疑問が出ます。彼が口にする言葉は、「下手人」でいいのでしょうか。

 いま辞書を引けば、下手人はこう書かれています。

 切れ者の十手持ちが言っているのは、(1)、「殺人者」の意味でしょう。
 そして上記の(3)にあるように江戸時

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踏み込みが語る来し方――殺陣と人物描写

踏み込みが語る来し方――殺陣と人物描写

 去年の12月に怪我を負って、しばらく療養していたのですが、その怪我の原因を記録しておきます。

 人に、説明をしていたのです。

 映像作品の基本は脚本だと思っています。お話を良くするのも悪くするのも、基本は脚本。音楽や映像の力もそれはそれは強いものですが、破綻した脚本は何をもってしても救うことはできません。
 ただ、時に、ほんの小さな芝居が数十行の脚本に勝ってしまうのも、映像作品の魅力です。

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文学としてのマリオ――ゲームは「死」をどう描いたか

文学としてのマリオ――ゲームは「死」をどう描いたか


1.穴に落ちたマリオ

 マリオが穴に落ちて軽快に1ミスの音楽が流れ、暗転した画面に「WORLD 1-1」と再表示され、次のマリオが再びスタートラインに立った時、穴に落ちたマリオはどうなったのか考えたことはないでしょうか。

 人生は一回限りであり、死者は甦りません。しかし一回死んだらすべて終わりでは、ゲームにならないのも確かです。

 ゲームの主役が無機質なマークに過ぎない場合、その死と再生に

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花も花なれと詠んだのは――ガラシャの「辞世」

花も花なれと詠んだのは――ガラシャの「辞世」

 何の折りだったのかは忘れたのですが、ガラシャの辞世が小説でどう書かれているか知りたくなって、手近にあったので山田風太郎を開いたことがあります。「忍法ガラシャの棺」だったかと。
 ところが、作中のガラシャは辞世を詠んでいない。あれ? と思いましたですよ。
 ガラシャの辞世と言えばなんといっても、

 で、ガラシャを扱った本の題名にも、しばしば採られています。
 こう、なんといいますか、実に山田風太

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可能性のない若者、ある若者、そして警官――『21ブリッジ』

可能性のない若者、ある若者、そして警官――『21ブリッジ』

『21ブリッジ』(2021アメリカ ブライアン・カーク監督)、緊張感に満ちて美点の多い映画だった。これは三人の映画だ。
 可能性のない若者。
 可能性のある若者。
 そして警官。

可能性のない若者 貧しい白人レイ(テイラー・キッチュ)がよかった。
 ニューヨークはマンハッタン島で麻薬強盗を試み、はからずも警官隊と銃撃戦になったレイは、被弾して倒れた警官たちにとどめの銃弾を撃ち込んでいく。
 ここ

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とどろけ我が心、と頼政は言った(か?)

とどろけ我が心、と頼政は言った(か?)

 事の始まりは塚本邦雄の『王朝百首』で、ほうほうと思いながら読んでいたら、

 という歌がありまして、これがまあ、すごくいい。
 どこがいいかと言いますとですね、「花咲かば告げよと言ひし山守の来る音すなり」までなら、ほかの誰かも詠むんじゃないかなとは思うんです。
 では最後の七音、どうするか。

 よくある感じだったら、「心ワクワク」とか「君を誘うね」とか、あるいは誇大比喩で「花の神かな?」とか、

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