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温泉に上手く入れない。
温泉は昔から好きだ。
なのに、最近になって上手く入れなくなってきた。
気づかぬうちに、のぼせてしまうのだ。
どうも、思い出が快適な温泉ライフの邪魔をするらしい。
24歳ともなると、温泉で生まれる思い出も少なからずある。
壮大な山々に囲まれた地で、厳かな空気を感じて浸かる、秩父の湯。
叶わぬ恋に泣く僕を、夜ごと優しく包んだ、北国の湯。
退職の折に誘われ、励ましの声に笑い涙した、都会のスーパー銭湯
所有が上手くできない。
僕は、上手く所有することができない。
所有とは、どんな状態を言うのだろう。
たとえば、車を買ったとする。
買ってから、車を乗り回す。
これが、車を所有するということなのだろうか。
そしていつか、車が壊れるときが来る。
乗れなくなるときが来る。
それでも、車を所有していることに違いは無いはずだ。
所有することで得られるものは、何か。
それは、便利さか。
はたまた、優越感か。
それは所有す
自己紹介が上手くできない
こんにちは。
自己紹介が上手くできない、だりあです。
自己紹介が得意な人って、それだけで尊敬に値しますよね。
職場で何かと苦労があったり介護が必要になった家族がいたりした挙句、
一念発起してフリーランスのライターとなりまして、
そんな生活も2ヶ月が過ぎようというところです。
今では、それなりの収入とそれなりの時間を胸に抱き、それなりの性欲をそれなりに解消する日々を送ることができています。
【モチーフ小説】にじむ汗と熱
身体を動かさない日があると、心の中まで鈍ってしまうような感じがした。
こんなところで立ち止まっているわけには行かないのに。
けれど、ときどき勝手に開かれる、余分な扉。
私を踊りに夢中にさせたのが環境ならば、私を男から遠ざけたのも環境だ。
なんだか、その事で損ばかりしている気がする。
実際には、そうでもないのかもしれないけれど。
情感が足りない、と講師はいった。
私の踊りには、情感が欠けている。
【小説】ナンパの流儀
これこれ。お嬢さん、お待ちなさい。
そこの、あなた、である。
時間を、持て余しては、いまいか。
私に付き合う気は、あるまいか。
面白い処へ、連れていってあげよう。
ちょいと、こら。
話は最後まで聞かないか。
これ。そこの、ご令嬢。
時間を、持て余しているようだ。
私と、来ないか。
そうか。来ないか。
なになに。
偉そうな口調が、気に食わないと。
ごめんください。
少し、お時間、いただけますか。
【小説】出版のおわり
あとがき
さて、本号をもって月刊【芋虫を舐める】は、ついに休刊となる。
創刊から300余年もの間、この月刊誌を購読し、我々の巣【百済内出版】を応援し、編集部を鼓舞してくださった読者諸兄には、しても仕切れない感謝の念がある。この地獄のような出版会を切磋琢磨するなかで蹂躙された諸出版社を横目に、我々は出涸らしの血を流しきり、食い潰された肉を奮い立たせて、ただひたすらに本を刷り続けた。この事を誇りに
【モチーフ小説】どうぞ、お大事に
先週から薬の種類と量が増えた。
あわせて飲む水の量も増えるから、薬を飲めば空腹も幾らか紛れるのがせめてもの救いに思えた。
窓の景色を、左から右に鳥が横切るのが見える。
彼らは朝を知っている。
彼らは夜を知っている。
朝に起きて夜に眠る、
そんな人間らしい生活を最後に送ったのはいつの事だったか分からない。
眠気に鈍感になった私の身体は重量をも手放し、指で軽く触れれば崩れる危うさを手に入れて、空気