「世界」と「日本」の高齢化の現状と未来 - 超高齢社会とデザイン①
まず、様々な社会的なデータを可視化しているPopulation Pyramid.netの作成した世界の人口ピラミッドを見てみましょう。
上記画像にある通り、人口ピラミッドでは2019年時点での世界人口は7,713,468,205人であり、そこに含まれる高齢者の数は702,935,013人と示されています。これにより、2019年時点での世界的な高齢化率は約9%であることがわかります。
では、日本における高齢化率はどの程度なのでしょうか?
世界の中での日本の高齢化率と速度
同じく、Population Pyramid.netの人口ピラミッドによると、2019年時点で日本の総人口は、126,860,299人と示されています。これに対して、高齢者の数は35,524,139人で高齢化率は約28%です。
皆さんはこの数字を見てどうお考えでしょうか?
日本における高齢化の深刻さは、高齢化率という数字にもハッキリと示されています。また、日本においては高齢化と共に、出生率の低下等に伴う少子化、若者(生産年齢人口)の減少などの社会問題も存在します。もしこのような社会問題が続く場合の未来がどのような状況になるのか、想像することは容易なのではないでしょうか。
しかし、先進国と開発途上国とでも差がある世界人口においての高齢化率と、限定的な日本の高齢化率を比べるのでは、見当違いになりかねません。
そこで、より具体的に日本の高齢化に言及されている内閣府の提出した『令和2年版高齢社会白書』を見ていこうと思います。
上記画像の「世界の高齢化率の推移」のグラフを見ると、全世界的に(特に先進国において)著しい高齢化が見られるものの、とりわけ、日本の高齢化率は高く、全世界のトップに位置していることがわかります。
具体的に欧米諸国やアジア諸国と比べても、日本の高齢化率は非常に高いです。
高齢化速度に関しても同様のことが言えます。上記画像の「主要国における高齢化率が7%から14%へ要した期間」を見ると、フランスでは126年、アメリカでは72年、英国では46年を要しているにも関わらず、日本においては24年ほどで14%に達しています。24年という短さは、歴史的時代背景なども踏まえると一概に他国と比較すればいいという訳ではありませんが、日本の高齢化の深刻さを物語る数字であると考えられます。そして近い将来、その他アジア圏の国々である韓国や中国、シンガポールにおいては、今後日本よりも早い速度で高齢化が進むと考えられています。
ここまで日本が高齢化先進国である現状を様々な情報を元にまとめましたが、ここで一度視点を世界に戻しと思います。
世界で注目される高齢化問題
ここまでに記してきた様々な資料においても分かる通り、国ごとに差異はありつつも、全世界規模で高齢化は進んでいます。
ここからは、世界中の様々な業界から高齢化問題が注目されている具体的な動向を見ていきたいと思います。
2015年から開催されている、ジョン・マエダ氏によるDesign in Tech(現CX Report)の2018年度版である「Design in Tech Report 2018」においては、ビジネスやテクノロジー、デザインの観点から世界的な高齢化に関して言及されている場面がありました。
上記のスライドでは、「ジェネレーションZとミレニアル世代を超えて:ジェネレーションB(older)」という題目のもと、
という3項目を取り上げていました。
次に、世界中の国々に拠点を持つ世界銀行でも高齢化問題に対する動向が見られます。
世界銀行のホームページには、「Disability Inclusion」というページがあります。このページには、世界において10億人、約15%もの人が何らかの障害を抱えていることに言及されています。もちろん障害を抱える人々の中には、高齢化による障害も含まれています。これらの人々に対する社会的包摂を完全に行うためには、地理的問題や、技術的問題、提供されたサービスのギャップや、様々な社会的なスティグマ等、多くの問題が存在するということを認識しなければいけない、と示されています。このようなページが存在するということは、障害を抱える方々の社会的包摂を進める重要性が世界的に高まっていると考えられます。
出典:「World Bank Group」https://www.worldbank.org/en/topic/disability
他方では、経済の観点でも高齢化問題に対して言及されている場面が見受けられます。
「Digital leaders」というwebサイトには、アクセシブルなデジタルプロダクトなどの開発援助等を行う会社である「AbilityNet」のCMO兼CCOのMark Walker氏が書いた記事があります。当記事では、障害者のニーズを理解して、アクセシビリティの向上に取り組む企業的価値に関して言及されています。
Mark Walker氏によると、現在、世界における障害者の市場規模は6兆ドルで、中国の市場規模と同等であるとされています。そして、英国では、600万人ほどの人が何らかの障害を抱えており、彼らの抱える、失読症、パーキンソン病、MND、関節炎、背中の痛みなどの障害は、今後全人口の高齢化に伴い、特殊なものでは無く、より一般的なものとして認識されだろうと考えられているとの事です。要するに、高齢者の割合が増えるに従って、白内障や腰痛、関節痛などの病気を持つ人々がマジョリティとなり、これらの高齢化に伴う病状は、元々障害を抱える人々の病状と酷似しているということです。これを踏まえてMark Walker氏は、企業が高齢者を含む障害者に対して包摂的なアクセシビリティの向上に取り組む必要性を示唆しています。
「Disabled World」というサイトには世界人口に関する様々な情報が載せられています。
当然のことながら、「Disabled World」にも全世界における高齢化の現状に関して言及されているページがあります。そこには、60歳以上の方々の46%が何らかの障害を抱えて生活している事や、世界の60歳以上の人口が年間3.26%増加している事などが記載されています。
高齢者が増えるとどうなる?
ここまでは、「高齢者が増えている現状」や「全世界的な高齢化問題に対しての関心の高まり」を見てきました。
ここからは、日本では人口急減と超高齢化社会においてどのような問題が発生すると考えられているのかを見ていきます。
本章においては、内閣府の発表した「令和四年度版高齢社会白書」と、内閣府のホームページ「第二章 人口・経済・地域社会の将来像」を基本にまとめます。
内閣府ホームページの「人口急減・超高齢化の問題点」というページには、人口急減と超高齢化がもたらす経済社会への影響が以下の四つの項目にまとめられています。
一つ一つの項目に分けて詳しく、見ていきたいと思います。
1.経済規模の縮小
人口オーナスと縮小スパイラルが経済成長のブレーキに
1つ目の項目においてキーワードとなるのが、「人口オーナス」と「縮小スパイラル」です。
経済成長というのは、担い手である「労働力人口」によって左右されます。
「労働力人口」というのは、主に下記に分類されているように、15歳以上人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせた「人口」のことを指します。
そして、総人口に対して「労働力人口」の割合が50%を下回ると、働く人よりも支えられる人の方が多くなり、「労働者人口」の減少が経済成長にマイナスの影響を与え続けることになります。この状態を「人口オーナス」と呼びます。またその逆の状態を「人口ボーナス」と言います。
「人口オーナス」がなんなのか理解した上で、総務省統計局の「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要」を見ると、「労働力人口」は、2021年平均で約6,860万人であり、前年に比べ約8万人の減少(2年連続の減少)をしていることがわかります。
内閣府の試算によると、このまま人口急減と高齢化の流れが続く場合、労働力人口は2030年には5,683万人、2060年には3,795万人にまで低下し、総人に占める労働力人口の割合でいうと44%まで低下すると予想されています。
この状態はまさに、「人口オーナス」そのものだと考えられます。
次に、「縮小スパイラル」とは何なのでしょうか?
急速な人口減少は、国内市場の規模を縮小させていきます。国内市場規模が縮小するにつれて、投資先としての魅力の低下が起こり、それに伴い人々が市場に集積することが無くなっていきます。そうすると、人々の交流により生まれていたイノベーションが起こりづらくなり、結果的に経済の成長が低下します。
また先述したような「人口オーナス」の状態になる、もしくはそこまではならなくとも、「労働力人口」が減少していっている場合、労働力の低下を補うために個々人の労働時間が長期化し、少子化を助長しかねません。
このような状況が続くと、次第に、人口急減や超高齢化による経済や社会へのマイナスの影響が、需要面・供給面の両面にマイナスの相乗効果を発揮し始めてしまいます。こうして、一旦経済規模の縮小が始まると、それが更なる縮小を招くようになり、このような負のスパイラルに陥った状態を「縮小スパイラル」と言います。
このように、超高齢化に伴う問題の一つ目の項目では、上述したような「人口オーナス」と「縮小スパイラル」による経済成長の妨げが問題視されています。
2.基礎自治体の担い手の減少、東京圏の高齢化
このままの推移で地方から都市部への人口流出が続いていく場合、「2040年に20~30代の女性人口が対2010年比で5割以上減少する自治体が896市町村(全体の49.8%)、うち2040年に地方自治体の総人口が1万人未満となる地方自治体が523市町村(全体の29.1%)と推計されている(日本創成会議人口減少問題検討分科会推計)」(引用元:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_3.html)とのことです。
日本創成会議のホームページには「人口移動が収束しない場合の全国市区町村別2040年推計人口」が地図として可視化され、公開されています。
地図上の、一番濃い黒色の部分が「2040年時点で若年女性50%以上減少し、人口が一万人未満の市区町村」です。これを見ても、多くの市区町村で、都市部への人口流出による若年女性数の低下や、出生率の低下により人口が急減した未来を想起することが出来ます。
地方の人口の減少により、自治体の運営が立ち行かなくなる状況が予想されています。
また、少し視点を変えて、国立社会保障・人口問題研究所の提出した推計である「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」を見ると、2030年以降全ての都道府県で総人口が一貫して減少すると予想されています。
この2点を踏まえると、今後の日本においては、地方での人口減少のみならず、都市部(東京圏)を含むすべての都道府県で人口が減少していくことが予想出来ます。また現状のまま人口が推移していく場合、東京圏においても人口の減少と高齢化が発生することがわかっており、「東京圏のグローバル都市としての活力の喪失」や、「資産の有無に限らず高齢者が適切な補償を受けられない状況」が併発すると考えられています。
このように、超高齢化に伴う問題の2つ目の項目では、地方から都市部への人口流出に伴う、地方の人口減少によって地方自治体の運営可能性が危ぶまれており、また将来的には全都道府県で人口減少と高齢化が進み、東京圏での高齢化も始まることが問題視されています。
3.社会保障制度と財政の持続可能性
3つ目の問題点として、高齢者1人当たりを支える現役世代数(生産年齢人口)の問題が挙げられます。
昭和25年には高齢者1人当たり、現役世代(15〜64歳)が12.1人いたのに対し、令和2年には現役世代が2.1人まで減少している事がわかります。今後も高齢者の割合は増加すると考えられており、令和47年には、高齢者1人に対して、現役世代が1.3人という比率になると予想されています。
このように、高齢者と現役世代の人口が一対一に近づく社会のことを「肩車社会」と呼びます。
少子高齢化の進行による「肩車社会」において、医療・介護費用等の社会保障の給付と負担の間はアンバランスになっていくと考えられます。
また、労働力人口の低下など様々な要因により、企業や家計の貯蓄が減少していく一方で、財政赤字は続きます。もしもその状態が続いた場合、「経常収支黒字」は構造的に縮小し、国債の消化を海外に依存せざるを得ない状況となると予想されます。その結果、「利払い費負担」が増加するおそれがあり、国際金融市場のショックに対して脆弱な構造になっていくと考えられています。将来的に、財政赤字を克服出来なければ、財政の国際的な信認を損ない、財政破綻へと向かってしまいます。
このように、超高齢化に伴う問題の3つ目の項目としては、「肩車社会」においての社会保障制度や財政の持続可能性が危ぶまれることが問題視されています。
4.理想の子ども数を持てない社会
国立社会保障・人口問題研究所では、約5年おきに、「出生動向基本調査」を行なっています。「出生動向基本調査」というのは、以下の通りの目的・方法で行う調査です。
2010年に行なった「出生動向基本調査」では、夫婦にたずねた理想的な子供の数の平均は、2.42人で、実際の子供の数の平均は1.71人であることがわかります。理想と現実の数にはギャップがあることがわかります。また、1977年の同調査では、理想的な子ども数は2.61人で現存子ども数は1.85であり、理想も現実も共に減少傾向にあると考えられます。
2021年にも同調査が行われており、上記画像の表を見る限り、理想の子供数も予定子供数も一貫して減少傾向にあることがわかります。
高齢化の進行は労働力人口の減少を引き起こし、現役世代の負担が大きくなっていきます。そのため、複合的に様々な問題を併発する可能性を孕んでおり、このような出生数に関わる問題にも繋がりかねません。
超高齢化に伴う問題の4つ目の項目では、高齢化が間接的に、出生率の低下にも繋がりかねない可能性を問題視しています。
まとめ
私たちCULUMUが全4回に分けて行う「高齢化問題」に関する連載記事の第1回目、いかがでしたでしょうか?
第1回目は『「世界」と「日本」での高齢化の現状と未来』という題目のもと、「世界」と「日本」での高齢化の現状や高齢化が進んだ先の未来予測を様々な資料をもとに捉え直しました。
そして、我々の住む日本は世界中を見ても稀に見る高齢化先進国であることがわかりました。本記事の最終章では、内閣府の考えている人口急減・超高齢化によって起こりうる4つの問題点を一つ一つ見ていきました。
ここまでを踏まえて、次回からは高齢者が抱える問題を具体的な事例に基づいて紹介していく予定です。
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