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#エッセイ

全てが無常なら、瞬間は永遠になるのか

全てが無常なら、瞬間は永遠になるのか

 ドストエフスキー『地下室の手記』にリーザという娼婦が出てくる。当時のロシアの娼婦というのは、今の「風俗嬢」とは全く違い、地位が低く、悲惨な人生の人たちだった。
 
 リーザは、自分を買った客である主人公の男に、自慢をしたくて、ある手紙を見せる。それは彼女に思いを寄せる学生からのラブレターだ。
 
 彼女が主人公に手紙を見せたがったのは、自分は今はこんな風に落ちぶれた身分だが、かつては決してそうで

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「教養」のある文章を書く為に

 例えば、ある評論家がある作家をこき下ろす。それだけ読むと、その作家はもう用済み、コテンパンに打ちのめされて、もう読まなくてもいい存在であるような気がしてくる。
 
 しかし実際に、その作家の書いたものを読むと、彼には彼なりの言い分があって、彼には彼の世界があるし、彼の言っている事も正しいように思えてくる。こうして、読者は、自分が明白な意見を持ち得ない事に不安を感じてくる。
 
 この「不安」とい

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社会的解決としての「愚かさ」

社会的解決としての「愚かさ」

 テレビでは健康食品のコマーシャルがよく流れている。七十代でもまだ元気、八十代でもまだ元気。いつまでも元気でいられるような、体に良い健康食品がやたら宣伝されている。
 
 先日、テレビを見ていたら老後にはいくらぐらい金が必要かというのを、専門家が教えていた。この専門家というのは金融のプロだそうだ。
 
 あるいは、医者は、人間の身体を良くするようなアドバイスをくれたり、薬をくれたり、そういう施術を

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福田恆存と三島由紀夫の違い

福田恆存と三島由紀夫の違い

 福田恆存の思想について知りたくて図書館に行ってきました。三島由紀夫全集の中の対談が載っている巻を取り出し、ぱらぱらと読みました。
 
 福田について知りたくて三島との対談を読んだのは、どうやらその対談で福田の思想が鮮明になりそうだ、と踏んだからでした。
 
 結果から言うと、福田の言わんとする事の理解も深まったとは思いますが、それ以上に、三島由紀夫についても理解が深まった気がします。
 
 福田

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神無くして原罪あり  ー芥川と太宰ー

神無くして原罪あり  ー芥川と太宰ー

 福田恆存を読んでいたら、日本近代文学について述べたところで「日本の近代文学は神は不在だったが、原罪はあった」というような文章に出会い、(そうだよなあ)と考え込んでしまった。
 
 私が知っている限りでは太宰治が当にそういう状況を体現していた。太宰がキリストというものへの関心を示し続けたのは、太宰において、そして日本近代文学においては「神はいないが原罪はある」という状況だったからだ。
 
 神はい

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