マガジンのカバー画像

まなかい ローカル72候マラソン

71
まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
運営しているクリエイター

#花

まなかい;冬至 第65候『麋角解(しかのつのおつる)』

まなかい;冬至 第65候『麋角解(しかのつのおつる)』

鹿に憧れる。

頭に2本も「木」が生えているから。

きっと角は依代。アンテナ。

そういえば、門松は一対だ。

赤坂氷川神社に奉納させていただいた「花手水」は、お正月らしくということで、横に渡した竹に一対の竹の器を立て、苔のついた槇、松、白梅を挿した。苔の生えた槇の古木はちょっと威厳のある角にも見える。松は千代の命を寿ぐ。

鹿の角は木にそっくりだから、あの角に花が咲き、葉っぱが生え、実がなった

もっとみる
秋分;第48候・水始涸(みずはじめてかる)

秋分;第48候・水始涸(みずはじめてかる)

涸れるは枯れる、渇れる、嗄れると通じて、それは水分が抜けていき、いのちが離(か)れる、そうやって水分が抜けると軽くなる、空になって、虚ろと成って、仮の場になるということ。

花を生ける日々はありがたいことに、その感触を手に取ることができる。

ありったけの水分は実に閉じ込め、あとは色づくばかりの木瓜。棘のある枝の素型(すがた)を。紅葉した錦木。割れて顔を出す赤い実。日が短くなり、光合成するクロロフ

もっとみる
立秋;第39候・蒙霧升降(ふかききりまとう)

立秋;第39候・蒙霧升降(ふかききりまとう)

信州の山あいの集落。少年時代を過ごした場所から尾根を一つ超えたこの土地に、この頃なぜか惹かれ、帰郷すると立ち寄っている。「お姫尊(お姫様)」と地元で呼ばれる大岩があって、小さい頃遠足で行った。

下のお宮のお祭りに一度か二度来たことがあったっけ。小さい頃はたくさんある小さなお宮それぞれで秋祭りがあってとにかく行くのが楽しかった。ちょっとずつ雰囲気が違うし、中学生くらいになるとちょっと遠くに友達がで

もっとみる
立秋;第37候・涼風至(すづかぜいたる)

立秋;第37候・涼風至(すづかぜいたる)

この夏の東京で今頃涼しい秋立つ風を感じられる人はまずいない、そう言いたくなるくらい秋立つ気配は微かだ。涼風を待ち望む人がどんなに多いことか。

飢えた僕は信州での仕事のついでもあって

標高1500メートルの高原へ行く。あの場所へ行けば、彼らに逢える。高原の風に浸ることができる。

名残のニッコウキスゲが揺れている。

オレンジ色の渋いコウリンカには、月夜に出会ったことがあって好きな花だ。

アカ

もっとみる
夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

ノハナショウブ。

江戸時代に伊勢系、江戸系、肥後系など、たくさんの品種が作出されることになる日本に自生する花菖蒲の親。カキツバタや陸生のアヤメはむしろその野性味が尊ばれたのか、変わり種が少ない。ハナショウブの園芸品種の多さは別格だ。

アヤメの仲間はどれも万緑に紫が映え、五月雨の露に色っぽくもある。葉の形は刀に見立てられるように、空を指す様子が凛々しい。

田んぼを作るような湿地にかつてはたくさ

もっとみる
夏至;第28候・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至;第28候・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至の前の日、故郷へ。この時期に帰ってきたのは久しぶりだ。

ここのところ帰れば必ず立ち寄る棚田から見た夕景。18時でまだこんなに明るい。

北欧などでは夏至の朝、森に入って花を摘み飾ったり冠を作ったりして身につける。

夏至の日の朝露はエネルギーが高く、朝露と朝陽を浴びた花々はとりわけ美しく幸福を招くとされる。そんな意味合いも込めて母親へ贈る花を束ねた。

乃東=夏枯草=靫草はシソの仲間。そうい

もっとみる
芒種 第26候・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)

芒種 第26候・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)

腐れたる草が蛍となる。

腐った草が蛍になるなんて、、、ちょっと不思議です。

草が腐って、蛍になるのではなく、腐った草も蛍の命の部分になっている。草の中に沢山の細胞が生きていました。それぞれに生命誌が刻まれています。蛍も沢山の細胞が形作っています。かたちは一度無くなりますが、魂はずっと転生していく。個体と固体の話ではなく、生き物は全て死に、そうして次の命の場所になるということ。日本の言葉では「死

もっとみる
芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

冷房が効かないので

窓を開けて車を走らせていると

どこからやってきたのか

蟷螂の子がフロントガラスを斜めに翔けていく

たった一匹

梅雨入り前の途方も無く広い空を眼下に

二つの鎌を立て

身を反らせて

三角まなこはみどりの粒で

あんなにも軽々とあらわれて

もう会えない

花を活ける仕事をしていると

稀に蟷螂の卵が付いている枝がある

捨てられないのでバルコニーなどに保管しておくと

もっとみる
春分 第12候・雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

春分 第12候・雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

遠くで雷の声がし始める

夜中に台所で僕は、、、という詩があったけど

夜中に起きて水を飲もうと灯りをつけたら 昼間の花活けで払った枝が流しに活けてあった

この小さな白い花の 今ここで咲く不思議 にこんな夜更けに出会う不思議

咲くことは

とよもす遠雷のように 古く 

いまここで それが聞こえることが 

咲くという 淡く艶やかないとなみ 

花は春の陽に美しいが 

月や夜が彼らの別の姿を

もっとみる
まなかい 立春 第1候・東風解凍(こちこおりをとく) 鬼と春

まなかい 立春 第1候・東風解凍(こちこおりをとく) 鬼と春

節分で穢れを祓い、清め、ハレの持続を願う。場を清め晴らすための花。節分には柊と一位、しだれ柳、アスナロヒノキ、ヒカゲカズラを垂らして幣を掛けた冬の依り代。立春には赤い艶葉木二種を活けて春の依り代。軸は番の鶴と松で睦まじく。演台の金魚と着物の裾の篝火と赤い椿、赤は太陽のみどりご、依り代。東風解凍。金魚も跳ねる。玉川奈々福の声も迸る。水と炎。立春の新玉を震わせる夜。暗香浮動。参道に薫る夜の梅。はればれ

もっとみる