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書評

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#現実

青山美智子(2022)『月の立つ林で』ポプラ社

月をテーマに、同じポッドキャストの配信を聞く人たちのそれぞれの人生の一コマを描く群像劇。百人百様の課題に対して、なぜか沁みてくる配信の声とそれでも向き合わなければのは自分だという現実に、みんな懸命に立ち向かっていく。

現代文学に当たり前のようにスマホやタブレットが登場し、ラジオではなくポッドキャストが心と心を繋ぐ。時代が変わっても、それでも私たちの目の前にある苦しみはいつも変わらない。やりたいこ

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鯨井あめ(2022)『晴れ、時々くらげを呼ぶ』講談社文庫

くらげを雨乞いのように呼ぼうとする女子高生の奇行をアクセントにして、親子関係、他者への関心、夢や優しさという思いの有り様を描く長編。どこか儚げな文体は、ガラス細工のように大切にしたくなる現実を象徴しているようである。

小説を題材にした小説ということもあり、読書好きには楽しい。本好きは物静かだと思われるが、実は真逆であるというのは本当に真実だと思うし、何が好きにせよ興味の向くものに一心に走っていけ

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塩野七生(2010)『日本人へ リーダー篇』文春新書

世界がテロと闘っていた米ブッシュ政権当時の国際政治環境下にあって、古代ローマを扱う歴史家がその含蓄とともに国際情勢と日本の置かれた環境を分析するエッセー集。驚くべきことは、現在のウクライナ侵略を巡る国際政治の有り様と世界が何ら変わっていないように思えること。

賢者は歴史に学ぶというが、ローマの歴史に学んだ著者の、今の我々からしたら一昔前を論評する本書に、また我々も学ぶところが多いというのは感じ入

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窪美澄(2012)『ふがいない僕は空を見た』新潮文庫



人間はどうしようもないほどに、どうしようもなくて、それでも毎日を生き続けている。食べて、寝て、交わって。美しい毎日を生き続けていく。そんなリアルを描いている。

これほどまでに人間臭く描かれたならば、それはもう汚いとか綺麗とかの話ではなく、ただただ現実の色でそこに横たわっているようなものだ。全てを受け容れて次に歩みだす、その背中を押す一冊。

マックス・ヴェーバー著=脇圭平訳(1980)『職業としての政治』岩波文庫



政治とは、崇高な理想の実現のために、人の欲望とかそういう低俗なものを手段として使わなければいけないものだよというお話。それに耐えられる現実主義者が政治家としての天職を持つみたい。

彼の言う「政治」は、聖人の為してきたこととは違うものみたい。自己中心的な革命家のやっていたこととも違うみたいだけど。まぁ、くじけぬ気概が大切だということは、切り出せば、みんな同意するだろうね。