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夜森蓬
2024年6月23日 22:40
#27 恋? 恋?僕は、綾香に恋してるのか?心の中で、僕は1人キョロキョロと「恋」というものを探していた。綾香の顔が浮かんでくる。それ以外の人は、浮かんでこない。カオルンは僕の中で既に「憧れの人」というカテゴリーに分類され、「好き♡」なんて言うのは畏れ多いため、恋愛の対象ではないようだった。マジか…。僕の中に「あり得ないことベスト10」があったとしたら、その上位をか
2024年6月4日 22:58
#26 撮影時に、僕がスマイルを要求されたのは、最後の1枚だけだった。コンセプトの中に「ゴシック」の重々しい感じと気高さ、精巧な装飾人形、無表情、などという要素が含まれていたからのようだ。みんな陶磁器のような白い化粧をした。少し色黒の美咲は首まで白く塗られていた。なのに、僕だけはいつもと殆ど変わらない薄化粧に薄い頬紅まで差された。そんなに僕の顔は蒼白としていたのか?先日の嘔吐から
2024年5月15日 22:16
#25 トイレの鏡を覗くと、おしろいを塗りたくったわけでもないのに、僕の顔は真っ白で唇は真紫色になっていた。頭はフラフラし、身体は力を失ってペラペラな紙人形みたいに倒れそうに揺らぐ。蛇口を捻って、口の中をゆすいだ。まだ少し気分が悪い。「……くそっ。何なんだよ、オレ」冷たい水で顔を洗った。水飛沫が胸を濡らした。胸くそ悪い。とんだ、恥をさらしてしまった。鏡の中の自分を、
2024年4月27日 22:09
#24 メンバーたちから、プレゼントをもらった。『のどケアセット』だという。吸入器とハチミツとのど飴だ。カンパして買ったらしい。それと、個々からもそれぞれもらった。美咲は、紺の手袋とペンケースだった。なぜその組み合わせになったのかは分からないが、ペンケースは汚れてきていて、そろそろ買い替えようと思っていたのでちょうど良かった。デニム地の丈夫そうなものだ。あかりは、陶芸教室で作っ
2024年4月14日 21:34
#23 僕は、綾香からの手紙を机の引き出しにしまった。「はああぁ…」大きなため息が出た。「…昨日までと何も変えなくていいからねって、そんなの無理だろっての!」僕は机の上に突っ伏して、独りもだえながら唸る。「うーん…」落ち着かず、今度は天井を見上げてのけ反っていると、ドアをノックする音がして姉が顔を出してきた。「流伊、もう12時過ぎだよ。寝なさいよ」「…なあ姉貴。
2024年3月25日 23:17
#22 その夜、僕はなかなか眠れなかった。雨を降らした雲は既に遠く、家の外は美しい星空の安らぎに包まれているはずなのに、僕の心臓はドクドクと肋骨を激しく打ち鳴らし、体中に血液を大量に流している。布団の中で、胎児のように背を丸めてジッとしているのにも関わらずだ。それに、暗がりの中、目はバッチバチに冴え切っていた。…明日、大丈夫だろうか?今日は突然で動揺もあり、何も考えられなかっ
2024年3月11日 21:26
#21 スティックティーの発売宣伝イベントが始まった。雨にも関わらず、大勢の人が集まっていた。彼らはてるてる坊主を作る以前に、大雨でも無関係に足を運んでくる人種なのだろう。僕らは、商品をピーアールするコーナーで紙コップにそれぞれの味のお茶を手渡された。美咲は『抹茶オレ』、あかりは『レモンティー』、綾香は『ピーチティー』を「美味しい〜!」「あったまる〜♡」などと感想を言いながら、一口
2024年2月29日 22:21
#20 雨が降っていた。しとしとと地面をじんわりと湿らせていく静かな雨だ。走る車が弾く水の音で、ようやく雨が降っているのだなと、窓から離れた室内にいた僕は感じた。3枚目のシングルが発表されることになった。やはり、夏、秋と出したので、冬も出すことにしたらしい。僕は来年の秋冬はもう『星キャン』にはいないのだな…と、ふと思ったりした。なんでもタイトルは『聖夜の夢』と書いて『クリスマス
2024年2月15日 22:35
#19 中間テストは、思ったほど悪くなかった。ただあの高柳に誤りを指摘された数学の1問だけが悔しくてならなかった。風に落葉が舞い狂う季節。商店街をぶらついていると、偶然に美咲の姿を見かけた。何かを探しているようだった。「彼氏へのプレゼント?」と訊ねたら、なぜか僕に「欲しいものを言え」と脅してきた。僕の欲しいものが、彼氏のプレゼントの参考になるとでも思ったのだろうか。ひどく必
2024年1月25日 23:41
電話に出たときは、元気はなかったが、まだ声が出せていた。それなのに、その翌日から…声が出せなくなる心の病『失声症』になってしまったと、流伊のマネージャーをしている蝶貝誠さん(社長のご長男だという)から聞かされた。あかりと綾香にも、私から伝えた。「流伊くん…大丈夫かなぁ、声出せないなんて、かわいそう…」「うん…今は、そっとしておいてあげたほうがいいんやろうか。ねえ、美咲ちゃん?」
2024年1月14日 15:24
…もうすぐ、クリスマスだ。ジングルベルが商店街のアーケード通りにBGMで鳴り響き出した12月。私は、柄にもなく「プレゼント」を物色していた。 *「美咲ちゃん、知ってる? 本当の誕生日」私は、四ノ宮美咲。アイドルグループ『STAR☆CANDLE』の芸名『星名美咲』として活動している。1番年長の16歳であった為、リーダーに抜擢された。私といま会話しているのは、サブリーダーの
2024年1月7日 23:24
#18 冬の匂いが濃くなった11月下旬。夕方になり街灯に照らされたイチョウの葉が、光を放つように黄色くさざなみ立つのが窓越しに見える。風が強い。僕は、母と共に社長室の窓から、それを眺めていた。「私たちの認識の甘さで、流伊さんは勿論、ご家族にも大変な思いをさせてしまいました。申し訳ございません…」社長は、そう言って頭を下げた。だが、僕はべつに社長のせいだとは思っていなかった。母が
2023年12月30日 23:20
#17 4回目のコールで、彼は出た。ー流伊、か?「そう、だ、よ…」か細い声で僕は答えた。「心配かけて、ごめんな」と言うつもりだったのに、ちゃんと声にする自信の無さから、すぐ言えず…ー大丈夫、か?また、彼に心配の言葉をかけさせてしまった。「ああ…」自分が不甲斐ない。ー何があったのか、後で聞いてもいいか?「…あ、うん。い、言える、範囲…でなら」わずかな沈黙
2023年12月24日 11:58
#16 玄関に立ちすくんだ僕を見つけた母は、何も言わずに僕を抱きしめた。瞬きをすると、涙の粒が弾けてまつ毛を濡らし、視界を歪めた。まだ出勤前の父もやって来て、玄関にうずくまり、僕の靴を脱がし、母と一緒に家の中に僕を誘導した。姉は既に大学の『早朝ゼミ』があると言って、早くに出ていていなかった。2階にどうやって上がってきたのか、覚えていなかった。やはり父が先導してくれたのだろうか。気