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【読書】月の裏側(日本文化への視角) その3

出版情報

  • タイトル:月の裏側(日本文化への視角)

  • 著者:クロード・レヴィ=ストロース

  • 翻訳:川田順造

  • 出版社 ‏ : ‎ 中央公論新社 (2014/7/9)

  • 単行本 ‏ : ‎ 176ページ

著者略歴

著者レヴィ=ストロースは著名なフランスの文化人類学者で、代表的な著作は『悲しき熱帯』である。婚姻関係をはじめとする他グループとのやりとりには規則性(構造)がある、と提唱した。構造主義の第一人者でもある。残念なことに2009年に100歳でお亡くなりになっている。生まれたのは1908年。

日本が世界に還元するもの

 レヴィ=ストロースは、「日本は地理的条件から、アジアからも西洋からも一番上等なものを上手に取り入れて、独自に文化を発達させた。その長い歴史を通じて。何回もそのプロセスを繰り返してきた特異な国。今度はその成果を世界に還元するときが来ているのでは」と述べている。

神話と歴史の連続性

 著者に限らず、日本のことを知った西洋人たちは、みな感嘆する。理由のうちのひとつは、神話と歴史の連続性、だ。

私たち西洋人にとっては、一つの深淵が、神話と歴史を隔てています。反対に、私が最も心を惹かれる日本の魅力の一つは、神話と歴史相互のあいだに、親密なつながりがあることです。

月の裏側 p18

この連続性は、日本を訪れた初期のヨーロッパ人たちに、衝撃を与えずにはおきませんでした。すでに17世紀に、ケンペルは日本の歴史を3つの時代に分けています。伝説の時代(『日本誌』では「天神の時代」)、不確実の時代(「人神の時代」)、真実の時代(「人皇の時代」)です。

月の裏側 p19

 ケンペルは17世紀末に長崎出島に2年ほど滞在したオランダ商館付き医師だ。死後、彼の原稿に基づく『日本誌』が各国後に翻訳された。ヨーロッパの人々に比較的正しく、しかも体系的に日本を伝えた功績は大きい。
 フランス革命の精神的支柱になったジャン=ジャック・ルソーも日本に注目していた。

ジャン=ジャック・ルソーは、1755年に…まだまったく知られていないか、あまりにわずかしか知られていない諸文化を挙げ、現地に行って研究することが緊急に必要であろうと述べ…その概観を次のような言葉で締めくくっています。「……特に日本」

月の裏側 p19

絶対王政でない政治体制。多くの国のあり方を参考にしながら、ルソーは国の「こうあるべき」という理想と作りたかったのだろう。ルソーは日本についても調査したかった。
 もしルソーが仁徳天皇民の竈の話を知り、国民を大御宝(おおみたから)とする考え方を知っていたら、フランス革命はどうなっていただろう。

日本が近代に入ったのは「復古」によってであり…フランスのように「革命」によってではなかった…そのため伝統的諸価値は破壊を免れたのです。

月の裏側 p128

本当にそうかどうかは、私にはわからない。だけれど、そう思ってしまうくらい、そう表現したくなるくらい著者が日本を愛してくれていることは伝わってくる。

西洋の旅行者や思想家が日本に敬意を抱いていたのは…西洋人には相容れないように思われる異なるジャンルを内包し、結合させる能力を日本人が持っていたからなのです。

月の裏側 p19

天岩戸と2つの天孫降臨の地

天岩戸神社を著者は次のように表現する。天岩戸の荘厳さが歴史性へ問い、つまり本当にここでそれが起きたかどうか、を問う必要のないものへと変えていく

マテラス女神の祠(ほこら)のある場所の荘厳さは、この神が岩屋に姿を隠した、古(いにしえ)の物語がここで起こったと信じさせるに足るほどのもので、岩屋は近寄ってみるには畏れ多く、遠くから垣間見るだけとなっています。この偉大な建国神話と、伝承がそれを位置づけている崇高な風景とが、神話の時代と現代の感受性のあいだに、生きられた連続性を保っているさまを実感するのには、この聖地訪問者たちを載せてくるバスの台数を数えてみるだけで十分です。

月の裏側 p128

さらに著者は、天孫降臨の地が2カ所あることについて触れていく。すでに江戸時代には、どちらもが天孫降臨の地となっていたらしい。

九州では、このようなことはまったく問題になりません。人々はそこで、あっけらかんとして神話的空気に浸るのです。歴史性は問題になりません。より正確に言えば、この状況では歴史性を問題にすることが適切ではないのです。天から降臨したニニギノミコトを迎えた栄誉ある土地はここだと2つの場所が主張しても、差し支えないのです。

月の裏側 p19

「あっけらかんとして神話的空気に浸る」。まさにそうだと思う。そういう場所で歴史性を問題にするのは野暮ってもんだよ。
 …こんなふうに思う私は典型的な日本人なのだろう。あるいは…2つの場所が「こちらが天孫降臨の地」と主張せざるを得なくなるような背景に思いを馳せたいかなぁ。よんどころなかったであろう事情。江戸時代よりずっとずっと前の古代の政治的状況、もしかしたら戦闘の状況、心情的な何か。土地も夢を見るという。どんな夢を見たので2つの土地が天孫降臨の地だと主張するようになったのだろうか、と。その上で、天孫降臨の地を訪ねることがあれば、私もまた「あっけらかんとして神話的空気に浸る」のだと思う。天岩戸神社もただその場所とともにいて何か聖なるものを感じるのだと思う。今までの日本の人々がそうしてきたように。それは「起きたことによらない」その場所そのものが持つ聖なる何かを感じ取ることによって。その場所を聖なるものとして守り続けてきた先人に感謝して。

引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。


おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであれば。

ケンペルはオランダ商館付き医師で1690年から1692年にかけて出島に滞在した。彼の死後、日本で見聞したことをまとめた『日本誌』が英語で出版されるとたちまち話題となり、フランス語ほか各国語に翻訳され、後のジャポニスムへ、そして印象派やそれ以降の芸術家にも影響を与えていく。シーボルトも『日本誌』を読んで、自分の目で確かめるべく日本にやってきた。

佛教大学名誉教授の方の監修を受けているそうなので、信頼できるかと。これから学ばせていただくサイトのように思っています。

神話と歴史が連続している日本。そのひとつの象徴が、古事記、日本書紀に記載されている場所に、古来から連綿と寺社仏閣が建っていること。早めに読みたいナ。

マンガで読みやすい。この本で仁徳天皇の民の竈の話や「国民は天皇の宝=大御宝(おほみたから)である」という考え方を学んだ。
青山さんの主張される男系男子論をすべて肯定するわけではないが、この本は日本という国を考える上で、役に立つように思う。

検索したのだが、ネット上で「大御宝(おほみたから)」の解説に良いのがない。この動画が一番本質をよく伝えているように思うので、ご参考に。

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