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人をいたわれ、みんな戦ってる

映画の良し悪しはストーリーよりパンチラインの有無で決めてしまう性質かもしれない。それくらい僕は台詞が好きだ。ビビっとくる瞬間、映画に限らずではあるけども、ここ好きーってなる瞬間って、まるで脳みそが「どうせお前こういうの好きなんだろ」って前もって分かってて保存してくれてたみたいに、鮮明に頭に刻まれるでしょう。あの瞬間が好きだ。

「人をいたわれ、みんな戦ってる」っていう言葉は、「ワンダー。君は太陽。」という映画に出てくる台詞で、なぜだか死ぬほど食らった台詞である。僕の座右の銘ランキングでは2位の位置につけている。こんなに利他の心に満ちているのに、なんて主観的で利己的な言葉なんだろう。この矛盾が素敵。人に優しくあれという命令。文句なしで従おう。

この映画は顔に障害を持った男の子が主人公の物語。宇宙飛行士のヘルメットを被って、顔を隠して登校してるポスターのやつって聞けばピンと来る人いるかな。誰がどう考えたって、この男の子がどうやって成長していくか、どんな試練を乗り越えていくのかの話だと思うじゃんか。実はこの映画、途中で何回か軸が他のキャラクターに移るのがミソ。男の子のお姉ちゃんとか友達とかに。そこがこの台詞に繋がってくる。

みんなが男の子に感情移入し始めたくらいで、お姉ちゃんの目線に切り替わる。いいなあ弟ばっかり優しく丁寧に育てられてて。でも私はお姉ちゃんだし、弟は可哀想な運命を背負って生きてるから、自分は弱い姿を見せられないんだ!って、奮い立たせてる描写が出てくる。この描写が無ければ、まさかお姉ちゃんが障がい者の弟にちょっと嫉妬していることに誰も関心を向けないはず。上手いことできた映画だ。

人をいたわれ、みんな戦ってる。その重さや大小はさておき、みんな色んなものと戦ってる。こいつ今めっちゃ戦ってそうだな。。。っていう奴の隣の奴が、もしかしたら一番戦ってるのかも。ここに気がつけるかどうかで、人との関わり方が変わると思う。ほんとに大事なことだと思う。

でもまあ、いつもこんなことを考えてるから、前にも述べたけど僕は優しきクソ人間なんだろうなあ。誰のことも嫌いになれないんだから。どこかにその人の戦いを見てしまうんだ。だから言われる。お前にはビジネス戦闘力が無いんだと。だけどそんな自分が誇らしい。これでいいと思えるくらいには。

昔に読んだ小説で「ペイフォワード」っていうのがあって。「世の中を変える方法を考えてくる」っていう社会の宿題に、「僕が3人の人に良いことをする。その3人は僕じゃない誰か3人に代わりにお返しをする。その3人はそれぞれ他の3人にお返しをして・・・を繰り返す。そうすればあっという間に全人類が1人1回ずつは良いことを誰かにしてもらえるはず」という発表をしたのが主人公の少年。

なんて素敵な発想。そう考えると僕の無償の優しさが、もしかしたら巡り巡ってこの世界をより良くしているのかもしれない。高田馬場のロータリーでゲボまみれで動けないあの早大生の、失くした財布が交番に届いているのは、たぶん僕から始まった優しさの連鎖の一環なんだ。きっと。

何はともあれ。優しい人に幸あれ。あなたはよく戦ってる。

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