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陶芸の町で伝え続けた野球の魅力…ベネズエラ出身・アレが導く単独出場/高校野球ハイライト番外編・信楽

「見た目と名前で外野が下がるんで、越えたと思ったやつが捕られるんですよ。もうホームラン無理やなーって」。
さわやかな表情で話すのは、信楽の3年生、エルナンデス・アレハンドロ。チームメイトから親しみを込めて「アレ」と呼ばれる主砲は、野球大国でもある南米・ベネズエラの出身だ。

憧れはドミニカ共和国出身のタティスJr.

競技を始めたのは5歳の頃。地域のチームで『小石たち』を意味するというラスピエドリータスに所属していた。「18歳ぐらいまで選手がいたけど、14歳でも3番ショートでした。負けた記憶はほとんどないです」。
メジャーリーグ・パドレスのタティスJr.を「憧れ」と話す有望選手は、競走馬関連の仕事に就く父と暮らすため、母や妹たちと中学1年時に信楽町へやって来る。

ただ、夢を持って進んだはずの高校野球は苦労の連続だった。

入学時の男子部員は3年生の1人だけ。陶芸も本格的に学べる高校には野球部志望の生徒が少なく、連合チームでの大会出場が常態化していた。
「練習の人数が少なくて不安だったけど、諦めたくなかった。上手くなってプロに行きたいから」。1年夏の大会後から、同期で主将の平田阿彩斗と教室を回って部員集めに奔走。言葉の壁やコロナ禍にも負けず野球の魅力を伝え続け、1人、また1人と仲間を増やしていった。

「ベストフレンド」とアレが表現する平田阿彩斗

「熱いアレと優しい平田。二人三脚で良い雰囲気を作ってくれた。やり遂げる力を私が学びました」。山中俊亮監督が感心するほどの奮闘は、アレが最高学年となった今年、ついに実を結ぶ。男子部員が9人に到達し、単独チームとして夏の滋賀大会出場を果たした。
「辛い思いをしても平田がいてくれた。平田の声で頑張れた」とアレが感謝を口にすれば、平田は「あいつが一緒じゃなかったら、去年部活を辞めていた。最初は怖い外国人やと思ったけど」と笑顔で振り返る。9年ぶりとなる単独出場には、「ベストフレンド」でもあるアレと平田の存在が欠かせなかった。

男子部員が9人そろった信楽高校野球部

「友達が少なくて寂しかった時も、町のおじいちゃん、おばあちゃんがいつも『おかえり』の声をくれた。この町が大好き」。将来のために結果を出したい高校最後の大会は、ずっと応援してくれた信楽町の代表として臨む高校最初の大会でもある。
ベネズエラで学んだ技術と、日本で得た仲間と地域。全てを力に変える夏が、いよいよ幕を開けた。

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