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兄はエース、妹はマネージャー…正反対の双子が過ごした最高の時間/高校野球ハイライト番外編・水口東

『エースとマネージャーの物語』と書くと、マンガの世界が想像されるかもしれない。ただ、水口東のエース・今村真大(まさと)とマネージャー・今村光里(ひかり)は紛れもない双子。自他ともに認める正反対の2人は、3年間を同じチームで過ごしてきた。

生まれは甲賀市水口町。家族で甲子園に出かけるほど野球に囲まれた環境で、兄・真大と妹・光里は自然と高校野球に憧れを抱くようになる。

水口中学に通っていた真大。高身長でポテンシャルを評価された右腕は、2017年のエース・瀬古創真に憧れて地元の強豪への進学を決めた。中高一貫である水口東中学の妹と同級生になることはわかっていたが、マネージャー志望だとは思っていなかった。「入学当初は本当に嫌で…グラウンドで一緒にいる時間も少なかった」。

一方の光里。「ずっとマネージャーになりたいと言っていたのに、向こうが本気にしていなかっただけ。ケンカもしたけど譲らなかった」。あまり人前に出ない内気な兄と、社交的でポジティブ思考の妹。多くの時間をともにしながら、ほとんど交わることがないまま2人の高校野球は進んでいく。

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滋賀大会の公式パンフレット

転機は去年の夏大会後。最高学年となった兄が、「チームの成長には自分の成長が必要」と主将に就任。夏の大会前に引き継ぐまで、エースナンバーをつけながらチームの中心を担うようになった。

改めて周りを見てみると、妹の動きが良くわかる。「後輩にアドバイスもするし、マネージャーのまとめ役もしてくれる」。グラウンドで話しかけてこないのは、弱みを見せたくない自分の性格を誰より知っているから。孤独に陥りがちなエースにとって、妹こそ最大の理解者だった。

妹もまた、兄の変化を感じていた。「エースとしてマウンドに上がると、シャキッとしてキラキラしている。小学校の時はずっと泣いていたのに(笑)。他のマネージャーたちにも声を掛けてくれる」。チームの勝敗を背負い、確実に成長していく兄を頼もしく思うようになった。

最後の夏は3回戦敗退 夢見た舞台には届かず

兄はマウンドで、妹はベンチで、力を合わせて甲子園を目指した最後の夏。「ずっと近くにいてくれて、安心できる存在。本当にやりやすかった」と兄が感謝すれば、妹は「真大が野球をしている姿が一番好きだった。こんなに幸せな時間はなかった」と照れながら振り返った。

妹にはもうひとつの夢がある。「一緒に野球を見ながら、真大の考えを聞いてみたい。配球とか投手心理とか」。高校の3年間、家でも我慢し続けた野球の話。「遠慮します」と兄は苦笑いしたが、高校野球の引退後も今村家の幸せな時間は続いていく。

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