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小説

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#ミステリー

『夏草の記憶』 トマス・H・クック

『夏草の記憶』 トマス・H・クック

痛ましく残酷な、青春の愛の物語である。

南部の田舎町で、地元の医師として敬愛されているベン。しかし、穏やかな中年医師の顔からはうかがい知れない深い闇を、その心は抱えている。
妻にも親友ルークにも告げることのできない、ベンの胸に秘めた大きな重荷は、青春時代に起きたある出来事に関するものだ。

ベンがハイスクールの2年生の時、北部の大都会ボルティモアから、一人の転校生がやって来た。
浅黒い肌と黒い巻

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『希望のかたわれ』 メヒティルト・ボルマン

『希望のかたわれ』 メヒティルト・ボルマン

オランダ国境に近いドイツの村。
農夫のレスマンが朝の作業をしていると、道を歩いてくる一人の少女の姿が目に入る。零下10度の寒空というのに、肩がむき出しの薄いドレス一枚だ。
何者かに追われているらしい少女をレスマンは家に助け入れる。

場面は変わり、ウクライナへ。
ここは、チェルノブイリ原発事故により汚染された立入禁止区域。
誰も住まないその土地に打ち捨てられた一軒の家に、ヴァレンティナという女性が

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『二人のウィリング』 ヘレン・マクロイ

『二人のウィリング』 ヘレン・マクロイ

枯れ葉が風に舞う公園のベンチで読むなら、こんな古き良きミステリーはいかがだろうか。
アメリカのミステリー作家ヘレン・マクロイによる、精神科医探偵ウィリング博士のシリーズ9作目、『二人のウィリング』である。

煙草屋で出会った男が、自分と全く同じ名前を名乗っているのを偶然耳にしたウィリング。
不審に思い後を追ってみると、男が向かったのはとあるパーティー会場だった。
そして男は、素性を明かす間もなく、

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『人魚とビスケット』 J・M・スコット

『人魚とビスケット』 J・M・スコット

開いた本のページから冒険の世界が、熱気を巻き起こしながら立ち上がり、読み手を引きずりこむ。そんなファンタジー映画のような現象を起こす小説だった。
ただしその冒険は輝くファンタジーからは程遠い、限界極限サバイバルである。

*****

冒頭は探偵小説のようだ。
人魚とは、ビスケットとは何者か。
語り手である作家が、その謎めいた新聞広告に興味を抱いて書き手とコンタクトを取り、ある過去の出来事を知るに

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『ありふれた祈り』 ウィリアム・ケント・クルーガー

『ありふれた祈り』 ウィリアム・ケント・クルーガー

一年で一番好きな日はハロウィーン、二番めはクリスマス、そして三番目は、花火が見られる7月4日(独立記念日)。
しかしこの年の7月4日は、少年フランクの人生を決定的に変えることになる。

13歳の少年フランク。思慮深い牧師の父。芸術肌の母。音楽の才能に恵まれた姉。吃音を持つ弟。
アメリカ中西部の田舎町の、ありふれた家族。

歳上のワルとの喧嘩に、幼い性の目覚め。
フランクの瑞々しい夏の経験が、いかに

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神様ゲーム

神様ゲーム

『神様ゲーム』 麻耶雄嵩

「神様なんかに関わらなきゃよかった。」。。。

物語は主人公の10歳の少年の目線で語られ、言葉も、文章の体裁も児童向け文学のそれである。

しかし。

父親や同級生との子供らしいやりとりに異物が混ざるように、所々で毒々しい描写が顔を出す。
猫を狙った凶悪事件の詳細や、マガジンで連載中の、主人公が「アリを潰すように女生徒を殺しまく」るという漫画。
そして、なんだか禍々しい

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アニーはどこにいった

アニーはどこにいった

『アニーはどこにいった』C.J. チューダー

「陰気で、冷淡で、愛想に欠ける。閉鎖的でよそ者を歓迎しない。—————町にやってきたものを睨みつけ、去るときには憎々しげに地面に唾を吐く。」

そんな片田舎の元炭鉱町に、悲痛な過去を背負った男が戻ってくる。その目的は。そして、男が戻って来る直前にこの町で起きた痛ましい事件との関わりは。。。

最初の1ページまで最後の1ページまで、ぞわぞわと邪悪な空気

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